テラーノベル
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「……あ、ごめん。変なこと言った?」
彼が少し照れくさそうに頭をかき、また前を向く。
青に変わった信号に従って、彼がゆっくりと歩き出した。僕は慌ててその一歩後ろをついていく。
「ううん、変じゃないよ。よく気づいたね」
「毎日隣にいるからかな。……なんてね」
冗談めかして言った彼の耳が、少しだけ赤い。
夕暮れ時の街路灯が灯り始め、アスファルトに伸びる二人の影が、歩くたびに近づいたり離れたりする。
「ねえ、明日も晴れるかな」
彼が不意に立ち止まって、空を見上げた。
「予報では晴れだったと思うけど」
「そっか。じゃあ、明日もまたこの道、一緒に帰れるな」
振り返った彼の瞳には、街の灯りと、言葉を失って立ち尽くす僕の姿が映っていた。
ただの帰り道。ただの信号待ち。
それだけのはずなのに、肺の奥まで吸い込んだ夜の空気は、彼と同じ柔軟剤の、優しくて甘い香りがした。
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