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agent67
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渋谷と原宿の角にある小さなカフェは、平日の午後でさえ賑わっていた。大きな窓から差し込む陽光がテーブルの金属の縁に反射し、コーヒーカップから立ち上る湯気を照らしていた。窓際の、三人座るにはぎりぎりの小さなテーブルに、ゲンゾウの両親と同じアパートに住む近所の女性が座っていた。彼女は三十代後半で、短く整った髪に、どこか目まで届かない柔らかな微笑みを浮かべていた。
ゲンゾウの母は少し身を乗り出し、両手でラテを包み込むように持っていた。
「今朝、235に書類を提出しに行ったの。来週から通えるって言われたわ。校長先生は落ち着いていて、いい人そうだった。他の学校で聞いたような感じじゃなくて。」
近所の女性はゆっくりとスプーンでアイスティーをかき混ぜながら頷いた。
「ええ、いい選択よ。大きすぎず、騒がしくもない。うちの娘も二年間そこに通っていたの、そのあと私立に変えたけど。先生たちは厳しいけど公平だし、場所も完璧。中心にありながら静かなところ。あなたの息子さんも人混みに埋もれることはないわ。」
ゲンゾウの父は少しぎこちなく微笑み、首の後ろをかいた。
「最初は通学が心配だったけど、歩いて十五分くらいなんだ。大丈夫だろう。あいつ、けっこう自立してるし。」
近所の女性は静かに笑った。
「十五分?東京じゃたいしたことないわ。その年頃なら…本当にあっという間に大きくなるものよ。昨日まで宿題を手伝ってって言っていたのに、次の日には自分で学校を選ぶんだから。」
ゲンゾウの母は夫をちらりと見てから、再び近所の女性に視線を戻した。
「近くに見つかって本当によかったわ。引っ越してから…全部が重く感じていたの。でも、思ったよりうまくやっているみたい。」
三人は小さく、礼儀的な微笑みを交わした。すべてがうまくいくと信じたいときに人が見せるような微笑みだった。近所の女性はグラスに手を伸ばした。
「大丈夫よ。子供は順応するもの。235も評判は悪くない。エリートじゃないけど、しっかりしているわ。友達もできるし、クラブにも入るかもしれない。」
ゲンゾウの父は頷いた。
「ああ…そうだといいな。」
しばらくの間、彼らは心地よい沈黙の中で、窓の外を行き交う人々を眺めていた。会話はやがて軽い話題へと移っていった。天気のこと、新しくできたコンビニ、上がり続ける家賃の話。しかしそのすべての下には、静かな安堵があった。少なくとも、何かは前に進んでいるという。
数ブロック離れた、静かな住宅街の緑の一角で、レンジは大きなケヤキの木の下にある古い木のベンチに座っていた。頭上では葉が風に揺れてささやいていた。彼はコカ・コーラの缶を両手で持っていた。冷たく、結露が指に滴っている。まだ開けていなかった。ただ銀色のプルタブを見つめ、親指で水滴の線をなぞっていた。
通りには誰もいなかった。時折、自転車が一台通り過ぎるだけで、タイヤがアスファルトの上を静かにすべる音がした。そのベンチは、かつてアヤと一緒に座っていた場所だった。会話が簡単で、痛みを伴わなかった頃の。今では、一人には広すぎるように感じられた。
彼は昨日のことを思い出していた。今朝の、食卓の空いた席のことも。母は彼が出ていくとき、一言も話さなかった。ただ赤く縁取られた目で彼を見て、「ちょっと出てくる」と言った彼に小さく頷いただけだった。
彼はついに缶を開けた。静寂の中でその音は大きく響いた。一口飲む。甘くて冷たくて、慣れ親しんだ味。それでも胸の奥のつかえは消えなかった。
同じ頃、さらに数ブロック離れた場所で、カオルは古い病院の中庭に一人で立っていた。長い黒髪が肩にかかり、制服のジャケットは開けられ、スカートは規定より少し短い。彼女は低いフェンスとまばらな木々に囲まれたアスファルトの広場の真ん中に立っていた。患者も見舞い客もいない。ただ風が乾いた葉をコンクリートの上で追いかけていた。
彼女は遠く、病院の灰色の壁を見つめながら、小さな声で、ほとんど独り言のように話した。
「人は…小さなことでは優しくなれる。見知らぬ人に微笑んだり、手を差し伸べたり、優しい言葉をかけたり。でも優しさはただの一時停止。短いもの。本当に欲しいものが目の前に現れた瞬間…すべてが変わる。仮面は外れて、もともと中にあったものだけが残る。」
彼女はゆっくりと手を上げ、胸に軽く触れた。ブラウス越しに指を当てるように。心臓がまだ動いているか確かめるように、あるいはただ体がまだここにあることを思い出すように。
「悪は偽らない。約束もしない。ただ行うだけ。それが正直さ。人は言う、『自分は違う』って。でもみんなそう。まだ境界に達していないだけの人もいるし…もう越えてしまった人もいる。」
彼女は黙った。風が彼女の髪を揺らした。カオルは動かずに立ち続け、病院の壁を見つめていた。まるでそこに答えが書かれているかのように。あるいは、誰かが扉から出てくるのを待っているかのように。
誰も出てこなかった。
彼女はゆっくりと振り返り、急ぐことなく歩き出し、建物の角を曲がって姿を消した。
レンジはまだ静かな住宅街のベンチに座っていた。コカ・コーラは飲み終えていた。缶は空だった。彼はそれを握りつぶし、冷たい金属が指の中でへこむ感触を確かめた。
どこか遠くで、ゲンゾウはきっと通学カバンを整理しながら、来週のことを考えているのだろう。レンジはそれを知らなかった。ただ空っぽの通りを見つめながら、この「一時停止」が今回はどれくらい続くのかを考えていた。