この作品はいかがでしたか?
29
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アルカとの対面から、さらに一月の時が流れた。私の「再生」は順調に進み、少しずつ太陽の光を浴びる機会も増えていった。
「ねぇ、カル。」
「んー?」
「私ね、ハルカと仲直りしようと思うの。」
「…へぇーそうか。…は?」
いつもと変わらない、朝食の時間だった。
私はカルに前々から計画していたことを相談してみた。
案の定、驚かれたけれど。
「やっぱり、このままじゃ嫌なの。」
「そんなに思い入れのある奴居ないだろ。
来るもの拒まず、去るもの追わずってな。」
「残念だけど、そんなのごめんだから。
私は、ハルカとあのままでいたくない。」
真っ直ぐに彼を見て、そのままの思いを伝える。
私も、よくここまで心を開いたものだ。
出会いは最悪だったけど、今ではただ一人の相談相手になっていた。
ひと月前の私に言ったら、仰天するでしょうね。
「まぁ、お前がそこまで言うのも珍しいからな。わかった、協力してやるよ。」
「…協力?」
「ついて行ってやる。頼もしいだろ?俺が着いていくんだぜ?仲直りなんて簡単簡単。」
その自信は一体どこから湧いてくるんだか。
小さくため息を吐きながら、カップに入っている紅茶を飲み干す。
「そうと決まったら行きましょ。準備するから待ってて。」
「へーい。」
***
カルが取り憑くぬいぐるみを抱え、太陽の輝く青空の下、街道を歩く。
今日は雲ひとつない晴天で、外を歩くのも気持ちが良かった。
「…雨降りそうだな。」
「本当に?こんなに晴れてるのに…。」
「幽霊の勘ってヤツ? 何となく、雨が降る気がする。」
「そう。」
まぁ、どうせただの勘だし。
カルの言葉を気に止める事もなく、そのまま足を進める。
後方で立ち込める雨雲に、私もカルも気づくことはなかった。
***
ハルカ達を見つける頃には、空はすっかり雨雲に覆われていて、今にも雨が降りそうだった。
ハルカ達の方はと言うと、年端も行かない子供たちが蟻の行列をじっと眺めるようにして
何人かで集まって、何か話し合っている。
その光景をみて、私は嫌な予感がした。
何かが起きる、そんな予感が胸に広がっていく。
この光景に、見覚えがあったから。
忘れもしない、ヒスイが転生してきた時のあの光景に。
「あ、トウカ…!」
「は、ハルカ…あのね、私…貴方に…」
「見て見て!」
目を輝かせた彼が、指を指した。
彼の指さした方向を辿ると、誰か倒れている。
大きく目を見開いて、一瞬息が止まった。
鮮やかな桃色の髪に、ほっそりとした体。
所々リボンで結ばれた可愛らしい洋服を着ている。
直感でわかった、“転生者”なのだと。
「転生者…?」
「そう!びっくりだよね、こんな短期間で来るなんて…。」
「えぇ…ほんとに…びっくり…。」
「僕はこの子の話を聞くから、君は…
なんて言ったらいいかな…その…。」
申し訳なさそうに、目を逸らす。
彼の言いたいことは、言葉にされなくてもすぐにわかった。
「この子から離れろ」、そういうことだ。
「…ねぇハルカ…私、」
「ほら、初めての土地で不安だろうからさ…
そんな時に大勢で押しかけるのもどうかなぁ、と思って…。」
「もちろんトウカだけじゃないよ。他の子にも帰ってもらうつもり。」
「……。」
黙って俯く私に、ハルカは慌ててこうも付け足した。
「…ち、違うよ!君があんな事したからじゃないんだ、むしろあの事は僕も悪かったと思うし…それに…」
「…わかった。」
ハルカの言葉を遮って、後ろを向く。
もうこれ以上、彼の言葉を聞いていたくなかった。
「ごめんね、本当に。」
ハルカの謝罪に返事を返すことなく、ふらふらと帰路に着いた。
奥で、大きく雷鳴が鳴る。
それを合図に、ポツポツと大粒の雨が降り始める。小雨だったそれは、次第に勢いを増して、嵐のような大雨へと変わった。
雨に打ち付けられながら、走ることも無く、歩く。
カルヴァリーは何も言わなかった。
ただ黙って、私の腕の中に収まっているだけ。もしかしたら、もう彼はこの場にいなかったのかもしれない。
雨で顔がびしょびしょに濡れている。
私の顔を濡らすそれが、雨なのか、涙なのか私には見当もつかなかった。
コメント
2件
ハルカくんって、優しいのかも知れないけど。 どうしても、モヤモヤした気持ちになる事してくるw