直弥side
この三ヶ月、人生でいちばん楽しかった。
病院にいながら、
まるで普通の高校生みたいに笑って、
写真を撮って、ふざけて。
なにより、今年も哲汰の誕生日を
祝えたことが嬉しかった。
ケーキの生クリームをお互いの顔に
つけ合って、スマホで写真を撮って、
笑い転げた。
あのときの哲汰の笑顔を思い出すだけで、
胸の奥が温かくなる。
ああ、こんなにも幸せな時間が
あったんだって、
今でも信じられないくらいだ。
でも、楽しい時間ほど過ぎるのは早くて、あっという間に十二月になった。
今年も残り一ヶ月。
俺の体は、哲汰の誕生日を祝ったあとから
さらに弱っていった。
今は酸素マスクをつけて、
ほとんど寝た体勢のまま過ごしている。
正直、しんどい。
胸の奥がいつも重くて、
息を吸うのも吐くのも、
ひとつひとつ意識しないとできない。
だけど、哲汰が来ると、
なぜかしんどくなくなる。
哲「直弥、大丈夫?」
直「……うん」
哲汰は俺の頭をそっと撫でてくれる。
その手が、びっくりするくらい暖かい。
哲「手……握っていい?」
直「うん」
指先が絡む。
その瞬間、体の奥にあった重さが
少しだけ軽くなる気がした。
哲汰の手のぬくもりが、
心臓に届いてくるようで、
胸の奥がふわりと熱くなる。
哲「直弥、俺さ……」
直「なに?」
哲「今日もちゃんと学校行ってきた。で、帰りにコンビニ寄ってさ――」
いつも通りの話をしてくれる。
ほんの小さなことなのに、
それだけで世界の色が変わる。
ああ、あとどれくらい
この手を握れるんだろう。
そんなことを考えないようにしながら、
俺は哲汰の声に耳を傾けた。
酸素マスク越しに、小さく笑った。
その笑顔を、
哲汰は見逃さなかったみたいで、
ぎゅっと手を握り返してくれた。
___手離したくない、この手を
コメント
2件

ほんとに最高ですт т 続きが気になりすぎます