コユキにしては珍しい事に、本心の嘆きを聞いても、鬼の捜査官リエは冷静な声でリョウコとヒロフミ、母ミチエに問いかけるのであった。
「ふむ………… 皆、どう思うかね?」
最初に反応したのが母、ミチエであった。
「んねぇ、リエちゃん! コユキちゃんだって謝ってるじゃないのよ? もう許してあげましょうよ? この子はダメな子だけど、ダメでダメでどうしようもない子だけどさ…… 殺す前にもう一回だけ信じてあげない? ねぇ、だめぇ?」
なるほどね、腹を痛めて生んでくれた母親でこの評価、ラスト一回だけか…… ふぅ……
ふうぅ~、因果応報ってやつか、コユキ、ピンチ編継続だなコリャ、仕方ない!
次に口を開いたのは父、ヒロフミであった。
「お母さん、そうやって甘やかすからこんな風になっちゃったんだろう? もう、我々のタスクに於(お)いて重きを置くのは『孫』、孫達だろう? 何でこんなに可愛いのだろ~! 嫁がず娘の何百倍も~! じゃないか? ね、この際、殺そ! ね、ね、そうしましょ? お母さん!」
「ひぃぃっ!」
母、ミチエが静かな口調で告げた。
「コユキ…… ご飯をいっぱい食べてもいい…… 気持ち悪い漫画やアニメに夢中になっていてもいい…… 只ね、アンタと違ってまともな家族に迷惑かけるのは止めなさい! 恥ずかしくないの? リエもリョウコもアンタと違ってちゃんとしようと努力して、頑張って、その結果があの可愛い可愛い孫たちなのよ? 何一つまともじゃなかったアンタが踏み込んでいい世界じゃないのよっ!」
この言葉はコユキには効いた、反省したとかじゃなくて、何でこんな事言われなきゃならないのかと、ここまでの自分の信用されるわけもないゴミ同然の人生を生まれて初めて恥じたのであった。
「えぐっ、えぐっ、アタシはぁ、半年前に、えぐっ、皆が死んだようになった時を、思い出しちゃってぇえぐっえぐっおええぇぇ、えぐっ――――」
リエが冷静な声で言い放ったのである。
「ふむ、どうやら嘘は言っていないようではあるが…… どうだろう? この野獣にもう一度チャンスを与えるべきであろうか?」
と……
母ミチエは大仰(おおぎょう)に頷き、父ヒロフミは消極的ながらも賛意を示しているようである……
リョウコもコユキの慟哭(どうこく)に些か(いささか)たじろぎを見せているようであった。
それらを見回した後でリエはコユキに告げたのである。
「仕方ないな…… 今回、いや本件は嫌疑不十分に依って不起訴相当とする! ただし覚えておけよ…… 再び同様のキモワル案件が生じた場合は、地獄の底まで追い詰めて、必ず有罪にしてくれるからなっ! 分かったか!」
「う、うん、リエちゃん分かったよ! ってか、アタシ甥や姪に抱き着いただけで有罪、なの?」
リエはニヤリとした笑顔を浮かべてコユキに告げたのであった。
「そりゃそうだよユキ姉! いざ疑われてからアタシはノーマルだって主張するよりもさぁ、普段の行動で示していなけりゃ誰にも理解されないんだよぉ! 今日だって、もしも善悪(よしお)ちゃんと結婚とかしていたらさぁ、疑われる素地とかなかったんだからねぇ? 善悪(よしお)ちゃんと結婚とかしてればねぇ? こんな思いもしなかっただろうねぇ? ね! 善悪(よしお)ちゃんが旦那さんになっていたのならねぇ? いいか? 善悪(よしお)ちゃんと結婚していれば無罪! んでも今回は不起訴処分相当なんだからね! 次は無いよ! 無いんだからねぇっ!」
なるほどね、流石はリエちゃんだな、ユキ姉結婚大作戦、まだ諦めていなかったと見える……
中々に執念深い、し、チャンスを逃さない観察力も凄いといえよう!
その証左にコユキは考え込んでいた。
善悪と結婚、結婚の善悪、善悪が結婚、結婚に善悪、とかパラノイア的に言っている、焼き付け完了のようであった! ナイス! サブリミナル!
思わず喝采を贈る、二人が結ばれなければそもそも存在しない孫、私観察者である、あんがとリエ大叔母さん…… 存在を守ってくれて……
そんな風に、コユキから見て可愛くて可愛くて愛らしくてマジ天使で目の中に入れて目が潰れたとしても、何ら悔やむことがないであろう、マジ天使孫バージョンな私は思ったのであった。
コユキは空きっ腹もなんのその、この針の筵(むしろ)の実家から、未来の旦那様、善悪が待つ幸福寺へと避難を決め込んだのである。
「あ、やばっ! 今日は善悪と打ち合わせの予定があったのよぉぅ! 皆との楽しい会話を続けていたかったけどもう行かなきゃ! ごめんね、また今度ねぇぇぇぇ!」
ピュゥーっと起き抜けのスウェットのままで姿を掻き消すコユキであった、いつものツナギは茶藤家の物干し竿で風に揺られていた…… 平和な日常であった。
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