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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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芽生の誕生日兼クリスマスパーティーを数日遅れで祝ったあと。
アルコールが入っていた面々をタクシーに相乗りさせて送り出した芽生と京介である。
「静かになっちゃったね……」
皆でワイワイガヤガヤ騒ぎまくった後の静けさは何とも言えない雰囲気で、芽生は今更のように京介と二人きりになったことを意識しまくってしまう。
こんな時、ムードメーカーになってくれる殿様もあちこちで大勢の人たちに媚びを振りまくった結果、疲れてしまったんだろう。ソファの上にヘソ天状態で熟睡していた。
眠っているはずなのに薄っすら開いているように見える目と、半開きの口から覗く鋭い牙と小さな舌が可愛くて、思わず京介と二人で笑ってしまってから、思いのほか顔が近いことに気が付いてドギマギする。
「あ、あのっ。きょ……」
京ちゃん、といつも通り。目の前にいる愛しい男のことを呼ぼうとした芽生は、買い物の際に長谷川社長から聞かされた話を思い出して何となく躊躇ってしまった。
「ん? どうした?」
そのことを不審に思ったんだろう。京介が怪訝な顔をして芽生の顔を見つめてくる。
芽生は言うべきか言わざるべきか迷って……うまく切り出せなくて結局言葉に詰まった。
代わりに誤魔化すように「お腹いっぱいだね」と腹をさすったら、一瞬だけ何か言いたげな顔をした京介だったけれど、「ああ」と答えてくれて、内心ホッとする。
冷蔵庫には、京介が芽生の誕生日――十二月二十五日――合わせで頼んでくれていたバースデーケーキとは別で頼み直してくれたらしい生クリームケーキの残りが2ピース分入っていた。さすがにこんな満腹状態では、明日以降でないと食べられそうにない。
「前食べたのもすっごくすっごく美味しかったけど、今日のケーキもめっちゃ美味しかったね」
みんなでワイワイ言いながら切り分けて、切り方が下手くそで少々ぐしゃっとした雰囲気にはなってしまったけれど、それがまたアットホームな感じがして楽しかったなと思い出した芽生が、ふんわりと口元をほころばせる。
「あー。俺は前に食ったタルトの方が甘さ控えめで好みだったが……まぁ、お前がどっちも美味いと思ってくれたんならよかったよ」
言ってククッと笑った京介を見て、芽生は寝込んでいた時に京介が食べさせてくれた9号サイズの大きなケーキのことに思いを馳せた。あれは艶々にナパージュされたフルーツが宝石みたいに綺麗なタルトケーキだった。ふんだんに使われた甘さ控えめのカスタードクリームからは卵の風味がしっかりして本当に美味しかった。
さすがに二十三本も蝋燭を立てるのははばかられたので、2と3の形を模した蝋燭に火を灯して吹き消した後、二切れ分ほど京介と切り分けて食べてから、残りは相良組のみんなへ持って行ってもらったのだ。
「みんなはどっちが好きだったのかなぁ」
数日間の間に二つのケーキを食べることになるのを懸念してくれたんだろう。わざわざ違う種類のケーキを頼んでくれていた京介は、やはり気遣いの出来る人だ。
どちらにも芽生の誕生日を祝うメッセージが入っていたのには驚かされたけれど、同じ年に二度も……クリスマスケーキではなく〝バースデーケーキで〟お祝いしてもらえたことが、芽生は凄く新鮮で嬉しかった。
「私のために色々してくれて、本当に有難う、きょ……」
スッと口から出そうになった〝京ちゃん〟という言葉を何となく再度濁す形で不自然に語尾を誤魔化したら、そんな芽生の心の機微を感じ取ったんだろう。
京介が「バーカ。さっきから何、変な気ぃ遣ってやがる」と微笑んで、芽生の頭をポンポンと撫でてくる。
「長谷川から何の話を聞かされたのか知らねぇーが、お前はお前のままでいろ。――俺の名前を呼ぶことをいちいち躊躇うな」
買い出しから帰ってきてこっち、芽生が京介の名を呼ぶことを戸惑っていることに、彼は気付いていたんだろう。
小さな吐息とともに京介からそう言われた芽生は、大好きな男をじっと見上げた。
「いい、の……?」
「いいに決まってんだろ……。っていうか……」
そこでちらりと爆睡を決め込んでいる殿様に視線を投げかけて、京介が言う。
「お前にまで名前を呼ばれんのが怖ぇって思ってたのは、昔の話だ」
「……え?」
「今は……お前がそんな風に俺の名を呼ぶのを躊躇うのを見る方が辛ぇって分かったわ。――だから……その、上手く処理できるかどうか分かんねぇけど……試しに呼んでみてくんねぇか? ……俺の、名前」
京介の言葉に、芽生は心底驚いて、恐る恐る「……呼んでも、いいの?」と問い掛けていた。
そんな芽生をじっと見下ろすと京介が芽生の左手をそっと握って、薬指に嵌められた指輪を撫でる。
「お前は……俺が自分で選んだ、家族にしてぇと思えた唯一の女だ。だから……むしろ呼んでみて欲しい」
京介の、どこか懇願するような眼差しに、芽生はこくんと生唾を飲み込むと、震える声で恐る恐る、
「……京介」
と初めて彼の名を呼んだ。
その瞬間、京介が芽生を腕の中へグッと引き寄せて、「おう」と、どこか照れ臭そうな顔をして短く答えるから――。
腕の中の芽生が京介の代わりみたいにポロポロと涙をこぼしてしまう。
「私ね、京ちゃんの〝相良京介〟って名前、初めて見たときからかっこいい京ちゃんにぴったりの名前で大好きだって思ってたの。京ちゃんにこれほど似合う名前はないってずっとずっと思ってた! だからね、京介って呼ばせてもらえて……すっごくすっごく嬉しい! 有難う!」
その言葉を聞きながら、京介は礼を言いたいのは俺の方だと思った――。
***
本当は芽生にですら、〝京介〟と呼ばれることに嫌悪感を覚えてしまうのではないかと怖かった京介である。
だが、長谷川と出かけて帰ってきてからこっち、芽生がいつものように自分のことを〝京ちゃん〟とすら呼んでくれないことを寂しく感じていることに気付かされて、ハッとした。
(俺は……芽生に名前を呼ばれるのが嫌いじゃねぇって、こと……か?)
いや、嫌いじゃないというよりむしろ――。
呼ばれないと考えると足元がぐらつくような危機感すら覚えてしまう。
母親に呪いのように呼ばれ続けた〝京介〟という名前は、今までずっと〝自分のもの〟というより〝クソ女が愛した男〟の名であり、〝自分を捨てた父親〟の名だった。
その名は単なる〝文字の羅列〟で、矮小な自分を指す〝記号〟で、その〝響き〟で自分を呼んでくる人間は、実際には京介のことなんて見てくれていないと知っていた。
だが、芽生が震える声音で真っすぐ自分を見つめながら「京介」と気遣うように、大切にその名を呼んでくれた瞬間、そんなのは杞憂に過ぎなかったのだと思い知らされた。
そうして今更のように悟ったのだ。
ずっと、芽生からそう呼ばれてみたかったということに――。
芽生の口から「京介」と呼ばれた瞬間、今までは単なる文字の羅列で、呪いでしかないと思っていた自分の名前が、初めて〝自分のもの〟だと思えた。
芽生に短く「おう」と答えながら、京介は初めて自分の名前が〝相良京介〟なのだと認識した。
京介は腕の中の芽生を、熱のこもった目で見詰めると、
「なぁ芽生。俺、いま無性にお前に俺の全てを知って欲しいって思っちまってる。――お前は……どうだ? 俺の全部を受け止めてくれるか? お前を……俺にみんなくれるか?」
そう問わずにはいられなかった。
そんな京介に、芽生が恥ずかしそうにコクッと頷くから、京介は芽生をグイッと横抱きに抱え上げた。
***
芽生は、てっきり京介から『どっちの部屋がいい?』とか聞かれるかと思っていた。
でも京介は最初から選択肢はひとつだったみたいに迷いなく自分の寝室へ芽生を運んだ。
「あ、あの……京ちゃん……?」
京介に、壊れものでも扱うみたいにそっとベッドの上へ降ろされた芽生は、間接照明に照らされた薄暗い部屋でソワソワと幼い頃から憧れてきた大好きな男の顔を見上げた。
京介の寝室へ入るのも、彼のベッドへ寝そべるのも初めてではない。初めてではないけれど、ただ添い寝を求めたあの日と、今日とでは違う。
そのことを意識した芽生にとって、京介のにおいをふんだんに孕んだ彼の寝具はとても凶悪なものになった。ここにいるだけで京介の存在を強く意識し過ぎて心臓が口から飛び出してしまいそうになる。
それで、芽生は違うことに意識を向けようと必死になった。
(きょ、京ちゃん、私の髪の毛を押さえつけないよう、気を付けてくれているのかなっ?)
スーツのジャケットとベストを脱ぎ捨てて、片手で軽くネクタイを緩めた京介が、芽生の顔横へ両腕をついて見下ろしてくる。そんな京介を見上げながら気持ちを切り替えようと頑張った芽生だったけれど、ふと見た京介の胸元の男らしい色香にトクンッ! と心臓が跳ねて、結局は元の木阿弥。
間接照明とは別。ほんの微かに窓の外から月明りが差し込んで、京介の頬を照らしているのでさえ色っぽく感じさせられてしまう。しかも京介の表情は、今まで芽生が見たことのない〝男の人〟の顔になっていたから、触れられてもいないのに、京介からの熱が伝わってくるようだった。
そんな京介を見ていたら、再度今から起こることをやたらと意識してしまった芽生である。
(やーん。どうしよう! ほっぺたが熱いーっ)
自分からは見えないけれど、恐らく頬も上気してしまっている。
なんとなくの知識。
元職場の同僚や友人などから色々聞かされて、経験はないのに知識だけは豊富になってしまっている耳年増な自分のことを今日ほど呪いたくなったことはない。
今から京介が自分をどうするのか考えると期待とともに、不安が押し寄せてくる。
コメント
2件
ひゃー、名前呼びもさることながら、もしやもしやだ、二人の初めての…が始まるのでしょうかぁぁぁ!?ドキドキ
ああ〜〜もう!!!待って待って!!めっちゃエモい展開きた!!😭💕💕💕 「京介」って初めて名前呼んだ瞬間、京介が照れ臭そうに「おう」って返すとこで完全に涙腺崩壊したよ…!!しかもあの名前、ずっと呪いだったって背景が重すぎて、芽生ちゃんが呼んで初めて“自分のもの”になったって流れが深すぎる…もう尊くて言葉にならん😭❤️ そして「俺の全部を受け止めてくれるか?」って聞く京介も、コクッて頷く芽生ちゃんも尊い!!続きが気になりすぎて今夜眠れない…!!