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那奈は、二校合同の文化祭で人殺しの噂がある刹那を探していた
理由は、那奈が誤っていじめっ子の一人を川に突き落としてしまったからだ。
そして、家で偶然見つけた魔導書を使い刹那との入れ替わりを図っているからだ。
文化祭の日。
文化祭開始のチャイムが鳴り、刹那を見つけに探し始める那奈。
外見は前々から知っていた。放課後刹那のいる高校に張り込み明らか怖がられている生徒を下校中に見つけられればいいからだ。
那奈は計画を綴ったメモ帳をスカートのポケットに押し込み、刹那をなんとか見つけ声をかける。
『あの、赤壊刹那…さんで、合ってますか?』
『ん?ふふ、そ〜だよ。こわぁい噂が多い僕に近づくなんて、君、変わってるね』
フランクで楽観的な声。初めて聞いた話し声だというのに、前々から知っていた旧知の仲だったかもしれないと錯覚する。距離感が近く友好的と感じれるほどの愛想の良さとカリスマ性が、その声から溢れている。
那奈はそのあまりの愛想の良さ、引き込まれる感覚に持ってかれそうになるのをどうにか堪える。折角計画を考えたんだ。
序盤の序盤で破綻させるわけにはいかない。
『あ、あの、一緒に、回りませんか。文化祭』
『僕と?僕がいいの?』
『は、はい』
緊張のあまり舌が口に張り付いて呂律が回らなくなりそうになる。
『ふふ、いーよ♪』
たった一言、確認しただけで警戒心のカケラもなさそうな態度で了承した。あまりの都合のいい展開に、那奈は困惑する。しかし、無理に探って怪しまれるわけにもいかない。
『よろしくね♪無哀那奈さん』
『っえ、ど、どうして名前を…』
静けさから襲いかかってきた言葉に、那奈は心臓を掴まれた気分になる。
しかし刹那は、なんてことない様な軽い笑みで
『そりゃ、あんなあっつい視線で毎日尾行されてちゃ気になっちゃうよ〜』
『あっ…あー…、バレ、てたんです…ね』
『だから、そんな君に誘われて僕嬉しいの..。』
『あ、そ、そうなんですね』
『僕、赤壊刹那。ほらほら、時間が勿体無いから、周りにいこー!』
とっくに気づかれていた事に驚く暇もなく、刹那に容赦なく手をひかれ文化祭をまわる事になった。
刹那と一緒に文化祭をまわるのは、実に楽しかった。ほぼ初対面だというのの、刹那は持ち前の人懐っこい笑みと性格で那奈を楽しませ、笑いかけてくる。食べたい物があれば一緒に食べようと声をかけてくれるし、行きたいけど混んでいる教室があればさっき見たあっちの教室もいいんじゃない?なんて言って上品なエスコートをしてくれる。
ずっと一人っ子で、親との関わりも気薄だった那奈にとって少々過剰とも言えるその優しい対応は、愛と形容したくなるくらい手放し難き貴重なものに思えた。
しかし、計画は実行せねば。
文化祭が終わり、日も傾き始めた頃。
那奈は刹那を人気のない体育倉庫に誘う。学校の備品を盗んだのは初めてだった。
正直穴だらけの相手の判断に任せた、強制力のない稚拙な計画。それでも約一ヶ月間彼女を尾行して、もしかしたら好奇心に任せて従ってくれるのではと、思っていた。
しかしこうも上手くいっていると思わずにやけてしまいそうだ。必死につけあがる己の心を抑えながら、鞄から魔導書を取り出す。
『それで、こんな場所に連れ込んでどーするの?那奈』
えっちな事でもするのー?なんてふざける刹那からは、噂のこともあってどことなく場慣れしていそうな印象を受ける。
『…私と、入れ替わりませんか』
『ンー?いいよ』
『なっ、あっ…へっ!?そっそんな二つ返事で…』
もはや驚きを飛び越して呆れる那奈。計画通りとはいえ予想通りではない。こんなすんなり承諾されるなんて、何が理由だろうか。那奈はそんな思いで頭がいっぱいになり、思わず口を動かした。
『なっ、なんでOKしたんです..』
しかし、刹那に口を塞がれ妨げられる。
『それは、入れ替わった後に、教えてあげるから…ね?』
口を塞がられたまま、魔導書を持っている手を指先でなぞり儀式を促される。
刹那の紫がかった黒い瞳でじっと、見つめられると、誘惑されたくなってしまうような、囚われたくなってしまうような気分になってくる。
那奈が促されるまま辿々しい態度で魔導書を開き始めると同時に、刹那は手を離し、背後に回って儀式の手順を見詰める。
そして、緊張で手が震えている那奈に代わって音読し始めた。
『床に魔法陣を描き、互いの血をその上に垂らす。そしたら儀式完了魔法陣が発動し入れ替わる…と。なんだ簡単だね』
『あっ…でも、そのぉ』
『んー?あ、注釈。しかし、入れ替わる為には互いの同意が必要であ〜るっ』
『なるほどねー、じゃ、ささっと始めちゃおっか。もう魔法陣は描いてあるもんね♪』
『あ、はい…一応』
夕方。しかも体育倉庫の中となると光が薄らとしかささず薄暗い。しかし刹那はすでに用意されていた魔法陣に目星をつけていたようだった。
いつも持っとるのか、制服のジャケットから手慣れたようにカッターを取り出しカチカチと不気味な音を鳴らしながら刃を押し出す。
『えーっと…そ、それで…切る、んですか?』
仮にも殺人鬼と噂されている相手が凶器になり得るものを持っている。ただそれだけでも結構恐ろしい。怯える自分の顔を隠すように魔導書を両手で持ち上げる那奈を見た刹那は嬉しそうに微笑んだ。
『うん、そう、そう!!これで切ろう、ね、ね?』
魔導書を握っていた那奈の手を腕ごと引っ張り、出したカッターの刃を容赦なく腕に押し付ける。血が刃を伝って滴り落ちる。突然のことに那奈は困惑し冷や汗を浮かべながらされるがまま血を親指で拭われる。
『いっ…たっ』
『ふふ、可愛い反応するじゃん君ぃ♡ちょっと気に入っちゃった』
拭った親指についた血をぺろっと可愛らしく舐め、勿体無いと言いたげに眉をひそませながら自分の指もさっさと切りつける。
一連の行動のあまりに躊躇のなさに、呆れから恐怖を抱き始める那奈。
しかしまたも儀式を促され恐る恐る、魔法陣に血を垂らす。魔法陣は淡く怪しい黒い光で倉庫内を照らし、二人の意識をぼやかした。
急な身体のシャットダウンに気づいたのは、めざめたときだった。那奈は寝起きとはまた違う感覚のぼやけた視界と頭をどうにか働かせながら、いつの間にか座り込んでいた自分の体を起こす。ぼやけた視界の中に、両手を後ろで組みにっこり笑みを浮かべ覗き込んでくる自分の顔…。じ、自分の顔!?
『えっあっえ、どうして私…ふえぇ?』
『ふふっ、なーに驚いてんのなーな♡僕たち、入れ替わったんだよ覚えてないの』
優しく親しげに語りかけてくるその言動には覚えがあった。ようやく頭の思考回路のピントが合ってくる。那奈は頭を抑えながらふらりと立ち上がり、脳内で状況を整理した。そうだ、儀式をして…成功、したんだった。確か、うん、そのはず。
『入れ替わり〜、だいっせいこうー!!やったね那奈!お礼に、僕の目的を教えてあげる』
『あ…もく、てき』
『もーその調子じゃ忘れてたねぇ?僕の目的は〜』
見慣れぬセーラー服に、那奈…いや、入れ替わった刹那がとんと指先を当てる。
『趣味の殺人のため!入れ替わった新しい環境で、もっともっともっと!い〜っぱい、人を殺すの!』
『あっ、あなた本当に殺人鬼だったんですね…』
もはや非現実的なこの状況の前では驚く気力も失せてしまった。次は君の番。と、頭を抑えていた手を取り指先を絡めるように握る。
そんな魅惑的な行動に少しどきっとしつつも、那奈は答える。
『私は…その、私をいじめていた…その、人を、川に突き落としてしまって…それで』
『ふふっ、なーんだ入れ替わりたいなんて言うから、どんな目的かと思ったらそんなことだったのね!あはは!那奈ってばかわいーコ♡逃れたかったんだね』
『もうなんとでも言える…です』
刹那にペースを乱されまくり。もう那奈は諦めた顔をしている。
刹那は彼女の両手を柔く握ったまま、笑いかける。
『これからよろしくね!那奈』
『えっえーこれで終わりじゃないんですかー』
『だって折角秘密の共有者ができたんだもん!僕たち、友達になろ。ね』
『えぇ…でもぉ私逃げたくっ..』
『それに、引っ越しもあるしね!!』
『…ぅあ』
そうだった。入れ替わったと言うことは今日から刹那のお家が私のお家。彼女との交友を深めるのは、避けられない。
『…よ、よろしく…お願い、します』
しかし那奈にとっても刹那は一応気の合う人。まあいいかと、いつもと違う身に纏ったセーラー服を眺めながら。
『うん、よろしくね。僕の秘密の共有者!』
そう邪気のない笑顔を見せる彼女は、まるで殺人とは一切無縁そうな、幼なげで混じり気のない、いい笑顔であった。