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甘い甘い愛のカタチ
午後16時7分。時計の針がチクタクと音を鳴らしながら一刻、また一刻と進んでいく。委員会は終わり、生徒たちがある程度帰宅した校舎内。
この学校の生徒である、三つ編みの編み込みに大きいふたつのリボンが特徴の生徒――樺葉 澪は、誰もいない廊下にひっそりと立っていた。
いや、事実としては――隠れていた。彼女が見つめる先は、ひとつの空き教室。中には、ふたつの陰が。それを澪はただ冷たい眼差しで見つめていた。
遡るは数時間前。
いつも通り、親友の梯 望愛と話していた時だった。
明日はいよいよバレンタインということもあり、クラス内でも誰に渡すだとか、好きな人に告白するだとかの話題が女子の間では持ち切りだった。
澪は元々そういった部類の話はあまり口に出さない人間だが、親友の望愛がいるなら話は別だ。
望愛は澪と違って、クラスの中でも、所謂“一軍女子”というものである。
友達が多い――というか全員友達じゃないのか、と言うぐらい、クラスメイトの誰にでも話かけられる。それによって、望愛とニコイチの親友、澪も話しかけられる……いや、話に混ぜられるのだ。「望愛ちゃんと話したし、この子とも話すか」というノリで。
今日の望愛は、数々のクラスメイトから、バレンタインとしてチョコをあげていいかどうか頻繁に聞かれていた。そして澪も聞かれた。丁重に全て断ったけど。望愛は「え〜!勿体なーい!チョコ貰えるんだよ?沢山食べれるのに?」などと小言を言ってきたが、まぁそれは気にしない気にしない。というかアイツがわからず屋なだけ。
午前中はそんな風に気にも止めず受け流していたが、ふと気になったのだ。
だから、口に出した。
「望愛は……他の子にチョコ、あげるの」
小さい声で、自分の気持ちをポツポツと言う。それが澪の精一杯。けれど、望愛はそれをきちんと受けってくれたようで、大きい目をぱっちりあけて、はてはてという顔でこちらを見つめている。そして、
「え、あげないよ? 」
と、当然のように言ってみせた。
あげないのか……ん? あげない? ……ん??
「え、今なんて」
「だから、あげないよって」
「あげない??? 」
自分が思っていた事と真逆のことを当然のように言われ、少し戸惑ってしまう。あげない。へぇ、あげないのか。多少嬉しさもあるが、他人から貰って置いて返さないのかというツッコミも入れたくなる。
「だって澪ちゃんの他に仲良い友達いないもーん」
彼女はそう言って、鏡の方に向き直し、また前髪を弄り始めた。望愛からすればたった一言二言。けれど、澪の心にはその言葉が残っていた。
澪は望愛と出会うまで、ずっと孤独だったこともあり、愛に対する執着が人一倍強い。だからこそ、望愛に対する独占欲や嫉妬が、他人の“重い”の桁を外れている。そしてそのことを、自分でも重々承知していた 。
できるだけ隠しているつもりだが、先程のように嫉妬をバカ正直に言ってしまう。それでも、望愛はきちんとその心に答えてくれる。それが、とてつもなく嬉しかった。
「望愛、今日一緒に帰ろ」
「今日“も”でしょ〜? 嬉しいな〜!! 帰ろ帰ろ〜」
そして時は戻り、冬の夕焼けの光が差し込む廊下にて。元々澪は、望愛の帰りを待っていたが、待ち合わせの教室の中に、望愛と男子生徒が居るのが見えた。……咄嗟に隠れる。現状に至る。
覗き見しながら耳をすませると、ふたりの会話が聞こえてくる。なんだか、所謂、告白のような雰囲気。嫌な予感がゾワゾワと胸の中に広がり、軽く吐き気も込み上げてくる。事実を知ることを拒もうとする体と、知りたいという欲求の消えない感情。
勝ったのは、感情の方だった。
ドアの隙間から見える2人の様子を伺うと、段々とどんな事を話しているのかが聞こえてくる。
「……俺、望愛のこと好きなんだよ。付き合ってくれないか?」
嫌な予想が的中してしまった。やはり告白。……確かに、望愛は男女関係無く話しかけるし、愛嬌もみな等しく配っている。特に笑った姿やたまにキョトンとした顔が可愛らしいから、モテるに違いない。逆に告白されない方がおかしい。
……けれど、納得いかない。
何故。なぜ私の望愛を奪おうとするのか。相手の男に苛立ちを感じながらも、望愛はなんと返すのか気になってしまった。
望愛は、心優しい。だから、断らないかもしれない。いや、彼氏がいるというステータスを持つ為に付き合うことも有り得る。私が知っている限りで、様々なことから彼女はフラないのは予測できた。
断って欲しい。お願い、断って。
友の幸せを願うべきなのだろうけども、私はそんなに心が寛大では無い。お願い、私の元から離れないで、望愛。
「あー、そっか。なるほどー」
相手の言葉を聞いた彼女は少し黙ったあと、たどたどしい相槌をした。何だ、それはどういう意味なのか。汗が滲みシワになるほど握り締めたスカートが、ザリザリと小さい音を立てる。望愛は窓の外を眺め、そしてゆっくりと口を開いた。
「私のどこに惚れたのか、なんでなのかは分かんないけど、ごめんね、無理」
「……」
「私、好きな人いるんだよね。澪ちゃんって子。ほら、いつも一緒にいる子だよ。わかるでしょ」
「あの子とずっと一緒にいたいから、とりあえず今はごめんね。まぁこの先もだけど」
彼女は、私の望んだ通りの言葉を言って見せた。私が、彼女から求めた回答を全て言った。怖くて震えていた唇の動きが止まる。上手くできなかった息もきちんと気管を通り、ドクドクと死にそうなぐらい跳ね上がっていた心臓が、元の動きへと再開する。
断った、私が理由で。断った。
その後なんて嬉しすぎて彼女らの話なんてまともに聞けなかった。
唯一聞こえたのは、男子生徒の「お前はきっと、普通の愛を失ってるんだな」といういかにも厨二らしい捨て台詞と、望愛の「失ってないよ、元々なんもないからね」という少し心寂しい言葉。
そこで、ごちゃごちゃな感情が混ざり合い耐えきれなくなった澪が、教室のドアを力ずくで思っきり空け、窓側に立つ望愛へ抱きついた。
「えっ、ちょっ、澪ちゃん!?? どうしたの?!? 」
「うるさいバカ!!!! 」
自分の髪型が崩れるなんてお構い無しに、彼女の胸の中に頭をぐりぐり押し付ける。いきなり教室へ入ってきた私に対して驚きを隠せない望愛は、変な言葉をしきりに発しながらも、私を抱き返す。
「もー、何に怒ってるのか分かんないけどさ
とりあえずごめんね」
「まぁ、赦す」
良かった。良かった。望愛を奪われなくて。本当に良かった。という思いと、なんで好きになられてるのよという八つ当たり。それを思いっきり行動に示す。
毎回言葉足らずな私達。それでも、これぐらいがちょうど良かった。何度だって私は怒るし、その度に望愛が謝って、おあいこになって、仲直り。他の人達じゃできない関係性。
顔を埋めた彼女の服は、甘い花の香りが漂っていた。
「今日はどこ行く〜?あ、ス●バの新作とかいいかも!チョコフラペチーノとティラミス出たんだよ〜!」
「……私が作ったチョコ以外食べないで」
「あ、ヤキモチ妬いてちゃた?
もちろんっ!澪ちゃんの愛情たっぷりのチョコを今年の初チョコにするよ〜!」
けらけらと笑ってみせる彼女に対して、すこしムッとする。冗談で言ってるんじゃないからね。
「他の食べたら殺すから」
「えっ、そしたら二人で檻に入れられちゃうよ〜?」
「……入れられてもいいよ。私は望愛が正しいって証明するから」
「君が殺したのに〜!??」
軽くステップを踏みながら、ルンルンと一足先を歩く彼女の背中を見つめる。髪は、望愛とお揃いのリボンで結ばれている。
――誰にも渡さない、私の望愛
酷く甘い愛でいいじゃないか。ビターチョコのように、食べたあとも後味の残る、忘れられない恋にしてもいいじゃないか。この愛は誰にも理解できないだろう。むしろ、出来なくていい。
私と望愛だけの愛でいい。
ふたりの愛を作ろう。
そしてお互いだけに送り合おう。
甘い甘い愛のカタチを。
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