ぐるぐると捻れる視界
自分の嗚咽だけがシンとした部屋に響く
くにお……
「助けて」
プルルルル……プルルルル…
自分の嗚咽と荒い呼吸の合間に耳にツンとくる音が鳴る
「電話………?誰…?」
口にはそうだすけれど、どこかその相手を勝手に期待している自分がいてなんとも言えない気持ちになる。
「………もし、もし…」
上手く話せない声でか細く言う
「あーもしもし?お前の仕事の件なんだけどさ、」
返ってきた声は何故だか俺を深く落ち込ませる。
「前の取引先の相手がさちょーっとそこと揉めてるらしくて間接的に関わってる俺らの会社も結構厳しい状況でさ~」
あぁ…どうしよう…頭に何も入ってこない
ただ苦しくて、息が苦しくて、勝手に涙が出そうになる
「おーい、聞こえてる?」
何か、何か話さなきゃ…
「お前もそこに重要な役ついてん だから逃げらんねーぞ?」
何…?怒られてる……?わからない…
「あ、ひゅっ…ひゅッ…」
言葉をなにか出さなければ、そう思うのに出そうと思った言葉を、息と一緒に小刻みに吸い込むことしか出来ない。
「なぁ、ふざけてる?」
あ…もう駄目だ。俺仕事続けられる立場じゃなくなる
「…っひゅッ…い、いえ」
必死に言葉を紡ごうとするけれどこれが限界
「じゃあ何?」
話す度に圧が増す言葉に耐えきれなくなりそうだ。
「…ひゅっ…あ…のッ…ひゅッ」
手が冷え切り今にもスマホを落とす勢いだ
と、不意に電話を持つ自分の手に温かさがのる
「…え」
なんで…?
「すみません、今こったろは体調不良でして……はい。はい…はい、大丈夫ですので1週間ほどお休みさせていただきます。はい、よろしくお願いします。はい。 失礼します。」
え、いつの間に…?
どうして?
なんで?
色んな疑問が湧いては消えていく
どこか求めていた、辛い時、助けて欲しい時、絶対に片隅にいた、求めていた、
「……えと…こた?大丈、」
ギュッ
気がついたら俺はくにおに抱きついていた
温かくて、優しい匂いがする
「大丈夫?」
その言葉に、くにおの服に 顔を埋めながら 小さく頷く
「そっか」
今まで以上に優しい声色で話しかけてくれている。
そして、気がつけば発作が収まっていることに気がつき、少しの驚きと納得している自分がいる。
こんな状況でも、くにおからは俺に触れてこない。だから、顔を埋めてずっと抱きついていた。
しばらくして、
「こた、大丈夫?」
さっきからこれしか言ってないなこいつ、と少し軽い気持ちになってきた。
でも、うん
「大丈夫だよ」
これは本心だ。
「来てくれてありがとう」
「うん」
「ごめん、こた」
「ううん」
最初はなんのことかと思ったけど、大体はわかる
「あと、ごめん」
これはなんのごめんだろうか
「大丈夫だから、もう、ごめんは十分だよ」
「…ありがとう、こた」
「…………」
「…………」
「…どうして来てくれたの?」
そういえばなんでこいつは俺が助けが必要なことに気がついたのだろうか。
「……返信」
「ん?」
「返信が遅かったから」
は?そんな理由で?
「こた、どんなに怒ってても、忙しくても、メッセージ送りあってる最中に何もなしに返信無視したりしないし」
あ……
「俺が送ったあと、30分くらい何も無かったから…何かあったのかなって」
なんだろ、この気持ち
「って!キモいよね…!ごめん、そもそも来ていい立場じゃないよね…」
「……ううん、ありがとう。助かったよ」
…なんだろう、安心する。
こいつの優しい声色、言動、温もり、凄く安心する。
そっか、俺とっくに、
「……じゃあ、俺そろそろ帰るね!」
「え、あ、」
「ん?どうかした?」
「ううん、なんでもない 」
「そっか!」
あー、そっか
「ありがとう」
「うん、またねこた」
眩しい笑顔が
「うん」
「…」
「?」
「…いつでも頼って欲しい」
何を黙っていたと思ったらそんなことか
「…ありがと」
ひたむきな優しさが
「じゃあまた連絡してほしい!」
「うん」
もっと話したい、
「あ、」
「ん?どうしたこた」
「えと、あれ、何話そうとしてたんだっけ…」
「いいよ、ゆっくり思い出して?」
俺なんて、人の話聞かなかったり自分勝手に話しちゃうこと多いし
お前のさ、俺の話最後まで聞いてくれようとするとこ
「……ううん、今度にする」
「えー!気になるじゃん!まぁいいけどさ!」
無邪気な笑顔に思わず笑みがこぼれる
「…あーのさ、こた」
「今度は何?」
好きだって気づいてしまった
「俺、こたのこと大好き」
「は?」
「じゃあ、またね!」
ぱたりと扉が閉まって数秒死んだように固まっていた。
俺は…くにおが好きだって気づいてしまった。
コメント
3件
いやぁ 、最高ですね ... ✨ 今後も見逃せません 、 楽しみにしてますね (*´︶`)