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案内された蔵の中。石造りで、窓には太い鉄格子。入り口には二重の鍵。まさに、マジックの舞台としては申し分ない「密室」だ。
「ショウ、魔法陣の残滓も、空間転移の痕跡も一切ないわ。……これじゃあ本当に、実体のない幽霊の仕業としか思えないわね」
ルーシーが室内を調べながら、困り顔で本をパタンと閉じた。
僕は金庫室の中央に立ち、シルクハットを脱いで軽く一回転させた。
「ミラ、自警団の面々を外に出してくれ」
「え? あ、ああ、分かった!」
ミラが団員たちを追い出し、重厚な扉を閉める。室内には僕とルーシー、そして不安げなミラだけが残った。
「さて。……ルーシー、君は僕の左側で、そのランタンを掲げていてくれ。スポットライトの代わりだ」
「え、ええっ!? もう解決策がわかったの?」
「解決策というか、この『ステージの裏側』が見えただけさ。……さあ、開幕といこうか」
僕は燕尾服の裾を翻し、部屋の隅に置かれた二つの大きな木箱へと歩み寄った。
「ミラ、この箱は?」
「商人たちが荷物を運び入れる時に使った、輸送用の箱だ。中身は取り出されているから、」
「いいかい、ミラ。マジックの基本は、観客の注意をそらすこと、ミスディレクションにある。皆が『消えた宝石』と『かかったままの鍵』に気を取られている間、この箱はただの風景として処理されていた」
僕は上の箱を軽く叩き、ひょいと持ち上げて見せた。
「見てごらん。上の箱は底が抜けている。そして下の箱は……天板が綺麗に切り抜かれているね。二つ重ねれば、この通り。小柄な人間一人なら、余裕で収まれる『隠し部屋』の完成だ」
「な……!? なんだって!?」
ミラが目を剥いて箱を覗き込む。僕はその隣で、床にこぼれた微かな染みを指差した。
「さらにここ。水の形跡があるね。犯人は、商人たちが慌ただしく荷物を運び込んでいるドサクサに紛れて、この箱の中に潜伏した。責任者が高価な品物だけ検品し、退出して鍵をかけた後、箱から出て悠々と真珠を盗み出し、また箱の中に戻ったのさ。定期見回りで宝石がないことに気づき、皆がパニックになって人がバタバタ出入りしている間に、混乱に乗じて箱から逃げ出した……というわけだ」
「ま、待てよ。だとしたら犯人は……!」
「そう。最初、この部屋に荷物を運び入れる時のメンバーの中で、この箱に入れるサイズのやつだ。……自警団か商人の中心当たりは?」
「自警団は荷物の運び入れには関わっていない。その後の見張りだけの担当だ。だから組合員の中でその条件に当てはまるのは……」
ミラが部屋の入り口を指差す。ミラの顔が赤鬼のように染まっている。
「あいつか……!」
ミラが咆哮とともに部屋を飛び出していく。……あーあ、あの様子だと、犯人は宝石を返す前にミラの腕力で粉砕されてしまうかもしれない。
「ショウ、あなたすごすぎるわ! 魔法も使わずに、状況だけで犯人を特定しちゃうなんて!」
「これは種も仕掛けもあるものなら、僕の専門分野だからね」
僕はシルクハットを被り直し、不敵な笑みを浮かべた。
どうやら異世界での初依頼は大成功で幕を閉じたようだ。