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モブ♀→🌩️への片想い描写があります。
友情出演:🥷ですが、あまりにも口調が掴めていません。許せる方のみお進みください。
話の大まかな流れは決まっていたのですが、2/9の🤝の配信でとんでもない爆弾が投下されたためそれに大分脳を焼かれています。あまりキショオタク(一人称)に餌を与えないで欲しい…………。
=====
「いや、 ごめんねぇカゲツくん。僕から誘ったのに奢ってもらっちゃって……」
また別の日、僕はカゲツくんと一緒にコーヒーショップのチェーン店に来ていた。
僕の呼び出しにわざわざ駆けつけてくれただけでもありがたいのに、会計のときサラっと「あ、会計一緒でお願いします。電子で」とか言ってくるものだからびっくりした。何だよそのスマートなイケメンみたいなムーブは。そういうのは未来の恋人とかにやってあげなさい。
「ええよ、別に。チケットの期限近かったから使いたかっただけやし」
「あ、ほんと? なら良かった」
そう言ってカゲツくんはドリンクをひと口飲み、「甘っ」と瞳を丸くした。大衆向けの店とはいえ、未だに僕がこんなにおしゃれなコーヒーショップに通っていることには違和感がある。仕方ないだろう、いつもの面子だと4人中2人がコーヒー中毒なんだから。
……と言っても、今僕とカゲツくんが飲んでいるのは期間限定の甘〜いスイーツドリンクなんだけど。
僕らとは違って西の町の高校に通うカゲツくんは上等なブレザーの制服の下に更にアイボリーのニットを着込んでいて、とても暖かそうに見える。防寒具はおろか、いつもペラペラの学ランを羽織っているだけの僕とはえらい違いだ。これも僕の服装に季節感が無いと言われてしまう所以なんだろうか。
「──それで、今日したいっていう話はまたあの、『さいきの友達』のこと?」
「……うん」
ドリンクのホイップをかき混ぜながら、僕は視線をテーブルへ落とす。カゲツくんは「そっか」と言ったきり特に催促してくることもなく、僕たちの間に数秒の沈黙が訪れた。
カゲツくんは口下手な僕を厭うこともなく、次の言葉が見つかるまでこうして待っていてくれる。だからこそ、『お悩み解決部』のみんなにも言えないようなことまで相談できてしまうんだけど。
僕はそこで初めてドリンクに口を付け、渇ききった喉を潤してからようやく声を発した。
「…………え、っとね。その……『僕の友達』の話なんだけど」
「うん」
「……その子、いよいよもう、失恋に向かうしかなさそうなんだよね」
「そっか」
「いや、片想い自体が好調だったことがそもそも一度も無いし、もしかしたらとか夢見る暇も無かったし、前々から覚悟してたことではあるんだけど。……それでもやっぱりこう、あぁ、目に見えて脈無いんだなって分かってきちゃったっていうか。するつもりも無かったけど、告白とかしなくてもそれは明白だよなっていうか──って、友達が言ってて」
「うん。さいきの友達がな?」
「そう、僕の友達が」
つい熱が入って話すぎてしまい、慌てて誤魔化す。さすがに心配になってカゲツくんの様子を伺ってみると、彼は全く動じることなくスマホを眺めながらストローを弄っていた。無関心なようにも思えるけど、今の僕にはそれくらいフラットに聞いてくれる方がありがたい。
『友達の話』というのはもちろん、こんな恋の相談すらも自分の話としてできない卑怯な僕の臆病な建前だ。元はと言うと、ある時膨らんでいく恋心を抱えきれなくなってカゲツくんにぶちまけてしまった際、咄嗟に『──っていうのが、僕の友達の話なんだけどね!?』と付け足したのが始まりだ。
我ながら情けない話だけど、何せ僕は未だに自分が恋をしていること自体信じきれていないのだ。目と目が合って浮かれる気持ちも、結ばれないと思い知って痛む胸も、全てが何だかひどく他人行儀で、誰か別の人の心を間借りしているような気分になる。
自分の中の恋心さえ認められず、人に頼るときまで気付けば後ろに逃げ道を作っている。こんな僕だからこそ、きっと彼のことを本気で想う人には敵わないんだろう。そしてそんな人と結ばれるリトくんを見て、失恋を実感して、もしかするとそのとき初めて、自分が恋をしていたと認められるのかもしれない。
「さいき?」
「あ、ええと……それでね、……何の話だっけ」
「……何やっけ。忘れたわ」
雲のようなふわふわの白髪をゆらめかせて、カゲツくんは首をひねる。
彼がずっとこんな調子なものだから、『友達の話』なんて分かりやすい言い訳が果たして意味を為しているのかどうか分からない。けれど、カゲツくんなら多分、分かっていても気付かないふりをしてくれるんだろう。
クールダウンするため僕は再びドリンクを口に含む。チョコチップとホイップのジャンクな甘さを、ほんのりビターなココアが中和してくれているおかげで飲みやすい。上からひっくり返すように軽く混ぜれば、ふわりとほどけるベリーソースの酸味も良いアクセントになっている。
チケットがあるとはいえこれだけ豪華な限定ドリンクとなれば少々お値段が張るものだろう。やっぱり何か別の形で返すべきかな、なんて考えていると、スマホと睨めっこしていたカゲツくんがふいに顔を上げた。
「なんかさ、この辺どこもチョコのフェアやってるやん。あれって最近の流行りとかなん?」
「ぇ。……あぁ、それは多分、そんな局所的なやつじゃなくて──、」
あれ。と僕が指さした先には、ピンク色と赤色のハートが舞い踊る、やけにラブリーなテイストのポップが貼られている。そしてそこには、洒落た筆記体で書かれた『Happy Valentine!』の文字。
「あー……バレンタインね。馴染みなさすぎて忘れてたわ」
「うっそだぁ。カゲツくん絶対モテるでしょ」
「んー? どうなんやろ、もらったことはあるけどなんか、友チョコみたいなやつばっかりだったし」
「いやそれね、絶対本命混じってるやつだって。僕分かるよ」
「さいきはもらったことないの?」
「……え? 今煽られてる? 俺」
声にドスを効かせて怒りを露わにしてみせるが、カゲツくんには軽く笑ってあしらわれてしまった。さすが僕の友人が務められているだけあってスルースキルがありすぎる。
──バレンタイン。ある者は勝利の雄叫びを上げ、ある者は孤独に嘆き咽び泣く、忌々しい恋とチョコレートの季節。もちろん僕は後者側の人間だ。生まれてこの方ずっと後者側の人間だ。
チョコレート自体は嫌いではないが、それとともに街中を漂う甘ったるい空気はどうにも好きになれない。大体何だよ、『ハッピーバレンタイン』って。人生で一回も言ったことないわ、そんな挨拶。
何がバレンタインだ。何がチョコレートだ。みんなして製菓会社の策略に乗っちゃってさ。知ってる? バレンタインに女性から男性へチョコレートを渡すのは日本だけなんだよ。どうせ贈り物なんだったら手紙でも花束でも贈れば良いのに──なんて言ったって、そうなったらなったで僕は手紙や花束を憎むようになるだけなんだろうけど。
「その『さいきの友達』は、相手にチョコあげんの?」
「……え?」
「え、だって告白すんのにちょうどよくない? チョコ渡すだけでいいんなら」
「あ……そうだね。……そう、なのかなぁ……」
僕は少し返答に困って、つい曖昧な言い方で返してしまう。──考えたことがなかった。バレンタインといえば、女性から男性にチョコレートを渡す日だと思っていたから。
固定観念に囚われていたのは僕の方かもしれない。多様性が叫ばれる現代であれば、同性に想いを伝えるためにチョコレートを贈ったって良いはずだし、何ならチョコレートでなくたって。
そこで僕は、ここ最近ずっと甘いものに囲まれているリトくんの姿を思い浮かべてみる。『レンタルスイーツ彼氏』でこれだけの潜在的ファンを呼び起こした彼なのだ、バレンタイン当日はさぞたくさんのチョコレートに囲まれることになるだろう。彼に限って捨てるだなんてことはしないだろうけど、それでもあまりに大量のチョコレートが一度に押し寄せればそのうち飽きてしまうことだろう。ただ事務的に消費されるだけのものを大切に想いを込めて贈るなんて馬鹿みたいだ。かといって、彼に気がある女の子たちを出し抜けるようなアイデアがあるわけでもないし。
そもそも、僕からのチョコレートなんて彼は受け取ってくれるだろうか? 『友達だと思っていたのに』『お前俺のことそんな目で見てたの?』『チョコもいらねーわ。何が入ってるか分かんないし』──なんて言われてしまえば、僕はきっともう二度と立ち直れないだろう。……いや、リトくんがそんなひどいことを言う奴じゃないことは僕が一番よく分かっているけど。
リトくんを想って積まれたチョコレートを見るのも嫌だけど、玉砕覚悟で告白する勇気もない。結局のところ、僕は自分の気持ちとも彼自身とも、向き合えていないだけなのだ。
「……どうしたらいいんだろうね。行事に便乗して告白できれば楽かもしれないけど、そうやって時期に合わせて変に焦って、失敗したときが怖すぎるし。贈り物と一緒に告白っていうのも、なんか……もので釣ってるみたいな気がして引け目があるし」
「……って友達が?」
「そう。友達が」
ドリンクをひと口飲んで、チョコチップを噛みくだく。意外と量の多いそれはいくら飲んでも減る気配がなく、逆にいつも一瞬で飲み干してしまうリトくんは一体どんな身体構造をしてるんだろうか。
あぁ、何をしていたってこうして考えてしまうのは、いつだってきみのことばかりだ。
ドリンクをほとんど飲み終えたカゲツくんは、スマホから目を離して大通りの方をぼんやり眺めている。そうしているうちに何か見つけたのか、一点を見つめたまま首を傾げた。
「……ごめん、全然違う話なんやけど」
「うん」
「あれ、うさみやない?」
「え、」と咄嗟に振り返ると、道路を挟んで向こう側によく目立つオレンジ色の頭が見えた。隣に立っているのはうちの制服を着た小柄な女の子で、それを捉えた途端に心臓が嫌な鳴り方をする。
「あぁ、あれか。レンタルなんちゃら彼氏みたいなやつ。あかぎに聞いたわ」
「……あの子、2組の子だ。絶対レンタルしたいから、授業が終わったらすぐに駆けつけるって言ってた──……」
「え、熱烈やん。……でもなんか、揉めてない? 痴話喧嘩ってやつか?」
「…………」
──いやな予感がする。
だってあの子のあの表情は、鏡の中で飽きるほど見た、『恋をしている人の顔』だ。
何を話しているんだろう。わざわざ道の半ばで立ち止まってまで、向き合ってまで、どれだけ大切な話をしているんだろう。
唇の動きまでは読めない。呼吸が浅くなる。いやな予感がする。
「っ……ごめん、カゲツくん。俺ちょっと見てくる」
「え、首突っ込んでいいやつなん? あれ」
「それは分かんないけど、でも──……」
ここからの角度ではリトくんは後ろ姿しか見えない。リトくんの仕草も癖も全部見てきたはずなのに、今の彼がどんな表情をしているのか全く見当もつかない。
僕の知らないきみがいることが、こんなにも恐ろしくて仕方ない。
ほんの少しだけ迷って、結局僕はドリンクを半分以上残したまま席を立った。
「────っごめん、」
道に出た途端大通りの向こう側から聞こえてきたのは、苦しそうな謝絶の言葉だった。ぐらりと一瞬視界が揺れ、こんな状況でもよく通る彼の声が初めて恨めしいと思った。
「今はそういうの、考えられないっていうか……恋愛とか、よく分からないから。ごめん」
「……そっか」
寂しげに彷徨った彼女の視線から逃げるように、僕はすぐ近くの路地に身を隠した。
予感は当たっていたようだけど、どうやらリトくんは彼女からの申し出を断ったらしい。視界の端に映った彼女はとても辛そうな顔をしていたのに、こんなことで安心してしまっている自分が嫌だ。
幸か不幸か、僕は聴力には自信がある。この距離からでも彼らの会話は問題なく聞き取れてしまうだろう。
「うん、そうだよね。分かってた。けど……ねぇ、リト君。本当のこと教えて」
「本当の……?」
「私もさ、けっこうちゃんとリト君のこと見てたから。恋愛がよく分からないとか、それが嘘だってことくらい分かるよ。
……リト君さ、好きな人いるでしょ」
「……っ、」
予想だにしなかった言葉につい覗いてしまった彼の顔は、不意打ちでも食らったみたいに歪んでいた。
……何、それ。僕はそんなの知らない。分からない。彼のことを誰よりも近くで見てきたつもりだったのに、そんな重要なことに気付けなかったなんて。
僕はどうしても彼に否定して欲しくて、望みがどれだけ薄くてもそんなはずないって彼の口から言って欲しくて、泣きそうになりながらそれを見つめる。けれど、数秒の沈黙の末に微かに聞こえてきたのは、そんな微かな希望にとどめを刺すひと言だった。
「──うん。いるよ、好きな人。もう多分、年単位で片想いしてる人。……だから、ごめん」
「…………はは、なら最初からそう言ってよ。私はちゃんと正面から告白したんだから、リト君もちゃんと本心で断って」
「……ごめん」
「だから、そんなに謝らないでってば……ねぇ、リト君の好きな人ってさ──、」
段々と遠ざかる2人の声をもう聞いていたくなくて、僕は耳を塞いでその場にうずくまる。通行人の誰かに見られたら心配されてしまうだろうけど、今はそんなことを考えていられなかった。
頭が真っ白になって何も考えられない。まともな思考なんてひとつもできないのに、涙だけは勝手に溢れてくるから不思議だ。
は、と浅い息を吐いて、チョコレートの甘い香りが微かに漂って。それだけで、実感も湧かないうちに納得してしまった。
ああ、そうか。僕はとっくに失恋していたのか。
「校内で一番仲の良い友人」という立場を守っていれば、なんとなくきみの特別でいられるような気がした。きみの友人でさえあり続けられれば、きみのことは何でも分かるような気でいた。それなのに、きみがそんなに長く恋をしていただなんて微塵も気がつかなかった。
そりゃそうか。きみだってひとりの人間なんだから、隠し事だってあるよな。高校生なんだから、恋くらいするよなぁ。だって僕もそうなんだから。
俯いたまま泣くものだから、落ちた涙でレンズがどんどん濡れていく。これじゃあ二重に視界が歪んで、まともに前も向けないじゃないか。
「さいき、泣いてるん?」
頭上から、カゲツくんの低くて優しい声がする。きっと僕を心配して来てくれたのだろう。カゲツくんはしばらく困ったように周りを行き来して、迷った結果に僕の隣へ座り込んだようだった。
こんな優しい彼に謝罪なり感謝なりをしておきたいけど、生憎僕の口は嗚咽を吐き出すのに忙しい。そんな僕に文句も言わず、カゲツくんはただ隣に寄り添っていてくれる。
──嘘をついていた。
本当はなんにも諦められていない。この想いを伝えることも、きみの特別になることも。きみが毎日誰かの彼氏になるのだって、本当は嫌で嫌でしょうがなかった。
放課後、余計なことを考えないようにバイト漬けにしていたことも、そのくせきみが誘ってくれるかもって期待して土日だけは空けていたことも、全部全部自分の気持ちから目を逸らしていたかっただけだ。
自分の恋心が認められないなんて嘘だ。僕はずっとずっと、きみのことが好きだった。
「……さいき、」
「っごめ、ごめん。大丈夫だから、……変なとこ見せて、ごめん」
「変やないよ。無理して大丈夫にならんくてもいい。ぼくは横におるだけやから」
カゲツくんはなんてことの無いようにそう言って、紫と緑の綺麗な目を柔らかく瞑る。
そんなに優しくされたら、余計に前が見えなくなっちゃうじゃないか。僕はこれ以上レンズが水浸しにならないように、今のうちに眼鏡を外しておいた。
今更だけど、こんなところを見られちゃったらいよいよカゲツくんに『僕の友達』なんてものが架空の存在だってバレちゃうだろうな。そして多分、この想いの相手が誰なのかも。
しばらくの間僕は動けずに泣き続けて、心配して声をかけてくれた通行人のひとはカゲツくんが対応してくれて。涙でシャツの袖がびしょびしょになった頃にようやく嗚咽が収まってきた。
気持ちの整理がついたわけじゃないけれど、濁流みたいに押し寄せる悲しみだけはどうにかやり過ごすことができた感じだ。ポケットにしまい込んだままだったくしゃくしゃのティッシュで鼻をかんで、カゲツくんにこれ以上心配かけないようわざと明るい声を作る。
「あー……泣いた泣いた。久しぶりに泣いた。ごめんね、もう大丈夫だから──、」
「……」
「……カゲツくん?」
僕はカゲツくんに二度目の謝罪をして、さっさと帰るつもりだった。公衆の面前でひどい醜態を晒してしまったことだし、こんな顔で店に戻る気にもなれなかったから。しかしカゲツくんはいつまで経っても立ち上がろうとせず、よく見ると手元でスマホを弄っている。
勝手に画面を覗くのはさすがに気が引けるので大人しく待っているとカゲツくんから思いも寄らない提案が寄越された。
「さいき、これからぼくと一緒にチョコ買いに行かん?」
「はぇ、急になんで……?」
「最近はなんかさ、自分へのご褒美にチョコ買うみたいなんもあるらしいやん。んでさいきチョコ好きじゃん。だから、今まで頑張ってたご褒美にチョコ買ってあげても良いと思う」
「……え、じゃあ今、わざわざこの辺のお店とか調べてくれてたってこと?」
「うん、まぁそんなとこ」
「か、カゲツくん……!!」
なんてことだ。気遣いの天才か? 彼は。
あんなに気の回らない唐変木なんかじゃなくて、どうせならカゲツくんみたいな人を好きになれれば良かったのに──なんて考えるのは、どちらに対しても失礼だけど。
「──あ、でもそれだと、僕の個人的な買い物にカゲツくんを付き合わせることになっちゃうか」
「いいよ別に。特に用事ないしな」
「悪いね、何から何まで。……っていうかさ、僕そんなチョコ好きなイメージある? あんま自覚ないんだけど」
「え、違うん? だってさいきコンビニとかでよくチョコ買ってるやん」
カゲツくんはきょとんとした顔で首を傾げる。まるで至極当然のことを聞かれたみたいな反応だ。
僕そんなにチョコばっかり買ってたっけな、と記憶を辿りかけて、思い当たるのはやっぱり彼の顔だった。
「……あぁ、あれかな。ほら……リトくんがさ、チョコ好きじゃん。だからか分かんないけど、たまに無性に食べたくなるときがあるんだよね」
「じゃあまぁまぁな頻度やない?」
「うん、そうだね。そうかも」
つまり、それだけの頻度で彼のことを思い浮かべているということなんだけど。
思えばさっきまで飲んでいたドリンクもチョコレートだったし、何なら昔の僕は期間限定品なんて眼中にもなかっただろう。それもこれも甘党で、常に全力で季節を楽しんでいるリトくんに影響されたせいだ。
思い返せば返すほど僕の生活はあまりにリトくん一色に染まっていて、我ながら笑えてきてしまう。そうしてちらりと記憶の端に映るきみにさえ、胸が苦しくなるほど恋焦がれている。
やっぱり辛いな、と瞳を閉じたその瞬間──ふと、ある『アイデア』が思考の中に転がってきた。
「……あのさ、カゲツくん。自分へのご褒美って、別に自分宛てじゃなくても良いよね?」
「んん? ……え〜……よく分からんけど、まぁいんじゃない?」
「そっか。じゃあ、まずお金下ろしてこないと」
「……どんだけ買うつもりなん??」
困惑するカゲツくんを他所に僕はさっさと身なりを整えて、べちょべちょの眼鏡をシャツの裾で乱暴に拭った。視界は良好とは言えないけど、前を向いて歩く分には問題ない。
──このまま引き下がってやるのも癪だ。どうせなら彼の目の前で、派手に砕けて散ってやりたい。失恋したてほやほやの僕にはもう失うものなんか何も無いんだ、覚悟してろよリトくん。
僕はひとりでそう決意して、丸めたティッシュを再びポケットの中へねじ込んだ。