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数秒の時間経過だけであった、いまだその姿こそ目にする事は適わなかったが、遥か遠くの空から届いた声は、本能によって大きく上げられたであろう、ジグエラの叫びに他ならなかった。
彼女の飛翔速度であれば程無くこの場に帰り着く事だろう、そう安堵の息を吐いたギレスラの耳に聞きなれない野太い声音が響いた、千尋(せんじん)の谷の向こう、それも遥か上空からであった。
『グガァーーーッ! むっ! どうしたのだ幼き竜よ、んん? 赤き鱗、か? ジグエラの仔かな?』
『グガ? ダ、ダレェ?』
突然現れた声の主は巨大な首長竜である。
所謂(いわゆる)ズメイ種だ。
その特徴はでっぷりとした体躯に、異様に長く伸びた首、反して極端に小さな頭部を持った、言うなれば古代に滅亡した草食恐竜の如き姿に、申し訳程度の翼を首の付け根に付けている、この時代の竜の中で最大種にして、希少種、つまり超珍しい雄竜なのであった。
『誰ってか? 俺はガイランゲルだぞ、そんな事よりピンチじゃないのかな? 小さき赤竜、ジグエラの仔よ?』
遥か上空まで延びているズメイ種、ガイランゲルの顔を見上げてビビリ捲っているギレスラの代わりに大きな声を出したのは、図体の割に頼り甲斐が無い、そう判断されたザンザスだった。
『おお、ガイランゲルの旦那ぁ! ヤバいんだよ、そこに倒れている獣奴(じゅうど)、豚猪(とんちょ)のヴノが息をして無いんだ! 何とか助けてやって欲しいんだがぁ、どうだい? 旦那ぁ!』
巨大なズメイは太い首を僅(わず)かにザンザスの方に向けてからもったいぶったように言う。
『ふむ、なるほどなぁ、ヴノはお前ザンザスの友、いいやたった独りきりの兄だからなぁ、救う事は吝(やぶさ)かでは無いがぁ…… それをする前に、コイツのスリーマンセル、ジグエラから直接頼まれるほうが良いなぁ~、ふへへへ、あれはいいオンナだからなぁ~? アイツが俺に頭を下げる、ふへへ、想像するだけで産卵しちまいそうだぜぇ~、ふへへ、ふへへへぇ』
下卑た笑いが場に響く中、風を切り裂く羽ばたきがその声を掻き消し、キョトンとしているギレスラの真横で止まる。
『ガアアァァーッ! ギレスラ、アタシの背に早くっ! グルルゥッ! ん? ザンザスとガイランゲルじゃないか! 何だいアンタ等、アタシの子供達をどうする気なんだいっ! ガアァーッ!』
『チ、チガウッ――――』
怒り狂うジグエラはギレスラの小さな声には反応せずに口の脇から灼熱のブレスを漏れさせ始めて臨戦態勢だ。