家で一夜を明かし、準備を終えた一同は、再度外へ出た。
大人達は困った顔で立っているが、アリエッタとメレイズの顔がやる気に、ニオの顔は不安に満ちている。
昨晩ちびっこ3人娘には、しっかりとグレッデュセントに対する仕打ちと、山を消し飛ばすなという事を言い聞かせてある。アリエッタにも何度も説明を試みて、ようやく理解しすっかり落ち込んでいたのだが……。
”なんでそんなにやる気溢れてるん?”
「いや、なんか3人で話し合ったと思ったらこんな事に……」
”可愛いな”
”その光景ひっそり見てたい”
”ニオたんはアリエッタちゃんの事怖がってるのに話し合えたの?”
「泣きそうな顔で過呼吸になりながら頑張ってお話してたよ」
”本当に何があったんだ……”
お説教された後、アリエッタ達は次の日どうするかをしっかり話し合ったのだ。主にメレイズとニオによる話し合いで決まった事をアリエッタに必死に説明し、同意を得たのだ。3人の意見はちゃんと一致したようだ。
「それじゃあ……ニオ。見てる人たちに今日何するか教えてあげて」
「うううちですか!?」
「うん、なんか可愛いし」
「どーゆー事ですか……」
”たしかにその弱気なトーク見たい”
”元気なのもいいけどな”
アリエッタに説明させるには、カンペや通訳の準備が出来ていないので今回は除外である。
「えとあの、今回は神様のグレッチュセントさんに謝りに行こうと思いましゅ!」
”……はい?”
”噛んだ”
”噛んだ”
(噛んだのよ)
”かわいい”
ニオが真っ赤になってうつむいた。それでさらにコメントが湧き上がる。
しばらくして落ち着いたら、今度は本題で荒れ始めた。
”謝りに行くって何!”
”あの神様の居場所知ってるの?”
「グレッデュセントが住んでいるのは最深部なので、25層の奥ですね」
”やめとけよ!”
”なんで行こうとしてんの!?”
”人類最高記録が11層だぞ行けるわけねぇだろ!”
「まぁまぁ落ち着いてください」
流石に止めろという意見ばかりのコメントだが、イディアゼッターが優しく落ち着かせる。
そういえばイディアゼッターも神様だったなというコメントが出ると、少しずつコメントも落ち着いていった。しかし全員が信じているわけではない。
信じられてようが信じられてなかろうが全く構わない一同は、そういうコメントは無視して進む事にしている。
ネフテリアはコメントの流れを完全に無視して、これからの行動を発表した
「なんだかこの子達がやる気満々だから、この子達がメインで戦って進みます」
”ええ……”
”まぁでもその子達、強いっていうか破壊力が高いというか”
「この可愛らしさに、みーんなやられてますもんね」
”そっちの破壊力じゃねえ!”
”そうだけど今日のその姿なんなの?”
「今日は一段と可愛いでしょ。あたし達も部屋でおかしくなりそうでしたし」
”おい”
ちびっこ3人娘の本日の装いは、服こそ変わってないものの、アリエッタのメタモルバッジによる変身が加わっている。この前の来賓達への接待と同じように獣の耳と尻尾を生やしているのだ。
前回と同じようにアリエッタはリスっぽい生き物で、ニオはネコっぽい生き物。そしてメレイズがウサギっぽい生き物となっている。初めて耳を生やした時、メレイズは目をキラキラさせて喜び、アリエッタに抱き着いていた。ニオも慣れなのか女の子としての意識が強いのか、アリエッタから距離を取ってはくるくる回って自分の姿を嬉しそうに確認していたのだ。
「あら、私はちゃんと鼻血吹いたのよ」
「うん、わたくしも」
”だめだこの保護者達なんとかしないと……”
”あれ? ピアーニャ様は?”
「うっ」
アリエッタが主導で動けば、ピアーニャは当然巻き込まれる。
丸い耳に縞模様の太い尻尾。レッサーパンダっぽい『タウタム』と呼ばれる生き物である。
”かわいい”
”かわいい”
”かわいい”
「かわいい」
「かわいいのよ」
「かわいいですね」
「ゼンインでおなじコトいうなああああ!!」
怒涛の『かわいい』コメント乱立に、ピアーニャが思いっきり叫んだ。両手を挙げて光妖精を威嚇するピアーニャの姿に、アリエッタは大満足。
怒れるピアーニャをなんとか落ち着かせ、一同はヴェレスアンツの最深部を目指し、歩み始めたのだった。
「うーん、イイ感じね」
「完全に蹂躙してますが」
まずは1層に慣れているメレイズがヴェレストの相手をし、次にニオが自分の魔法に驚きながら群れを殲滅する。そうした流れを作ってアリエッタに出番を渡せば、アリエッタは何をすればいいか理解して攻撃行動をする。
「メレイズって、ミューゼよりアリエッタに言葉教えるの上手よね」
「うっ……はいそうですね……」
「年が近いと色々とやりやすいのよ?」
「それはあるかもしれませんね。お嬢がメレイズさんを弟子にしたのは大正解のようです」
「さすが妹分。お姉ちゃんの為に頑張ったのね」
「ちがう! ゴカイだ!」
結果だけ見れば、アリエッタの為にピアーニャがメレイズを育てたと思われてもおかしくない状況。ピアーニャは必死に否定する。
しかし否定すればするほど、温かい目とコメントが増えていく。
”なんてお姉ちゃん想いな……”
”尊い”
”あれ、目から汗が”
”さすがっピアーニャ様……ブフッ。口では嫌がっていても体は正直で……あははもーだめぎゃはははははっ”
「おいそこのコメントのヤツあとでぶっとばしてやるからなっ!」
攻撃を終えたアリエッタは、やったよ!という視線をピアーニャに送る。だいぶ得意気である。
「あっ、いけないまた出そうなのよ」
「なんでいちいち興奮するんですか……」
後ろではイディアゼッターが鼻を抑えるパフィにツッコんでいる。
今回はちびっこ達が対処しきれない相手が出たら、保護者達が手を出す予定。とくに深層に近くなればピアーニャでも対処出来ないという話なので、イディアゼッターがアドバイザー兼護衛として動くつもりなのだ。
”そういえば、あの神様は下に戻っていったけど、地面掘るとかじゃだめなのか?”
”2層は下にあるってことか”
「いえそういうわけではございません。下には境界があるので通れないのですよ」
「境界?」
「ヒトでは通れない壁のような物とでも思って下さい。世界の境目ですね」
「ハウドラントのソラにあるカベのことか」
「はい」
「ん? ってことは、2層は違うリージョンになってるってこと?」
しれっとリージョンの仕組みについて話をしているせいで、一部のコメントは大荒れ。かわいい女の子達を見ているつもりが、世界の謎という規模のでかい話をあたりまえのようにしているので、そんな話を聞いていいのか不安になっている様子。
「そうとも言えますし、違うとも言えます。リージョンの中でさらに空間別に分けているのですよ」
「なるほどわからんのよ」
「通り抜けできない壁を使って部屋分けしているものと思ってもらえれば」
「なるほどわからんのよ」
「パフィは黙ってて」
なんとなく理解したピアーニャとネフテリアは、頑張って新情報を頭に叩き込み続けている。
「とりあえずズルはできないから、順番に進んでいくしかないってことよ」
「なるほどわからんのよ」
「反射で返事しない!」
大人達がそんな規模の大きな話を進めている間にも、ちびっこ3人娘はヴェレストを蹂躙していく。まだ1層なので相手にもならないようだ。
”うわ幼女強い”
”威力がいちいち強すぎて参考にもなんねえよ……”
”メレイズちゃんだけはマトモだけど”
ニオは威力は高すぎるが普通に魔法を使っているだけ。メレイズは雷などの特殊な能力は使っておらず、変形だけで戦っている。しかしアリエッタは他に類を見ない能力の為、後学の為にと戦い方を研究している人達にとって全く役に立たない情報となるのだ。
よくわからない木の板で相手を止めてしまったり、筆で空中に何かを描いたり、描いたものから魔法のようなものが出たりと、その行動を見るだけでは能力に一貫性がないように見える。威力も効果も予測できないのだ。
「あ、ちっちゃい総長なのよ」
「『雲塊』まで真似したね……」
「もうわち、アイツこわい……」
ミニピアーニャを描いて、『雲塊』を再現。ピアーニャの戦い方をあまり見ていないので、雲を長い針にして後ろの木ごとヴェレストを串刺しにしてしまうだけに留まる。流石に檻に変えたり空を飛んだりというのは、イメージするのが難しいようだ。
戦闘が一瞬で終わると、アリエッタは嬉しそうにピアーニャを抱っこしに走ってきた。
「ピアーニャ! どう? どう?」
「お、おう、すごいすごい」
「にへへ♪」
”あんな苛烈な事してその笑顔は反則”
”ピアーニャ様可愛すぎ”
「なんでわち!?」
こんな調子で和やかに蹂躙を続けていき、早くも2層の入り口へとたどり着いたのだった。
”えっ、動いてたの子供達だけだったわよね?”
”この子達凄すぎない?”
「メレイズはわちがそだてたからな」
「アリエッタは可愛いですから」
「ニオも可愛いわよ」
”それ関係ねぇ!”
保護者達のわが子自慢はともかく、2層の入り口をアリエッタ達は不思議そうに眺めている。
その形は中心にスイッチらしきものが立っている大人30人は立って入れそうな丸い台座と、高い所に浮かんだ光の輪。光の輪からはカーテンのように薄い光が下に落ちている。この光はヴェレストを通さないのだ。
「ほえー」(これまた不思議な建造物)
「それじゃあみんな乗ってー。2層に移動するからねー」
これは2層と1層を行き来するポータル。ボタンを押すと台座に乗っている全員が2層へと転移する仕組みなのだ。
ネフテリアは全員乗ったのを確認し、ポータルを起動した。
シュオオオオオオオ……
「ふやあああ!?」
「キャーーーーーッ!」
「あ、なんだか久しぶり」
”いちいち可愛いなぁもう”
転移の塔で初めて転移した時のように、アリエッタとニオは驚いて叫んでいた。
そしてそのまま2層へと転移したのだった。
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