「それで神様が何の用ですか?」
「えっ、リアクションうすっ……」
何事もなかったかのように話を進めようとするネフテリアを見て、グレッデュセントのテンションが一気に落ち着いた。
「まぁ神様が出てくるなんて今更ですし」
「貴女どーゆー人生送ってるのかしら……」
「割と面白い人生送ってますよ」
「でしょうねぇ」
グレッデュセントは呆れた目でイディアゼッターを見る。すると、心外だとばかりにイディアゼッターがため息をついた。
「儂のせいではないですよ」
そして目をそらした。
「まぁそれはいいでしょう。それよりも貴女! いきなり山を氷漬けとは酷いではないですか!」
「………………?」
突然注意されたアリエッタは、何を言われているのか分かっていない。それよりもグレッデュセントが地面から出てきた事が凄く気になっている。
(なにこの人、お嬢様って地面から生えてくるんだっけ?)
「あーすみません、いま何言われたか教えますので」
「え?」
横から滑り込んできたミューゼが、アリエッタを捕まえ、後ろに下がった。
「アリエッター、めっ。あの氷。よくない、ねー」
「ふえぇ……?」
「え、どういう事?」
今のアリエッタの説教には根気強い通訳が必要なのだ。
状況の意味が分からないグレッデュセント。すかさず説明しようとするイディアゼッターだったが、その前にメレイズが立ちはだかる。
「あなた! あなたもアリエッタちゃんを狙ってるわね!」
「……はい?」
「アリエッタちゃんはミューゼおねーさんの事好きなんだから、邪魔しちゃダメでしょ!」
「えっと、そうでは──」
「まったくどいつもこいつも、アリエッタちゃんにも選ぶ権利はあるんだからねっ」
「なんでうちを見るの!?」
神の話を聞かないメレイズは、ニオを巻き込みながらまくしたてる。
その後ろで困った顔になっていたイディアゼッターは……目を閉じて放置した。
「ちょっと助けてよイディアゼッター! この子なんなの!?」
「……知りません」
アリエッタにエルツァーレマイアの絵、そして唐突なグレッデュセントの登場にメレイズの暴走と、色々ありすぎてイディアゼッターは逃げたくなっていたのだ。
さらに、驚愕ばかりだったコメントも、メレイズが騒いでるうちに落ち着きを取り戻しつつあった。
”神様ってなに!”
”すっげぇ美人がにょきって生えてきたんだが”
”なるほど、ヴェレスアンツでは美女が自生しているのか”
”んなわけねーだろ”
”なんか凄い力を感じるのは私の気のせい?”
(もう嫌だ、ここに来る事を了承するんじゃなかった……)
イディアゼッターが後悔している間も、メレイズはグレッデュセントとニオを責め立てている。その横では、ピアーニャがどうやって止めるべきかタイミングを見計らっている。
アリエッタもなんとか山を氷漬けにした事で怒られているのを把握。ミューゼの腕の中でシュンとしている。
”かわいい”
「今夜はごちそうなのよ」
”アリエッタちゃんのしょんぼり顔をオカズにすんな。気持ちはわかるけど”
一同の様子を1歩引いて様子を見ているネフテリアは、どこからどう説明しようかずっと悩んでいるのだった。
「というわけで、たった今ライブに加わったゲスト! ヴェレスアンツの神様であり最深部で待ち構えるラスボス。グレッデュセントさんでーす!」
「わー」
パチパチパチパチ
ネフテリアの紹介に拍手したのはアリエッタとイディアゼッターのみ。状況を正しく理解したミューゼ達は、どう反応していいのか分からない。
ヤケになったイディアゼッターが平原にソファなどを用意し、ゲストありの野外トークライブが始まったのだった。
”え、マジで神様なの?”
「そうよ。転移の塔を作ったゼッちゃんも神様だから、身元の保証はバッチリよ」
結局イディアゼッターの正体を明かし、スムーズ?に進行していく。
”いやいやいやいや”
”なにこの状況……”
「意外と神様って、ゴロゴロしてるもんよ」
”うっそだろ”
「いや確かにたまにしれっと探索して遊んでたりしますが」
”ええええ”
”一緒に修行した相手が神様だったかもしれないのか”
”こええよ!”
コメントのほうも少しずつ馴染んでいた。王女とドレスを着た美女の対談を見て、とりあえずこの流れに乗らなきゃ損だと思ったのだろう。グレッデュセントが本当に神かどうかよりも、とりあえず美女達との会話を楽しむことにしたのだ。
「ところでグレッデュセントさん」
「はい」
「名前長くて呼びにくいです。ゼッちゃんみたいに短くならないですか?」
”そこ!?”
”確かに呼びにくいけどさぁ”
「えーっと、そんなに呼びにくかったですか。まぁ名付けとかはよく分かりませんし……」
”神様なんでそんな自信ないの”
グレッデュセントはこういう対談は初めての経験で、少々緊張しているのだった。
そんな態度を見逃さないネフテリアは、遠慮なく会話をリードする。
「グレさん、グレーデュ、グレーセ……グレース様でいい?」
「勝手に決められた!?」
”なんでヒトのほうが主導権握ってるんだよ”
ネフテリアが知っている神の名前はだいたい長いので、省略できて満足したようだ。
「ではグレース様。なんでドレス着てるんですか?」
”それは気になる”
「何でと言われても、好きだから?」
”戦闘関係ないんかい!”
戦う事を目的としたリージョンの神らしからぬ答えに、ツッコミのコメントが殺到した。
「それじゃあ次。このヴェレスアンツは何層まであるんですか?」
”知りたいけど教えてくれるの?”
「25層よ」
”ええええ普通に答えたあああああ!”
”本当なのか? 本当なのか?”
しれっと答えてしまうグレッデュセントの事が心配になり、イディアゼッターが口をはさむ。
「知られてよかったのですか?」
「いや、ヴェレスアンツ創ってから数億年経つけど、だれも来ないから暇なの。だから新人のフリとかして遊んでるんだけど……」
”そんな理由かよ”
”まだ最高記録は11層だぞ……”
”あの強さで半分かぁ”
”ゴールは分かったのに先が見えないわ”
最終目標が判明した事で、コメントが一気に沸き立った。ただし最後まではそう簡単にたどり着けなさそうである。
それからも、ネフテリアやピアーニャが質問をしたり、コメントから気になった事を拾ったりして、ライブは少しずつ盛り上がっていった。
逆に子供たちは退屈そうにしていた。
「アリエッタちゃん大丈夫? 話分からないでしょ」
「?」
「あ、そうだ。ニオちゃん」
「な、なんですか?」
「あの氷って溶かせる? アリエッタちゃんはアレで怒られちゃったし」
「うーん……」
我慢出来なくなったメレイズが、放置されたままの凍った平原と山を見て、相談を持ち掛けた。不意打ちで話しかけていないので、アリエッタがいてもそんなに驚いたりはしないようだ。
ライブから少し離れて話し合う。その様子を見ているのはパフィなのだが、アリエッタも混ざっているので止める事はしない。
その結果……
「【狼狩の雷砲】」
「【熱閃】」
バチバチバチゴオオォォォ
『ふぁいあー!』
ッゴオオオオオオン
「ひいいいいあああああ!!」
メレイズが放った雷とニオが放った極太の高熱光線が草原の氷を溶かし、アリエッタの戦闘機の模型から放たれた光がメレイズとニオの光を飲み込んで凍った山を消し飛ばした。もちろんニオは轟音で驚き叫ぶ。
『えぇ……』
大人達はドン引きである。
「ちょっと! なんで止めないの!? 私のリージョンがあ! バトルフィールドがああああ!!」
グレッデュセントがパフィに詰め寄るが、
「私がアリエッタを止められると思うのよ? 可愛いから全部見たいのよ」
「交代! 保護者交代してお願い!」
「ムリだ」
「パフィさんにも完全に懐いてますしねぇ」
「氷漬けならまだよかったけど、消し飛ばされたんですけど!」
”神様大慌て”
”いやあれは慌てるだろ”
”トークライブに夢中になってるから”
”ってゆーか、なんであの子達、あんな規模の技使って平気なんだよ”
視聴者を含め、他の大人達は割と諦めていた。唯一の被害者であるグレッデュセントにとっては、たまったものではない。
ニオは前世のせいで魔力が異常に多く、メレイズは準備に時間はかかるが『雲塊』を操っているだけなので、少し気疲れする程度である。
そしてアリエッタは、絵を描いたり色を塗ったりするのに力を大きく消耗するが、発動するにはあまり力を使わない。発動した後の効果は自身の常識や想像力に左右される為、アリエッタ自身の消耗はあまり関係なかったりするのだ。せいぜい発動時の呼び水程度である。
「うわーんもうヤダ帰るー!」
”神様大泣き”
”そりゃ泣くわ”
グレッデュセントは自分が出てきた穴にヒラリと飛び込み、姿を消した。しっかりと下から穴を閉じながら。
”って本当に帰っていった”
”徒歩かよ”
「結局あの神何しにきたんだろう」
「なんでそれをインタビューできかなかったんだ」
なんで泣いたのかよく分かっていないアリエッタは首を傾げ、近くにいたネフテリアに確認。
「こおり、ない。いい?」(氷なくしたけどこれで大丈夫?)
「うーん……ちゃんと片付けたねー、えらいねー……あはは」
”褒めづれぇ”
”犠牲が大きすぎる”
山を消し飛ばした事を怒りたいが、メレイズとニオにもしっかり言い聞かせないといけないので、一旦ライブは終了した。
この後家に戻り、時間をかけて説教した結果、アリエッタはもちろん、メレイズとニオも一緒になって泣いてしまう。ライブ中に怒らなくてよかったと、安堵するネフテリアとイディアゼッターであった。
夜はパフィが鼻血を流しながら全身全霊で慰め続けたのは言うまでもない。