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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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格闘技系なんて体育の授業でちょっと柔道をかじったことがある程度。実戦経験なんて皆無の京介が、多勢に無勢の状況で、二人の男を叩きのめせたのは奇跡に近い。まぁ元々運動神経が良かったからというのもあるだろう。
だが、残りの三人に一気に襲い掛かられてはなす術がなかった。しかも一人が逆上して刃物まで取り出したからたまらない。
顔や腹に容赦ない蹴りやパンチを食らった上、目の上をざっくり切り付けられて、クラクラしながら、(ガキは逃げおおせたか?)などと考える。
そんな折だったのだ。
「お父さん、あそこ!」
子供の声に、目に己の血が入ってよく見えない視線をゆるゆると向けてみれば、五十代半ばくらいのスーツ姿の男が、同じくスーツを着た壮年の男を一人引き連れてこちらへ歩いてくるのが見えた。
(あのガキ、マジで助け……呼んできたのか)
義理堅いじゃねぇか……と思った京介だったけれど、心の中、(呼んでくるなら警察だろ)と思ったことも否めない。
あんな高そうなスーツを着た男たちが駆け付けてきたからといって、何の助けになるだろう。
そんな京介の予想に反して、背後に控えていた男の方が、一人でいとも簡単に三人の男たちをノシてしまった。
「お兄ちゃん!」
子供の声にぼんやりした視界を向ければ、「なかなか見どころがあるガキじゃねえか」と、年上の方の男から頭にポンと手をのせられる。
その男こそが、葛西組の組長・葛西了道だと知ったのは、京介が葛西組の息が掛かった病院で手当を受けたあとのことだった。
***
あれから二日後――。
京介は葛西組の組長・葛西了道の自宅へ招かれていた。
怪我をしていてもどこ吹く風。
社長や同僚らに『何があったんだ!?』と心配されながらもいつも通り淡々と仕事をこなして家路へついた京介に、ここ数日見かけなかった母親が物陰からいきなり現れて、当然のように話しかけてきた。
京介が無視していてもお構いなし。しつこく後ろを付き纏っては「ねぇ京介! ハンサムな顔が台無しじゃない! 一体何があったの!? お母さんに話して!」と金切り声をあげながら、隙あらば京介に触れてこようとする。
そんな女に辟易しつつ、完全無視して足早に歩いていたら、見るからに高級そうな黒塗りセダンが滑り込んできて京介のすぐ横へ止まった。
「――?」
キョトンとする京介の目の前、後部シートから降りてきたスーツ姿の男――京介が苦戦した男ら三人をいとも簡単にノシてしまった男――に、「一緒に来ていただけますか?」と恭しく頭を下げられた。
「京介!」
ハッキリ言ってクソ女の追従にうんざりしていた。いつもなら付いて行かないところだが、京介はふとあることを思いついて、うなずいた。
そうして連れてこられたのがここ――葛西了道の家――だったのだ。
威風堂々とした日本家屋の中、イグサの香りが心地よい畳の間で、京介の目の前には先日世話になった了道と、その横にちょこんと正座をした了道の娘がいる。
女の子は言うまでもなく先日たまたま町で助けた子で、名を葛西琴音といった。
つい今し方、了道から聞かされて知ったのだが、琴音は了道が五十五歳の時に出来た、目に入れても痛くない一粒種の娘で、いま小学五年生らしい。
了道の前妻が病気で亡くなった後、後妻に入った二十も歳の離れた後添えが産んだ子とのことだった。
「前の妻は身体が弱くて子に恵まれなくてな」
そう言って吐息を落とす父親を見つめる琴音が一体どんな気持ちでいるのか、親子の情に疎い京介にはイマイチよく分からなかった。
あの日、琴音は塾の日で、娘が可愛くてたまらない了道は授業が終わるころ迎えに行くと伝えていた。だが、仕事が押して約束の時間に遅れてしまったらしい。
塾を終えて建物の外へ出てきてみると、いつもなら来ているはずの迎えがない。父親の稼業を知ってい琴音は、『木乃伊取りが木乃伊になる』という言葉を知らなかったわけではないのに、不安に駆られてつい動いてしまった。自宅までの道のりの途中、暑さに負けてコンビニでアイスを買って出てきたところで、運悪くトラブルに巻き込まれた。
そこへ、たまたま京介が居合わせたのだ。
病院でことの顛末を、申し訳なさそうにうなだれた琴音自身から聞かされていた京介だったが、小学生のすること。塾から出てきて迎えが来ていないとなれば思わぬ行動に出てしまうこともあるだろうと思ったのを覚えている。
それより何より塾へ行かせてもらえて、親の送迎付きとか……ネグレクトを受けていた京介からは考えられない待遇の良さで、目の前の少女が両親から愛されて育っているのをまざまざと見せつけられた気がした。
そこで自分を産んだ女が、してきた所業。そうして、今まさに現在進行形でしていることを思って、吐息を落とさずにはいられなかった京介である。
***
素人の京介が、五人のうち二人ノシて、三対一というだけでも不利だったのに、不意打ちのように男たちの一人から刃物で切り付けられた。
額をざっくり割られた京介を見て、目でなくて良かったなと了道が言って、確かに……と思ってしまったのを覚えている。
結局なんだかんだで四針ほど縫う羽目にはなったけれど、前髪で隠れる位置だ。どうってことない。
だが、自分のせいで眼前の京介に怪我をさせてしまったと思っている琴音は割り切れないらしい。始終泣きそうな顔で京介の方を見ている。
「――で、怪我の具合はどうだ?」
そんな娘を気遣いながら了道が尋ねてきたのだ。
「――ああ、何か大袈裟なことになっちまってますが、見た目ほど大したことはありません。すぐ病院へ連れて行って頂きましたし、大丈夫です」
そう答えながらも、まだ口の端や目尻の辺りに鬱血痕が残っているし、なんなら左瞼は腫れたままだから、きっと目の前の少女からは全然大丈夫そうには見えねぇんだろうな……と内心苦笑する。
実際、見た目に反して痛みは大したことなかったし、幼い頃、母親が連れてきた男からなす術なく一方的に暴力を振るわれたときよりよっぽどマシなのだ。
(ま、ンなこと言っても詮無い話か)
「ごめんなさい……」
とうとう我慢しきれなくなったみたいにポロリと涙をこぼして謝る琴音に、京介は
「俺が勝手に巻き込まれに行ったの、忘れたのか? だからそんなに気にする必要はねぇよ」
そう言って、了道の前だというのも忘れて思わず頭を撫でてやらずにはいられなかった。
そのやり取りを無言で見詰めていた了道が、おもむろに口を開いた。
「――とはいえ、うちの娘のせいで関係ねぇ堅気さんにそんな怪我ぁさしといて、何も慰謝料無しってぇわけにゃーいかねぇんだよ」
そこまで言って、
「――おい、北野」
そう声を掛けると、障子の向こう側に待機していた人影が動くのが見えた。
そうして今――京介の目の前には札束が十、鎮座ましましている。
(嘘だろ……)
たかだかほんの少し怪我をさせられただけで一千万。あるところにはあるんだなと思わずにはいられない。
「何も言わずに受け取ってくれや」
スッと京介の方へ札束を押しやってくる了道に、京介は小さく吐息を落とした。
そうして意を決したようにここへ連れてこられる際、一か八かで頼んでみようと思っていたことを口の端に乗せる。
「慰謝料代わりに俺をこの組に入れてもらえませんか?」
世話になった大洋土建へ迷惑を掛けないため……と、あそこを辞めたとしても、恐らくあの女は京介が転職するたびに目の前へ姿を現すだろう。
だから京介は、クソ女が自分に近付くのを躊躇わずにはいられないような職業に就く必要があった。
そう考えた結果、葛西組の世話になるのが一番だと思ったのだ。
京介の言葉に瞳を見開いた了道だったけれど、そう考えるに至った京介の話を聞くと、静かに「分かった」と言ってくれた。
そうして……了道自らが盃わけをしてくれたのである――。
ひとまず部屋住みの若い衆として、京介は了道の家に住み込んで、琴音の世話係をするよう任じられた。
今から二十一年前のことだ。
京介は葛西組で働きながら、免許は必要だからな、という……了道の計らいで、車の運転免許証も一切の持ち出しなしで取らせてもらえた。
了道の最愛の娘を身体を張って守った〝褒美〟として極道の世界へ入った京介が、葛西組の中で優遇されたのには、そういう理由があった。
コメント
2件
そういう経緯があったのかぁぁぁー!
あーこれめっちゃ良かった…! 助けた子がまさか組長の娘で、その縁で自ら極道の道を選ぶって流れ、熱すぎるだろ🔥 一番刺さったのは、母親から逃げるために「クソ女が近付けない職業」として組を選んだところ。冷静で現実的な判断なのに、結果的にオヤジや琴音との絆が生まれてるのが良い…。そして琴音に「俺が勝手に巻き込まれに行った」って頭撫でるシーン、京介の根っこの優しさが滲んでて泣けるわ。次、琴音との関係がどう育つのかマジで楽しみ!