【注意書き】
「饅頭こわーい」です。
李 雲嵐
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周 青蔚
※舞台は中国(とは言っても中国については世界史でやったくらいの知識量しかないのであくまでもなんちゃってです。)
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「饅頭美味しいよ!寄ってみないかね!」
「わあ!饅頭!?」
いつもの如く賑やかな宋の街に突然、一人の乞食_周青蔚の声が響いた。
「なんだ、物乞いか。お前が近寄ると客引きできないだろうが。早くどっか行け!」
顔も見たくないと言いたげに追い払うような仕草をした商人を横目で見つつ、周青蔚は話を続けた。
「そ、それが、饅頭が怖いあまり腰を抜かしてしまって…」
「誠に信じ難い話だな。そんな奴がこの世にいるのなら是非ともお目にかかりたいものだ。」
嘲笑いながらも、数少ない自分の話に耳を傾け聞いてくれる人は貴重であると、周青蔚は今と言わんばかりに話を続けた。
「なかなか誰も信じてくださらないのです。ですが私は嘘などついておりません…!」
「本当か?…まあ、その口振りからは嘘には思えまい。信じてやろう。これも何かの縁だ、暫し待たれよ。」
そう言うと、今しがた鬱陶しげにしていた商人の口元に弧を描いた。
「此処の空部屋を使うが良い。腰が抜けて暫く動けぬのならば、程よい休み処にはなるのではないか?」
「貴殿のお心遣いに感謝します!」
周青蔚は商人に対し拱手する間もなく空部屋へと足を踏み入れた。
(やはりあの物売りは大当たりだったか。…しかし俺が物乞いの振りをせねばならぬとはとんだ屈辱だな……それにしてもこの饅頭の量…一介のごろつきなどに使うなど勿体無い。)
果然、周青蔚が招かれた空部屋には数十個の饅頭が乱雑に置かれていた。
一先ず饅頭を口にすると、後ろから戸の開く音がした。
「…貴殿の名は周青蔚では??」
声のした方向に振り向くと、其処には眉目秀麗な一人の男が此方を見て立っていた。
「…私は一介の物乞い、そのような方は存じ上げません。」
自分の名を何故此の人物が知っているのか、そしてこの人物は誰なのか。という疑問を心に仕舞っておきながらも顔に出せずにはいられなかった。
「申し遅れました。私の名は李雲嵐。饅頭屋の売り子をしております。下っ端ですが。貴方が此の部屋に入られるのを見て、参った次第です。」
李雲嵐と名乗る人物はそう言い、周青蔚の方へと詰め寄った。
「貴方の骨格、そしてその目…美しさが隠そうにも隠せていませんね。周青蔚、間違いない。貴方だ。」
「人違いでは。」
「いいや、この私が見間違える訳がない。」
「ほざけ。」
周青蔚はこれ以上話しても無駄だと判断し、空部屋から去ろうとしたがそれを李雲嵐が遮るように言葉を続けた。
「暫し待たれよ。貴方は如何にして物乞いの振りをしているのか、是非とも聞かせていただきたい。」
「貴方は所作からして、恐らく売り子ではなく何処かの公子様といったところだろう。何故そこまでして私にはなしかける?」
「私の問いかけにも答えられないのか?…私はただの売り子さ。まさか公子様だなんて烏滸がましいにも程がある。」
空気が張り詰めたのを感じ、周青蔚は早急にこの場を去ろうと身を翻し、戸に手を掛けたところで向こう側から先程の物売りの声が聞こえた。
「おい!どうだ?饅頭は怖いか?」
「ああ、とても怖いです。何故此のような事を為されたのですか。如何かお願いです。私を此処から表に出して頂けないでしょうか。」
商人はそう嘆願してくる物乞いに嬉々とし、戸を開けた。
「やあ、お久しぶりですね。」
だがそこにいたのは”物乞い”ではなく下っ端の”売り子”であった。
「何故お主がそこへおる。今日は当番でなかろう。早く家屋へ戻るが良い。」
「私は饅頭を怖がる物乞いの噂を耳にし、訪れた次第でございます。まさか貴方様はそんな面白いものを独り占めする気で?」
「…いいや、是非お主にも見てもらいたい。此奴を見世物としようではないか。」
そう言い、戸を開けた商人の隙を狙い、周青蔚と李雲嵐の二人は表へと駆け抜けて行った。
end
コメント
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『此処』とか現代ではひらがなで使ってる言葉を漢字にする表記好き💭 しかもあの饅頭怖いってやつのオマージュ作品でここまで丁寧且つ素敵な表現で書けるの凄いな、って読んでて思った!!最高!!
頭いいのにじみでてる(
饅頭のやつ懐かし( てか語彙力すごすぎる笑笑