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「急に悪いな……」
「いえ、何かありましたか?」
突然呼び出された大我は戸惑い気味に尋ねる。
「まあ、そこに座ってくれ」
「はい……」
そして促されるまま大我がソファーへ腰を下ろすと湊は隣に控えていた真宙にも視線を向けた。
「真宙も座ってくれ」
「かしこまりました。では、失礼します」
三人が向き合う形になったところで湊は一度だけ息を吐くと大我を真っ直ぐに見据えた。
「大我、これから俺が話すことは社長と副社長という立場じゃなくて……従兄弟として聞いて欲しい」
「え……?」
思いがけない言葉に大我が眉を寄せる。
「仕事についての話でもあるけど同時に俺自身のプライベートにも関わる話だ。だから今日は会社の人間としてじゃなく従兄弟として話をしたい」
暫く湊の顔を見つめていた大我だったが、その真剣な表情からただごとではないことを察したのか、
「…………分かった」
短く答えて姿勢を正した。
「まず初めに……俺の今後についてだ」
「今後?」
「ああ」
「俺は社長の座を退くことになった」
「……なっ!?」
あまりにも突然の言葉に大我の目が大きく見開かれた。
「どういうことだよ、湊くん」
「実はな……俺がずっと探していた人が、見つかったんだ」
「探していた人……?」
大我は少し考えたあと、ハッとしたように顔を上げる。
「……もしかして和葉さん!?」
「ああ、そうだ。少し前に偶然再会してな……今は、また付き合うことになった」
「それは良かったけど……だからってどうして社長の座を降りることになるんだよ?」
「いや……むしろ、このことが大きく関係している」
「どういうこと?」
「和葉が俺の元を離れたのは……親父が全て仕組んだことだったんだ」
「……伯父さんが?」
「ああ。俺が海外研修で日本を離れている間に親父が和葉に接触して、俺たちを別れさせるために……いろんな手段を使っていたらしい」
「そんな……」
「まあ、それだけでも許せることじゃねぇけど……和葉には今、四歳になる娘がいる」
「…………え? 娘……?」
「ああ」
「それって……年齢的に……まさか、その娘って……湊くんの?」
「ああ、俺も昨日、和葉から聞かされた。まあ、その少し前から……もしかしたらという可能性は考えていた。だけど、やっぱりそうだった」
「…………」
話を聞いた大我は何も言えなかった。
湊より二つ年下の大我は、従兄弟である湊が和葉と交際していることは当時から知っていた。
二人が互いを大切にしていたことも知っていたし、だからこそ大我自身も二人の関係を応援していた。
それが突然和葉が姿を消したと聞いた時には、何があったのかと心底驚いたし心配もした。
深く傷ついていた湊を何度も励ましてきた。
その二人を引き裂いた元凶が自分の伯父だったなんて。
大我はその事実に酷く胸を痛めていた。
「……その、和葉さんに子供がいたことを、伯父さんは?」
「知っていたようだ」
「……え?」
「知っていて、それでも尚、和葉を俺から遠ざけようとした……脅迫めいた言葉まで使ってな」
「…………」
その瞬間大我は完全に言葉を失い、少しの間沈黙が続いていく。
その沈黙を破ったのは湊だった。
「だから、俺は親父を許せない。俺から和葉を奪っただけじゃなく詩音まで奪おうとした。俺と和葉と詩音の三人で生きていくはずだった未来まで、親父は奪おうとしたんだから……そんなことをされて、許せるはずがないだろう?」
「……そう、だね……」
大我はそれ以上何も言えず、ただ頷いた。
「親父は俺が和葉と再会したことまで嗅ぎつけて君嶋の令嬢との見合いを勝手に進めた。あの女も親父と同じで利益が最優先だ。俺が和葉と離れないと分かればどんな手を使ってでも仲を引き裂くつもりらしい」
「そんなことまで……」
「俺は親父や君嶋の令嬢から和葉と詩音を守らなきゃならない。その為には……会社も鳴海の姓も全部捨てるしかない」
「…………」
「だから……俺の後を、お前に継いでほしい」
「……え?」
「この会社はお前に託したいんだ」
湊は幼い頃から跡取りとして生きることを求められて会社を守る為に必死に努力してきたのに、その全てを手放そうとしていることを理解しているからこそ、大我にとってその一言は先程までの言葉とは比べものにならないほど重かった。
「……やってくれるよな?」
「…………俺、悔しいよ。湊くんは……ずっとこの会社のために一生懸命やってきたじゃないか。誰より会社のことを考えて、誰より責任を背負って……それなのに、どうして湊くんが全てを捨てなきゃいけないんだよ……」
悔しさを堪えるように大我は唇を噛み締める。
「俺に……そんな大切なものを預けていいの……?」
その問いに湊は迷うことなく頷いた。
「ああ。お前だから頼んでる。俺がこの会社を捨てるからって、会社そのものまで捨てたいわけじゃない。俺がいなくなったあとも、ここで働いてる人たちの生活は続いていく。俺がこれまで築いてきたものも会社を信じてくれている取引先もなくしたくない。だからこそ、お前に託したいんだ」
「湊くん……」
大我は目を伏せて暫く黙り込んだあとでゆっくりと顔を上げると、
「……分かった、俺が引き受けるよ」
強い眼差しで湊を見つめていた。
「湊くんがここまで守ってきた会社を俺が守るよ。従業員も取引先も……湊くんが積み上げてきたものを必ず守ってみせるから」
「……ああ、頼む」
「だから湊くんは自分の家族を守って……和葉さんとお子さんを幸せにしてあげて」
「……ありがとう」
自分を心配し、味方でいてくれる人がいることに感謝をしつつ、湊は今後についての話を更に進めていく。
コメント
1件
湊くんの決断、重かったな……。社長の座を降りて、和葉さんと娘さんを守るために全部捨てるって覚悟がすごい。それを受け止めて「会社を守る」って言った大我の言葉にもグッときたよ。従兄弟同士の信頼関係がちゃんと描かれてて、この場面だけで二人の絆が伝わってきた。
#ヤクザ
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