テラーノベル
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⚠︎モブがいっぱいいますが、みんな良い人です。
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いつから好きだったとか、正直もう覚えていない。いつの間にか恋に落ちていて、気付いたときには手遅れだった。……ただ、恋を自覚したのはあれかな。きみが歌っているところを初めて見たとき。
感動したなぁあれは。もちろん歌の技術もすごいんだけど、何よりあの切なげに歌う姿と普段とのギャップにやられちゃってさ。例えるなら──いつもの真夏のカンカン照りみたいな笑顔の中に、小さな日陰を見つけてしまった、みたいな気がして。
気遣いしいなくせに人付き合いはけっこう消極的なところとか、それでも僕みたいにひとりぼっちでいる人は見過ごせないところとか、打ち解けるとマジで容赦ないところとか。あんなに恵まれた体格と顔を持ってるくせに中身はわりと小心者で、もぎたてのオレンジみたいな髪の隙間から見える瞳は、時折びっくりするくらい穏やかに凪いでいたりする。
きみのそういうところにさ、もうどうしようもないくらい恋しちゃってるんだ、僕は。
……ねぇ、ずるいと思わない? 無理でしょ。こんな素敵な人に優しくされて、好きにならないとか。もしかしたら両想いかも、とか考えたこともなくて、だってきみは出会った頃から一度も本当の素顔なんて見せてくれたことがないものだから。
きみの特別になりたいとか、全てを知りたいとか、独り占めしたいとか。そんな贅沢なとこは言わないから……せめて、せめてどうか今日だけは。
──そして今日も、授業終了のチャイムが鳴る。
§ § §
「ねぇ、リトくん」
チャイムが鳴り終わるや否や、僕はくるりと体を半回転させてリトくんの方を向く。彼は机に広げたノートを片付けながら、「おう」とだけ返事をした。
「今日さ、何の日か知ってる?」
「んー……期末の最後の授業が終わる日?」
「それは今終わったことでしょ……そうじゃなくて、ほら……あるだろ、あれが」
「……なんかあったっけ? 今日」
手持ち無沙汰にボールペンをカチカチノックしてリトくんは頭をひねる。いつもと同じ心ここに在らずな相槌も、何だか相手にされていないような気がして胸が苦しい。
その曖昧な返事にも普段の僕ならすっとぼけるなと躍起になっているところだけど、今は本気で思い出せていない可能性もあるためそれができない。何故なら今日のリトくんは、まだひとつもチョコレートをもらっていないのだ。
去年通りなら友チョコとか義理チョコ、そしてそれに紛れた本命チョコを大量にもらって満杯になっているはずのリトくんの鞄は、登校時と変わらず必要最低限のものしか入っていない。きっとみんなとっておきのチョコレートを用意して、彼をレンタルするための最終兵器として取っておいてあるのだろう。
ぐるっと教室を見渡してみても、リトくんにチョコレートを渡したそうな人は見当たらない。僕の武器なんてこの距離の近さくらいしか無いんだから、出し抜くとしたら今しかないだろう。僕はおもむろに席を立って、リトくんの机の上にスクールバッグをどさりと乗せる。
「……なんでそんな荷物多いの? お前」
「とぼけるなよ。きみ、鼻は良い方だろ」
こちらを見上げる澄んだ視線に、背中にじわっと嫌な汗が浮く。なんで、どうしてここで知らないふりなんかするんだよ。
駄目だ、ここで止まったら、もう二度と踏み出せなくなる。こびりついた躊躇いを振り払うように、僕は勢いよくチャックを開けてバッグを丸ごとひっくり返した。
「──う、わ……え、まだあんの? ちょっ……落ちる、落ちるって……!」
机からこぼれ落ちた小箱を拾って、リトくんはひゅっと息を飲む。きっとパッケージに箔押しされたロゴを見たんだろう。……まぁ、高校生が並ぶのに躊躇するくらいの店で買っただけのことはあるか。
またしても一つの箱が机から落ちかけるのを、僕は膝でキャッチして押し上げる。
「は……え、これ本物? テツお前、いくら使ったんだよ……」
「あー……どうだっけ。レシートもらってないから分かんねえや。ちなみに本物ね、当たり前だけど」
「だったらもうちょい丁寧に扱えって……!」
リトくんの半分悲鳴のような声を聞きながら僕はそれに全く集中できないでいた。
だって、チョコレートなんてどうでもいい。きみの気が引けるものなら何だって良かったんだ。
「いや、マジでどうしたんだよこれ。……誰かにあげんの?」
「……それ本気で言ってる?」
「…………本気って?」
あぁ、まただ。またはぐらかされている。リトくんはチョコレートのパッケージを眺めてばかりで、僕と一切視線を合わせようとしない。
そういえば教室がやけに静かだ。もしかしたら誰かが見ているのかもしれない。だったらせめて騒ぎ立てて、この鈍感な男をしばいてやってくれ。
……このままじゃ埒が明かない。僕は一度深呼吸をして、机の端に転がった箱を手に取った。
「──きみさ、クランチチョコ好きだろ。フレークとかが入ってて、ザクザクしたやつ」
「は? ……いやまあ、好きだけど」
「あとさ、純粋なチョコレートだけじゃなくて……例えばガトーショコラとか、カヌレ? ってやつとか。そういうチョコが練り込まれてるようなお菓子も好きでしょ」
「……うん」
僕はパッケージを手に取りながら、ひとつひとつ解説していく。リトくんの反応を伺うことすら怖くてできなくて、犯行の供述をさせられている犯人ってこんな気持ちかな、なんてことをぼんやり考えていた。
「……リトくんはラム酒よりガナッシュ入りのチョコレートの方が好きだし、それよりもナッツ入りのチョコレートが好きだ。それに輪切りのオレンジにチョコレートをかけたような洒落たお菓子よりずっしりした焼き菓子の方が好みで、バターがたっぷり入ってるとなお良くて……それで、合わせて飲むのは深煎りのブラックコーヒー、だろ」
「は、……よく知ってんじゃん」
「うん、知ってる。よく知ってるよ、きみの好きなもの。……だって、全部きみが教えてくれたんだもん」
そう、だから僕なら、誰よりもきみの好みに合ったチョコレートを用意してあげられる。
僕の信条には反するけど、もので釣れるって言うんなら釣ってやる。そのために貯めていたバイト代全部はたいて用意したんだ、きみのためだけの本命チョコを。
「ねぇ、これで足りる? 今日のきみのレンタル代。……本来もらえるはずだった分の代わりにはなると思うんだけど」
「……どういうこと、何が言いてえの」
リトくんが何かを察したようにこちらを見上げて、ついに目と目が合ってしまった。オレンジと水色の混じった夕焼け色が、静かに僕の言葉を待っている。
肺が緊張して、は、と浅い呼吸をした。
「っだから、……これ、レンタル代として全部あげるから。お返しとか、何もいらないから──今日は他の人からのチョコ、受け取んないでよ……」
微かに先細る僕の声は、自分でも聞いたことがないほど自信なさげに震えていた。
今この瞬間に一世一代の告白をしたわけだけど、今僕はどんな顔をしているんだろう。リトくんの反応からして、とてつもなくなっさけない顔をしているんだろうな、きっと。
リトくんはしばらくチョコレートと僕を交互に見つめ、気まずそうに目を逸らした。
──嫌だ、聞きたくない。
「……実はさ、今日は──つうか今年は、そもそも誰からももらわないようにしてんだよ。友チョコとか、義理チョコも」
「っえ、……なんで?」
「どうしても欲しい本命がいるから。だから、まず用意されても受け取れないって言ってあんの」
「…………なんで、僕には教えてくれなかったの」
「それは……お前が参加してないグルチャで言ったやつだから」
キーンと耳鳴りがして、全ての音が一瞬遠のいた。淡々と突きつけられる現実に、僕はいきなり真っ暗な世界へと突き飛ばされてしまったような、そんなイメージが思い浮かぶ。
ああ、……あぁ、そうか。僕は最初から、きみの『普通の友達』にすらなれていなかったんだ。
そう理解した途端、変な笑いがこみ上げてきた。どうしたわけか目が熱くて、息がしづらい。ぐにゃりと歪む視界に、きみのオレンジ色だけが残酷なくらい鮮やかに映る。
「──は、……あぁ、そう。そっか。ごめんね。……っじゃあ僕もう帰るから、」
「ちょっ……待てって、話は最後まで──」
「あ!!! 宇佐美くんが佐伯くん泣かしてる!!!」
え、と振り向いた先には、この間リトくんをレンタルした子が怖い顔をしていた。彼女はつかつかとこちらに駆け寄ってきて、リトくんの背中をばしんと叩く。
「何泣かせてんの、あたしのアドバイス聞いてた!? つか話聞いてりゃ威圧感ありすぎてありえないんだけど!! もっと優しく聞いてあげなって言ったじゃん!!」
「痛゛っっつ……! んなこと言ったって……」
「だぁから言ったじゃんリト、一旦僕らの言う通りにしときなって〜」
「せやせや、言うたってウェン。ごめんなぁテツ、とりあえず席座ってくれん?」
ぽん、と後ろから肩を押され、そのまま椅子に座らされる。見上げてみると、申し訳なさそうな顔をしたマナくんが立っていた。横からひょこっと顔を出したウェンくんはギャルと一緒にまるで阿吽像のように仁王立ちして、縮こまるリトくんを詰めている。
「……え、え? 何これ、なんでみんな集まってきてんの……?」
「ごめんね〜佐伯くん、ウチらグルチャでずっと宇佐美の相談乗っててさぁ。ちょっと我慢できなくて口出しちゃった」
そう言って『ごめんなさい』のジェスチャーをするのは、確か最初にリトくんをレンタルした子だ。いつの間にかオーディエンスがわらわらと現れ、僕は何が何やら分からぬうちに台風の目となってしまっていた。
「ほら宇佐美、ちゃんと分かるように言わなきゃ伝わんないよ。いっぱい練習したじゃん!」
「だっ……もう分かったから、ちょっと静かにしてくれって──」
「アンタっ……お母さんに向かって何やのその口の聞き方は!!」
「なんでマナはまた母親ヅラしてんの??」
「リト、お母さんに謝りなさい。あとテツにも」
「ウェンまで……いや天丼すんなってこんなとこで!! てかテツのことついでみたいに言うのやめてくんねえ!?」
目の前で繰り広げられるコントに置いてけぼりにされていると、それに気付いたリトくんが大きな声で咳払いをした。それを合図に周りは徐々に静かになって、あっという間に教室中が静まり返る。
……何だ、何が始まるんだ? いや、こういうのって二次元でしか見たことないけど、こんなふうに大人数に囲まれるときって大体──……
「……テツ、」
「はぇ、……は、っはい……!」
「その……さっきの。遠回しな言い方になって、勘違いさせちまってごめんな。……あー、と……俺の本命っていうのは……お前のこと、だから」
「……なに? どういうこと?」
「や、だからー……」
理解が追いつかない僕に、リトくんは自分の鞄を漁り始める。そして恐る恐る取り出されたのは和紙を貼ったような素朴な装飾の、チョコレートらしき箱。
──が、目の前に差し出される。
「、遅くなってごめん。──好きです。俺と付き合ってください」
「………………は、」
反射的に受け取ろうとした手を、すぐさま引っ込める。本当に? 本当にこれは僕に向けてのものなの?
もうあと少したりとも傷つきたくない僕は疑心暗鬼になっていて、ちらりとリトくんの方を見遣る。彼は顔を耳まで真っ赤にして、険しい顔で震えていた。──潤んだ瞳が、再びこちらを見上げる。
「……ほ、ほんとに? 本当にきみ、僕が好きなの?」
「だから、そうだって……」
「なんで……?」
「なんで……!? え、いや……分かんねえ、……一目惚れ、だったから」
「えっ、一目惚れ?」
想定外の単語に思わず素っ頓狂な声を上げる。リトくんはチョコレートの箱を彷徨わせたまま、恥ずかしそうに口元を覆った。
「じゃあきみ、出会ったときからずっと僕のこと好きなの?」
「……そうだよ、この2年くらいずっと、お前が好きなの」
「そうなんだ……そっ、かぁ……」
僕はどこか現実味がなくてふわふわした気持ちのまま、行き場を失ったチョコレートを受け取る。
よく見るとパッケージには有名な和菓子屋の紋が入っていて、もしかすると僕が和風のお菓子が好きだと言ったのを覚えていてくれていたのかもしれない。……いや、多分そうなんだろう。僕がそうだったように、リトくんも好きな人の好きなものは覚えておきたいタイプなのかも。
「……ん? え、なんかぬるっと受け取ったけど。……佐伯くん? 告白はおっけーってことでいいの?」
「えっ、あ、あぁ……そう、なるかな。多分……」
「じゃあさぁ、言うことがあるんじゃないの? テツぅ〜」
「せやな、きちんとお互いの気持ちをぶつけ合わな」
「?? えぇっと……」
困惑しながら、必死に頭をフル回転させる。告白されたときに言うべきこと? そんなのあったっけ。感情も追いついていないというのにいきなりそんなことを言われ、僕は大慌てで記憶を掘り返す。思い出せ僕、何か無いか、何か────あ、
「不束者ですが、よろしくお願いします……?」
「いや嫁入りかーいっ!」
ウェンくんが関西の芸人よろしく片手を上げて突っ込むと、マナくんは『先を越された』と言わんばかりに悔しそうな顔をした。
それをきっかけにどっと笑いが起きて、教室のあちこちからヒューヒュー言われ、「お幸せにー!」なんて結婚式さながらのガヤが飛ぶ。なんだこれ、こんなにクラスの中心だったのか、僕は。
祝福ムードに気圧されながらリトくんの方を見てみると、彼はむず痒そうな顔で同じく僕を見つめていた。何だか当人たちが置き去りにされている気がするが、これもまたハッピーエンドのうちのひとつなんだろう。
机の上に散らばったままのチョコレートたちですら、今は僕らを祝福しているように思えた。
§ § §
「うわー……なんか、すげえモテてるみたいじゃね? 俺」
「悪かったねぇ僕のあげた分だけで。ステータスの足しにされるくらいなら返してもらうけど?」
「あっ違、そういうんじゃねえって! ……これは俺のだから、テツであろうと絶っっ対にやんないからな!」
「はは、喜んでもらえたみたいで何よりだよ」
両手に紙袋を持ちながら、リトくんはそれなりにはしゃいでいる様子だ。「お前のだから特別嬉しいの」なんて本当に幸せそうに言うものだから、僕もそう悪い気はしないんだけど。
あれから一通り祝われたあと、出来立てほやほやカップルはふたりで放課後デートでもして来いと教室を放り出されてしまったのだ。いきなりデートをしろなんて言われても特に行き先などが決まっているはずもなく、今はとりあえず駅前をぶらついている。
バレンタイン当日だけあって、見渡す限りどこもかしこもカップルだらけだ。昨日まではあれが憎くて仕方なかったはずなのに、今日からは僕も同じ立場だなんて未だに実感が湧いてこない。
「あのさ、聞いて良いのか分かんなかったんだけど……レンタル彼氏、は、もうやめるの?」
「当たり前だろ、もう本物なんだから」
「……ふふ、リトくんってもう僕だけの、本物の彼氏なんだ……んふふ、うわどうしよう、夢みたい」
「もー……あんま可愛いこと言わないでくんない?」
可愛い、と言われたことが信じられなくて思わず二度見する。リトくんは自分で言っておいて照れているらしく、慌ててそっぽを向いてしまった。
おい、急にカップルっぽいことしないでくれよ。
「……ていうかさ、実際レンタル彼氏とか言っても、ほとんど俺の話聞いてもらってただけなんだよね。だから報酬いらないっつったんだけど、今度は『バレンタインに渡すチョコを選ぶため』とか何とか言って無理矢理渡してくるしさー……」
「きみの……ってことは僕の話でもあるのか。……え、だから最近チョコ系とか和菓子系多かったの!?」
「うん。そういうこと。一対一のことも少なかったし、なんか女子会に異物混じってるみたいでめちゃめちゃ気まずかったんだよな」
なるほど、形式というのは得てして変化していくものだ。おおよそ最初にレンタルした彼女がリトくんの片想いに勘付いてしまい、それからなし崩し的に恋バナの標的となってしまったのだろう。羨ましい半分哀れみ半分といったところだ。
「でも、そうじゃない人もいたでしょ。きみのことが本気で好きで、告白してくる人」
「……あー……なんか、見てた? やっぱ。……まあね、そういうのも無いわけじゃなかったけど……でも、俺はテツが好きだから。……っていうのも何でかバレてたしね?」
「バレてたんだ……じゃあ、本当に気付いてなかったの僕だけじゃん」
僕が恨めしげに言うと、リトくんは鼻の頭を赤くしながらはぐらかすように笑った。
──となると、それとはまた別に気になることが出てくる。黙っていても良かったけど、もしこの予感が当たっていたとしたら僕はまた、もうひとつ菓子折りを用意することになるだろうから。
「あと一個聞いていい? あの……きみさ、なんで僕がチョコ用意してること知ってたの?」
「…………言わなきゃ駄目? それ」
「まぁ、できれば」
「うーーん……カゲツがさ、ウェンと仲良いじゃん」
「あ、やっぱね。おっけー、おっけー、完全に理解した。……あれだね。彼多分忍者とか向いてるわ」
「うん。俺もそう思う」
僕とリトくんは遠い目をして、素知らぬ顔でスパイをこなしたカゲツくんに畏怖を覚えた。
ということはあれだ、きっとあのときチョコレートを買いに行こうと誘ってきたのもウェンくんからの言伝だったのだろう。つまり最初から彼は僕の気持ちを知っていた上、更にウェンくんたちに情報を渡して僕らの恋の橋渡しをしてくれていたというわけだ。
全く末恐ろしい男だ、カゲツくん。次会うときまでに手土産を用意しておくから期待しておいてくれ。
「──あ、そうだ。リトくん、そこのスイーツショップでチョコレートフェアやってるけど覗いてく? 予算の関係で回れなかったとこなんだけど……さすがに甘いもの続きすぎて飽きちゃうか」
「え、全然飽きないんだけど。俺マジで甘いものだけは無限に食えるからね? てかテツと一緒にチョコ選びたい。寄ってこ」
何気なく提案しただけだったけど、リトくんは目を輝かせていて俄然乗り気なようだ。
後ろめたくて目を逸らしてばかりいたけど、やっぱり彼は甘いものを前にしているときが一番キラキラしている。……あと、観劇しているときと、ゲームをしているときと、歌っているときと──……あれ?
「……テツ? どうした?」
「あ、いや、何でも……、っ」
「──眼鏡、涙の跡ついてんな。ごめん……これからは二度と泣かせないから」
僕の顔を覗き込んで、リトくんはおもむろに眼鏡を外した。確かに眼鏡には濡れた跡がついていて、クリアな視界で見るリトくんはよりキラキラしていて心臓に悪い。
──そうだ、僕はこのリトくんしか知らない。つまり、僕がリトくんが片想いしていたことに気付けなかったのは、出会った頃から一度も、『誰かに恋する顔』を見たことがなかったのは──きみがずっと、僕に恋をしていたからだ。
何だよ、二度と泣かせないとか少女漫画みたいなこと言うなよ、ときめいちゃうだろうが。
ああ、もう、ちくしょう。きみのことが大好きだ。
「…………ホワイトデー、期待してるからね」
「え゛ッ、お返しはいらないとか言ってなかったお前!? っていうか、あれの三倍返しって……!?」
さっと青ざめるリトくんを横目に、僕はスイーツショップの看板を探す。
何も、すぐに三倍にして返せっていうわけじゃない。これから僕を寂しがらせた時間の分だけ、借りを返してもらえば良いだけだ。そのためにかける時間なんて、長ければ長いほど良いに決まってる。
──これからどれだけ長い時間きみを『レンタル』できるのか、今から楽しみでならない。
コメント
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rt君の恋した顔を見たことなかったのはttに恋していたからっていうのロマンチックすぎてときめいちゃいました❣️ 今までで一番幸せなバレンタインになりました!ありがとうございます♪
素敵なバレンタインありがとうございましたー!!!!!!!