爆煙が晴れてきた頃、 リュウビはあたりを見渡し、 輝夜の姿を探す。しかし、輝夜らしき人影 は見当たらない。
「 んー? 跡形もなくなっちまったかぁ? 」
あのガキの腹に思いっきり一撃を決めてや った、 そう思うだけの手応えをリュウビは感じて いた。だから特に疑いもせず、リュウビは のばした腕を戻す。 すると、リュウビは、ふと違和感を感じ た。 なにやらムズ痒い痛みがジンジンと 頭に響 く。
「 痛ッ! … なんだ? 腕が… 」
痛みに顔を歪める。 だが、異常があったのは腕ではなく、 手首だった。手首から先が、ない。 そこにあったはずの手首が、切り捨てられ ていたのだ。 切り捨てられた手首は、音も立てず、 ポトリと落ちていた。ジンジンと響く痛み が、徐々に熱を帯びてくるのがわかる。
「 いっ…でぇっ! 痛ぇ! くそっ! 」
自らの異常に体がようやく気づき、 痛みに悶える。すると、完全に晴れた煙の 奥に、お腹の部分の服が裂け、 裂傷のような傷がついた輝夜が現れた 。 その顔は、氷のように冷たい表情だった。
「 爆裂音の後衝撃とともに加速… 手配書にあった、 爆死ね、 あなた 」
「 て、てめぇ! 良くも俺の手を! くそっ…痛えよちきしょう…! 」
「痛みに慣れてないのね、 死呪人のくせに。 今まできっと、 自分は傷つくことなく、 人を傷つけてきたんでしょうね? 」
「 あぁ? 」
「 あなたのような、 自己中心的な目的で、 人を傷つけるやつなんて、 大っ嫌い 」
「 んだとてめぇ! 知ったこっちゃねえよ! 痛えもんは痛え! 俺がどう感じるかは、 俺が決める! てめえみてえなガキにとやかく言われる筋合いはねえ! というか、 なんで生きてやがる! 直撃したはずだ! 」
「 べつに… あなたが触れた瞬間、 手首を切り落としただけよ。 予備動作でなんとなく手を使うのはわかったから、 切り落とせば、 爆破の威力は弱まる、 そう思っただけよ 」
「 あの一瞬で…? 」
「 かなり痛かったけどね… でも、 あなたと違って、 私は今まで助けられなかったたくさんの人の“痛み”を背負ってる! だから、 私は痛みを表には見せない…! そして、 あなたはもう、 逃がさない!逃げられないわよ?私が殺すもの…! 」
「 へぇ…! てめぇ、 いい女じゃねぇか、 ガキのくせによ! へへっ…上等…! 男“荻谷 龍火”、 2度目の不覚は取らねぇ! 」
爆拳!と叫ぶと、再び構える龍火。 構えた瞬間、爆裂音とともに、 龍火が消える。輝夜は小刀を両手に携え、 それを目で追う。断続的に爆裂音がなり、 龍火の影がどんどん加速して、輝夜の周り から機をうかがっている。やがて、輝夜の 目が追いつかなくなった時、龍火は輝夜に 襲いかかる。完全に背後をとった状態で、 まるで爆弾そのもののミサイルのように、 龍火の影が一瞬にして輝夜の背後に近づ く。
「 “爆拳・極”! 」
「 “血膜”。 」
龍火が輝夜に“着弾”する直前、 先程の裂傷から、血の膜が出現し、 龍火を覆いこんでしまった。 龍火の勢いが完全になくなってしまう。
「 なっなんだ!? これ!? な、 何も見えねぇ! 鉄の錆びた味がしやがる! 」
「 ただの血よ、 と言っても、 死呪人には効果てきめんだけれど… あなたもう少し、 相手の動きも見た方がいいわよ? 」
「 う、 動けねぇ… くそっ、 爆拳も使えねぇ! なんでだ! 」
「 でしょうね、 私の血は、 死呪人が起こした全ての事象を無効化するようだから… 私の血は、 私が支配するのと同じように、 あなたのすることは、 私が全て支配する 」
「 な、 なんだそれ… 何言ってやがる、 どういう事だ! 今一体、 何が起こった! 俺は、 お前の目では追いつけないスピードで襲いかかったはずだ! 」
「 ええたしかに、 私はあなたの動きを目で追うことは出来ない… でも、 1度爆発して勢いを作った時、 どの程度のスピードが出るのかは、さっきの一撃を身をもってくらうことで、 分かったの。 スピードは加算されるわけじゃない、 爆発することによって1度勢いは死ぬ、 それを、 縦横無尽に繰り返すことで誤魔化してるだけ。 だから、 おおよそ私の目が追いつかないタイミングを測って、 権能を使った、 ただそれだけよ 」
「 な、 そうだったのか… 知らなかった… すげえスピード出るから、 てっきりどんどん早くなってるものかと… 」
「呆れるわね… 自分の権能も理解しないうちに、 戦いに身を投じるなんて 」
「 くっ……… 」
「 悪いけど、 相性的にはあなたにも勝ち目はあった。 あなたの敗因は、 研究不足と、 経験不足… あなたと私じゃ、 歴も、 権能を使う重みも、 段違いなのよ…! それだけは最後に言っておくわ …じゃあね 」
そう言って、小刀に自らの血を付け、 横たわる龍火の急所に、思いきり突き刺 す。ぐっ、という呻き声と共に、 息も絶え絶えになりながら、
「 ちくしょう… 最後にパンケーキ… 食いた かったな… 」と、最後に言い残して、
龍火はこときれた。
それを聞いて、輝夜の顔が、少し歪む。 が、すぐに元の無表情に戻り、 輝夜は機械的に、龍火に突き刺さった小刀 を抜いて、また鞘にしまった。 そのまま、彼女は、 音を頼りに駆け出した。 次の死呪人を、殺すために。
コメント
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10巻も面白かったです!
あれっ先に9幕じゃなくて10幕読んじゃってました…_(._.)_ 輝夜ちゃんかっっっこよー!!
読切で1日から2日ほど時間を頂くことにしたので、第9幕と第10幕を先に投稿しておきます!お楽しみに!( •ᴗ• و(و"