赤×水
君を求めた軌跡、その君に愛してるを。
“赤”
あの夜、街の灯がやけに眩しく見えたのは、
多分、俺の胸の奥がぽっかり空いていたからだ。
水が居なくなって、何ヶ月、いや…、何年経ったんだろう。
時間の感覚なんて、とうの昔に麻痺してしまった。
時計の針は進んでも、俺の心はあの日の夜から何一つ動けていない。
あの日、水は俺に何も言わなかった。
ただ、『ごめんね』とだけ呟いて。
俺は引き止める事も出来ず、言葉も出なかった。
だって__俺自身、本当は水に何も伝えられていなかったから。
『好き』とか、
『一緒に居たい』とか、
ちゃんと言葉にして伝えられていなかった。
お互いに、大人で
お互いに、強がりで
そしてお互いに、少し臆病だった。
だから俺達は、少しずつ少しずつ、手が離れていってしまったんだ。
今でも、水の居ない朝に目を覚ます度、
この静けさに胸が締め付けられる。
でも、いつかまた。
ちゃんと、伝えられる日が来たら。
その時は、今度こそ__
赤「……水の事が好きだった。いや、今でも……ずっと、好きなんだよ」
そう言える気がする。
例えそれが…もう戻れない場所だったとしても。
なんて頭で考えたとしても、正直な話し俺は一歩も進展していない。
駅前のコンビニのガラスに映った自分が、酷く老けて見えた。
仕事に身を投じて何かを埋めようとしたけれど、結局何処にも辿り着けない。
それくらい水が居ない世界は、味気なくて、乾いていた。
俺が唯一、まともに息が出来たのは水と居る時だけだった。
赤「………やっぱ、無理だな」
呟いた言葉は、自分自身への宣告。
他の誰かに心を動かすなんて、最初から出来るわけがない。
優しい子も居た。
俺に好意を向けてくれた人だって。
でも、笑顔を見て思い出すのは、決まって水の顔。
細い指、伏せた睫毛、笑った時に少しだけえくぼが出来る頬――
全部、今でも、色褪せずに俺の胸を刺してくる。
赤「…俺は、水しか……好きになれないんだよ」
誰に言ってるわけでもなく、それでも声に出さずには居られなかった。
言葉にして、漸く少しだけ痛みが和らぐ気がする。
そんなある日、何の前触れもなく水と再開した。
再開発されたビルの下、白い光に照らされた交差点。
向こう側に、水が立っていた。
イヤホンを耳に挿して視線を落としたまま歩いている。
信号が変わる。
それでもこっちを見ない。
でも、俺は一歩踏み出していた。
赤「……水ッ、?」
名前を呼ぶと、イヤホンを取った彼が、ぴたりと動きを止めた。
視線が合う。
その瞬間、あの頃と同じ風が吹いた気がした。
“水”
まさか、また会うと思って居なかった。
何処かで偶然会えたらいいな、なんて。
そんな夢みたいな希望は何度も捨ててきたつもりだったのに。
でも、目の前に立っている赤ちゃんは、
あの頃と何も変わってないようで、
でも、何処か苦しそうな顔をしていた。
水「……久しぶり、赤ちゃん」
その言葉を口にするだけで、心臓がぎゅっとなった。
声が震えているのが、自分でも分かる。
赤「水………元気、だった?」
水「ん ~ ん……、あんまり。赤ちゃんは?」
赤「……正直、全然」
苦笑する赤ちゃんを見て、胸が苦しくなる。
こんな風に真っ直ぐな目で僕を見るの、ずるい。
赤「……あれから、水の事ずっと忘れられなかった」
赤「誰と話してても、誰と笑ってても……、心の何処かで、水の事探してた」
赤「……俺、やっぱ水じゃないとだめみたい」
その言葉に、一瞬息が止まりそうになった。
水「……僕、ずっと怖かった」
水「赤ちゃんに迷惑かけたくなかったし……、」
水「大事に思えば思う程、自分が居なくなる方が赤ちゃんの為だって…、思い込んでたッ……」
視界が滲んで、言葉にならなくなる。
赤「……俺にはッ、水しか居ない」
赤「だからもう一回……もう一回だけッ、俺の側に居てくれないッ……?」
気が付いたら、赤ちゃんの胸に顔を埋めて泣いて居た。
口に出せなかった言葉が、
何年分もの想いが、
この街の真ん中で、音もなく溢れていった。
もし、気持ちを伝えきれなかった僕を、赤ちゃんが許してくれるのなら。
僕は、また赤ちゃんと生きていく道を選びたい。
“赤”
俺達は街の灯の下、暫く黙って立って居た。
人通りの多い交差点なのに、世界の音が遠のいて、
まるで俺と水だけの時間が流れているみたいだ。
赤「……寒くない?近くにカフェ、ある」
漸く言えた言葉がこれって、何処まで俺はダサい男なんだろう。
どれだけ会いたくても、いざ会ってしまうとどうしても些細な事しか言えなくなる。
だって、心臓が煩すぎて、
水の声が掻き消されそうになるくらい、嬉しかったから。
水「………うんっ、」
小さく頷くその仕草も、声も、全部、俺が何度も夢で思い出した”水”のままだった。
カフェの奥の席。
窓際の、少し静かな場所。
並んで座って、少し距離のあるマグカップの間に、
言えなかった何年分の言葉たちが、静かに沈んでいた。
水「僕……本当はあの日、言いたかった事いっぱいあったッ、……」
赤「…うん」
水「好きで好きで仕方が無くてッ、ずっと、大好きだった……」
その一言で、涙が溢れそうになる。
俺の中で、ずっと確かだった『好き』が漸く報われた様な気がして。
赤「………俺も。水が居なくなってから、誰にも恋が出来なかった」
水が顔を上げる。
目の端に、微かに涙の光があった。
赤「水以外じゃ、ダメだった」
赤「何度誤魔化しても、誰と居ても、結局……俺は水を求めちゃっててッ……笑」
静かに泣いている水の手を、俺はそっと握った。
冷たかった指先が、少しずつ温かくなっていくのを感じながら。
水「……もう一度、側に居てくれるッ…?」
赤「こっちの台詞だよ。逃げても、隠れても、今度は絶対離さないから…ッ」
__この言葉だけは、俺の全てを込めて言った。
“__それから、数日後。”
2人で街を歩いた。
クリスマスが近づいていて、イルミネーションが夜の空気を淡く染めている。
カップルだらけの中で俺達は並んで歩いた。
指先が触れて、自然と繋いだ手が凄く馴染む。
水「…ねぇ、赤ちゃん」
赤「ん ~ ?」
水「あの時の事、ちゃんと謝らせて欲しいッ、」
赤「………」
水「…勝手に居なくなって、ごめん。ずっと赤ちゃんの気持ち…裏切ったままだったッ…」
水「……本当は、僕、怖かった」
赤「……知ってたよ」
赤「水、すぐ全部背負い込むから」
水「…でも、今はちゃんと伝える。僕も…、赤ちゃんが居ないとダメみたい」
俺は立ち止まって、精一杯水の肩を抱き寄せた。
赤「なら、これからはずっと隣に居てッ……?」
赤「もう絶対に離れないでッッ、………」
水「…うんッ、もう離れないっ……」
その夜、水は俺の部屋に泊まった。
帰ろうとした水の腕を俺がぎゅっと掴んで引き寄せた時、
何も言わずに微笑んでくれた。
ベットの中、隣で眠る水の呼吸を感じながら漸く心から安らげた気がする。
こんな風にまた、一緒に眠れる日が来るなんて……。
赤( …やっぱり俺には、水しか居ないんだよ )
“__再開してから、毎日の様に。”
日々が少しずつ、でも確実に変わっていった。
水と再開してからの毎日、どんな些細な瞬間も俺にとっては特別に感じる。
2人で歩く街の中で、ただの一緒の時間がこんなに大事なものだとは、気付かなかった。
『ただ一緒にいる』それだけが、こんなにも幸せだったんだ。
俺は毎日、水に伝えたくて仕方なかった事がある。
赤「水、あのさッ……」
水「ん ~ …?なしたの…?」
歩きながら、何度も言いかけた言葉がやっと口をついて出る。
今更言う事でもないって思うけど、言わずには居られなかった。
赤「俺、自分が思ってる以上に水の事愛してるんだなって気付いた」
水は歩みを止め、ふっと振り返る。
水「ぇ…?」
その顔は驚いた顔でも無く、少しだけ笑ってる。
『また、赤ちゃんが言いたい事あるんだろうな』って、分かってるような顔。
赤「………愛してるッ、世界で1番、愛してるよ」
俺は水の手を取り、引き寄せた。
手が触れる瞬間、心の中で何かが溶けるような感覚が広がる。
赤「水が戻ってきてくれて、俺の中で何もかもが元に戻った気がする」
その言葉を俺は水の目を見てしっかり伝えた。
水は少しだけ困ったような表情をして、でも静かに頷く。
水「赤ちゃんッ……」
その言葉の先を俺は少し待つ。
でも、水は多く語らなかった。
ただ、俺の手をそっと握り返す。
水「ありがとっ……‼︎」
その一言だけで、俺は十分だった。
“__再び過去の話。”
あの日から、ずっと心の中で引きずっていた事がある。
水が居なくなったあの日から、俺は何度も考えていた。
『もしあの時、水が言ってくれたら俺はどうしてたんだろ』って。
あの日、どんなに水に会いたかったとしても、俺は言えなかった。
自分の気持ちが怖くて、ただの一言すらも伝える事が出来ない。
その事がずっと俺を縛っていた。
だから今、こうして水と再び一緒に居れる事が信じられなくて。
毎日が本当に有り難くて、どうしてこんなにも水を大切にしたいのか、
自分でも分からないくらい。
でも、ただ一つだけ分かっている事がある。
それは、もう二度と水を失いたくないって事。
満月が綺麗に輝いている今日の夜。
静かな夜の街を2人で歩いている。
夜風が冷たくて、2人で肩を寄せ合いながら歩くと、少し温かく感じた。
水「赤ちゃん」
赤「ん?」
水「……やっぱ僕、まだ怖い」
水が急に立ち止まって、俺の方を見上げる。
その言葉を聞いた瞬間、胸が痛くなるのを感じた。
でも、何が怖いのかすぐには分からない。
何故なら、前と同じ『怖い』じゃないって、自然と思ってしまっていたから。
赤「怖い…?何がッ、?」
水「僕がまた、赤ちゃんを……傷付けてしまうんじゃないかって」
水「もう僕は……、そんな事したくない」
水の声が少し震えていて、それが凄く胸に響く。
怖いって、水の中でずっと抱え込んじゃってる感情なのかな。
それに気付かなかった俺は、水の彼氏失格かも。
赤「…そんな事絶対にない」
赤「水が俺を傷付けるなんて、考えた事もない」
その言葉がどんなに大切なものか、俺はしっかり伝えたかった。
水は少しだけ目を伏せてから、また顔を上げる。
水「でもッ……もし、僕が本当にまた赤ちゃんから離れたらどうしようって…、」
水「…やっぱりまだ……怖い」
その瞬間、俺は水の手を強く握り返す。
離れないよ、って証明する為に。
赤「絶対に離れないからッ……、いや、俺が水を離さないッッ…」
その言葉が水に届くのか心配だったけど、
水は小さく息をついて、穏やかな表現を見せてくれる。
水「ありがとッ、赤ちゃんっ……、‼︎」
“__この上ない幸せを。”
僕達は、これからも一緒に歩いて行く。
例え先が見えなくても、例えどんなに不安でも、
赤ちゃんと2人で居る事だけが、確かな事だと信じてる。
もう、迷う事はない。
水と出会ったその日から、ずっと決まっていた事だ。
俺は水しか愛せないって、今なら心から伝えれる。
__これからも、ずっと。
読んで下さったから本当にらぶです…🥹🫶
リクエストの休憩がてらに書かせていただきました…‼︎
リクエスト少々待って頂けると幸いです…🙏
コメント
2件
投稿ありがとうございます.ᐟ 赤ちゃんも、水くんが居ないと駄目で、水君も、赤ちゃんが居ないと駄目なんだなぁって思いました.ᐟ 最高でした.ᐟ
うおーーー!!!!!?🥹🥹すきです…………!!!! この脆いかんじ…とても刺さりました……だいすきです……