テラーノベル
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「はっはっは! 見たか! あのチョロ公(小柄な男)の引き攣ったツラ! あいつもまさか、あんたみたいな変人に犯行を指摘されるとは思ってなかっただろうな!」
街で一番賑やかな酒場『酔いどれトカゲ亭』。
その一画で、ミラはジョッキをテーブルが割れんばかりの勢いで叩きつけ、豪快に笑い飛ばした。ちなみにミラの拳がパンパンに腫れている。おそらくチョロ公の方は顔が腫れていることだろう。
「……ミラ、さっきから言ってるけど、僕は変人じゃなくてマジシャンだ。あと、その背中を叩く癖、マジでやめてくれないかな。僕の身体は、トランプを操るための精密機械なんだ」
バシバシと強烈な勢いで背中を叩かれ、僕は口から魂が漏れそうになるのを必死に堪えていた。
「いいじゃないか! おかげで『人魚の涙』も無事に戻ってきたし、自警団の面目も保たれた! これ、あんたの分の特別報酬だ!」
ミラがずしりと重い袋をテーブルに放り出した。中には先ほどの銀貨とは比べ物にならない枚数の硬貨が詰まっている。
「すごいわ、ショウ! これだけあれば、図書室の古文書の閲覧権が何年分買えるかしら……!」
ルーシーが目をドル箱のように輝かせて食いつく。いや、これ僕の報酬なんだけど。
「ところで、ショウ」
ミラが急に真面目な顔(といっても、酒で赤くなった顔だが)で僕に顔を近づけてきた。
「ルーシーから聞いたけど、あんた、身寄りがないんだろ? だったら決まりだ。今日からあんたを、わが自警団の『特別顧問魔導師』として正式に採用する!」
「……待て。後半のネーミングが不穏だし、そもそも僕はどこかに所属するつもりはない。自由なマジシャンとして、この世界のステージを回るつもりなんだ」
「断る権利なんてないぞ! さっきの『箱のトリック』を見抜く眼力、いや、そもそも天秤の時もそうか、あんたがいれば、うちの団の検挙率は爆上がりだ! 明日から朝六時に詰所に来い。まずは鎧の試着からだ!」
「早すぎるし、燕尾服以外着るつもりはない。あと、僕は戦うのは専門外だ」
僕の抵抗も虚しく、ミラは「よし、決定だな! 乾杯だ!」と強引に話を締めくくった。
ルーシーはといえば
「自警団の顧問なら、コネができて王国の極秘資料にもアクセスできるかも……ショウ、頑張って!」
と、早くも僕を売る気満々だ。
「……やれやれ。異世界に来て最初の脱出マジックの相手が、この脳筋リーダーになるとはね」
僕は燕尾服の袖から、さりげなく取り出した一枚のトランプを指先で弄ぶ。
「いいだろう。ただし、あくまで僕はフリーランスだ。困りごとは手伝うから、その都度連絡をくれ。」
「おう! 期待してるぞ、ショウ!」
再び背中に振り下ろされたミラの豪腕を、今度は紙一重で回避してみせる。どうやらこの世界での「マジシャン」の仕事は、思っていたよりも多忙になりそうだ。
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