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涼しい空気が漂い、薬の匂いが充満する研究室。
机の上に突っ伏したままの彼、アルカは、上の空で今日のことを思い返していた。
突然現れた彼女は、おかしな幽霊を引き連れて、研究室に押しかけた。かと思えば、僕が生きてるだの、死んでるだの言い争いを始めた。
失礼な奴。実験体にしようか。
そもそも人は嫌いなんだ。
自分勝手で、全てを理解したような気になって好き勝手ものを言う人間が大嫌いだ。
そんな人間が、僕の研究室に入らないで欲しい。
さっさと出て言ってもらおう。
そう思って、トウカと名乗った彼女の方に目を向ける。
陶器みたいな真っ白な肌、雪のように白い髪。ルビーの如く輝く赤い瞳が、その白い肌によく映えた。
芸術品のような彼女に、すっかり見惚れてしまった僕は、目を見開いたまま息をすることも忘れていた。
「えぇ、よろしくね。アルカ」
「う、うん…。」
彼女が、僕の名前を呼んだ。
喜びとも、感動とも言えない感情が湧き上がった。
なんだろう、彼女の顔を真っ直ぐに見れない。
あの赤い瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
胸の高鳴りと、名前のない感情の正体に、僕はまだ気づくことができなかった。
「いつ来てくれるかなぁ…あの子…。」
ぼんやりと、研究資料を見つめていた。
同じ行を目でなぞり続ける、もちろん内容なんてこれっぽっちも入ってこない。
「…失礼するわよ。」
ノックと共に入ってきたのは、この屋敷の主、アスカだ。ナイトキャップを被り、ワイン色のネグリジェに身を包んでいる。
「何。」
「そんなに警戒しないでちょうだい。あなた、助手が欲しいんでしょう?」
「そうだけど。」
「ぴったりな2人組を連れてきたのよ。」
「2人?」
「そ。どこで拾ったかは…本人に聞きなさい。」
「え、ちょっと…」
そもそも助手なんて頼んでないんだけど。
僕の反論を聞く素振りも見せないアスカは、「おやすみなさい」と言って部屋を出ていってしまった。
彼女とすれ違うように入ってきた2人の少年。
1人は、暗い色をした髪に紫の瞳。
もう1人は、銀髪に青い瞳をした少年だった。
来てもらったところ申し訳無いが、帰ってもらおう。
「俺、ラン。」
「は…?」
「よろしく。」
「……。」
紫の彼が、こちらを真っ直ぐに見て挨拶をした。
いや、よろしくするつもりなんて、ないけど。
「ほら、お前も自己紹介しとけよ。」
「…アオトです。よろしくお願いします。」
アオト、と名乗った銀髪の少年は丁寧にお辞儀をした。
だから、よろしくなんてしないってば。
「ねぇ、君たち悪いけど…」
「俺たち、逃げてきたんだよ。」
僕の言葉を遮るように、彼は言った。
「逃げた?」
「はい、2人とも家業を継ぐのは嫌で…ルシフェルさんに拾って頂いたんです」
今度はアオトが、僕に事情を説明した。
「お願いします、ここで雇ってください。邪魔にはならないと思うので。」
深くお辞儀をするアオト。
ランはと言うと、真っ直ぐにこちらを見つめたまま何かを訴えかけている。
「あのね、悪いけど僕は…」
「「お願いします!」」
今度は2人してお辞儀してきた。
お辞儀、というか「どげざ」に近いような気もする。
なんだっけな、どこかしらの街区の文化で何かを強く懇願するときや謝罪として使う…とか何とか。
「…わかったよ…。僕の負け。いいよ、雇ってあげる。」
そう言ってやると、2人は顔を上げてあからさまに嬉しそうな顔をした。
曇りのない眼で見つめられては、断るものも断れない。
「よっしゃあ!」
喜んだランが振りた上げた拳が、山と積まれた資料を直撃する。
空を舞った資料達が降り注ぐ中、この2人を雇ったことを後悔したのだった。