T-09-86《地獄への急行列車》の列車にて
列車内は窮屈な為、列車の屋根上で佇みながら『頭』の元へ向かっていた
列車は都市の半分ほどをギリギリ見渡せる程度の高度を走っており、都市の人間に見つからず、そして容易にA社を見つける事が出来るだろう
…私が
(……私が今からやる事は…殆ど自殺行為。都市で一番の民間軍事企業であるR社ですら恐れる…
ましてや、頭へ殴り込みに行く人間なんて聞いたこと無いし……)
でも、もう迷わない
やるべき事をやるだけ
「……………」
A社を視認する
この都市の割に清潔で、そして壮観なほどに巨大な会社
…それを、私は見下ろす
「……すーっ……はーーっ……」
瞳を閉じ、ゆっくりと深呼吸する
…ごちゃごちゃ考えるのは無駄だ
また会う為に、最善を尽くすだけ
「………よしっ」
覚悟を決め、私はその言葉を発する
「O-05-102《陰》、O-07-103《陽》」
──────────
A社内
…図書館を外郭へ放逐……其れから幾度の月日が経過しただろうか
都市の恥部であり汚点…”不純物”が都市から2つ去った
…悦ばしい事だ
都市の生態は覆る事無く廻る
「しかし、あの機械は良い働きをしてくれた」
そう皮肉気に呟く
残響楽団…ひいては『泣く子』、『歯車教団』、『8人のシェフ』、『ブレーメンの音楽隊』、『狼の時間』、『8時のサーカス、』『人形師』、『血染めの夜』、『昨日の約束』、『青い残響』………
誰も彼も、都市を穢す都市疾病や都市悪夢、都市の星に該当する者共
図書館はその様な爆弾を抱え、都市から去って行ったのだ
…そして最後の最後に全てを手放し、残響楽団以外の図書館で散った人間は黄泉還ると来た
其の事は何方でも問題は無いが、結果的に都市の不純物を除くのみとなった
図書館の主…あの機械は不憫な事に、その果てに人間へ成れない…しかし、憎たらしい事に人間として届く心を持ち合わせていたがな
「……………」
時期にハナ協会も目覚めるであろう
…此度も、都市は廻り続けるのだ
…その時
何の前触れも無く、何の予兆も無く…
……咆哮が、空を裂いた
視界の全てが白黒で埋まる
…ここはA社中であるはずが、その白黒は視界の天から底を流れ続けていた
…調律者ジェナは、すぐさま飛び退いた
突如現れたそれは、室内である為寸法を正確に判断する事は不可能だが…A社本体の何分の一だろうか
…それが視界から流れ去った時
あれ程の物がA社を通り抜けた…筈が、壁や机には傷一つ付いていなかった
そしてその奥、A社従業員が倒れ伏している
すぐさま近寄り、首元へ手を添え脈を確認する…が、鼓動を感じない
身体には傷一つ付いていないが…先程の物で即死した様だ
「私は原因の元へ向かう。…B社へ連絡をしておけ」
背後の従業員へ命令を出し、A社入り口へ向かう
──────────
「……ゲボッ……」
口内から多量の血液が漏れる
体中の血液が沸騰するように熱く、頭が割れそうなほどの耳鳴りがする
(……やっぱ負担が大きい…)
口元を抑えていた血塗れの手を見つめながらそう思考する
私が出しているアブノーマリティは
T-09-86《地獄への急行列車》
O-05-102《陰》
O-07-103《陽》…の三体
確認した限り、生成するアブノーマリティは一体目までは多少の負荷で済むが…二体目以降は負荷が倍増する様だ
そのため内二体は即座に戻したのだが、それでも身体への負担は計り知れない様だ
……もっと気を付けないと…
「…………来た」
A社の入り口から人物が歩いて出て来る
距離が距離なので姿形しか分からないが…この状況であの毅然とした態度
…十中八九調律者であろう
T-09-86《地獄への急行列車》の列車をここへ待機させ…
…私は『ブラック・スワン』を開き、ゆっくりと降下していった
──────────
コツ
小さな音と共に、互いの意識が互いへ向けられる
「……初めまして」
「ふむ…お前がこの襲撃を行った者か。
随分奇天烈な面をしているな。」
「……私は、図書館についての情報を頂きに来た。
対話で解決出来るならそれが一番何だけど……」
「対話?……先程の現象はお前の仕業と見るが……お前は自分の行動を客観視出来ていない様に写るがな
……それに、お前が何を企もうが知ったことではない。
この状況をただ見守るのも悪くはないだろうが……お前如きのせいで、扉が閉ざされてはいけない故
此度の処理は私が確実に行うとしよう。」
「分かってたけど…やっぱり無理か
……じゃあ、その脳みそから引っこ抜くだけ。」
「流石と言った所か……お前は、全く以て理解出来ていない様だな。
私達……頭を敵に回すという事を。
たった一人のお前が如何様に藻掻こうと、変わるものはないはずだがな。」
「……分かってるよ。」
「そして…お前が何故このような此の様な行為へ及んだのか…興味が湧いた。
ただ唯だけだけよ。」
長話を始めた為、『天国』を取り出し…それと同時、調律者の掌が私へ向けられる
視認して認識する…その数瞬の間すら許さぬと言った様に、光が視界を満たす
…肉が弾ける
「…想像以上に…手強いかな……」
「それは誠の言葉か?
……お前は頭を敵に回して居るのだぞ?
最も、それすら理解できて居ないのではな……他愛ない。」
調律者は再び私へ手を向ける
私は『黄金狂』で防ごうとする…が、先程の攻撃とは異なり、私の周囲を囲む様にして光の線が私を突き刺す
「………チッ…」
小さく舌打ち
素早く『失楽園』で足元を固定し、調律者へ『天国』を投擲
同時に駆け出す
調律者は少しも動じることなく掌から光の線を放ち、『天国』の軌道を外す
その間に接近した私は、『黄昏』を構え…
…またもや、調律者は私に掌を向けていた
「……っ」
その掌を左手で掴む
光が左手から漏れ、使い物にならなくなる
…でも、関係ない
隙を晒した調律者へ『黄昏』で斬りかかる
…そう思ったのだが、突如足元から…もしくは天空から鎖が伸び、私の全身を拘束する
…不味い
「………この程度で──」
「『作られた神』!!!」
私の口から血が流れると同時、地から生成された白い触手が私と調律者を叩き飛ばす
自ずと鎖は千切れ、両の手が開放される
…宙へ浮く私達は見合う形となり…
…先手を打ったのは、調律者ジェナであった
私の頭へ向かう一筋の光線
私はなんとか頭を逸らす事で左耳周りが吹き飛ぶ程度で済んだ
調律者は今、無抵抗の状態である
スミレはこれを逃さず、『規制済み』E.G.O.で調律者の胴体を掴み、『黄昏』でその心臓を───
「…『処刑者』。」
「………は」
……視界の端に何かが映った
と同時、私の背後にある空間が砕け散る
その『爪』は私の腹部へ突き刺さり、私は砕け散った空間へ押し出される
その瞬間……これは幻覚だろうか
周りの景色が移り変わるフィルターの様に点滅し続けていた
…その度に、私に掛かる衝撃は大きく成り続け……
ズシャ
…何かを斬り伏せる音
その音を最後に
「………がっ……!!」
数多の斬撃と共に、私の横腹が消し飛ぶ
…そして、私の身体は地に引き寄せられるかの様に墜ちる
「………くっ……そ……
……足爪……」
都市を統べ、調律を行う頭ことA社
頭の手足となり、圧倒的な戦闘力で制圧する爪ことB社
…私が今相手にしていている物は、頭では無い
…都市を統べる、二翼の翼であった
…気付けば調律者と爪は私を見下ろしていた
「……漸く顔を見せるのね。」
…今の落下で『笑顔』の仮面が飛んでいったらしい
皮肉気に、そして嘲笑う様に言い放つ
「…お前が持つ其の力…確かに一個人が持つには強大な力だろう。
…しかし、思い上がるには程遠い
ましてや、我々頭への襲撃など…自らを高く見積もり過ぎたな。」
「………」
左手は焦げ、腹部は削れ、両脚と内臓は落下によってズタズタ
…その上、そこらかしこから血を流しすぎて頭がぼんやりする
「………ハッ」
それでも、嗤って見せる
警戒しつつ…それでもニヤけ面を崩さない調律者をしっかりと睨みながら…
…天空へ、指を指す
………直後、私達を照らす日が遮断され………
コメント
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今こそ終末鳥!!!!!!!!!!(??)それか白夜?