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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
モブ視点の医者パロです。
「高橋くん」という若手医師(モブ)視点。
青桃要素はほんの少しになってしまいましたが、ほんのり感じる幸せを読み取っていただけたら嬉しいです。
名前のついたモブだらけの話になってしまったので、モブが苦手な方はお気をつけください!
その日は、自分にとってこの病院での最後の勤務日だった。
系列の病院から半年の期間限定で派遣されてきた、最終日。
これまで、まだ若手医師だからとお偉い外科医の外来診察に同席させてもらってきた。
勉強になることはもちろん多かったけれど、本音を言えば今日という日を待ち望んでもいた。
どんなに腕のいい外科医だと言っても、人間的に尊敬できない医師にくっついて勉強することは精神的に負担でしかなかったからだ。
「何ぼーっとしてんだ!」
患者が診察室から出て行ってすぐ、今日も今日とてその外科医の罵声が響いた。
この分だと表の待合室にも聞こえているかもしれない。
さっきの診察で使ったファイバースコープの機器を使用済みラックに置きながら、俺は自分が怒鳴られたわけでもないのに肩をびくりと震わせた。
振り返った目に、小さくてずんぐりむっくりの外科医が一人の女の子に詰め寄っているのが映る。
その子はアシスタントの子で、診察時に事務的な面で医師の補佐をしてくれる子だ。
相田さんという、まだ若くて、笑うと目がなくなるくらいににっこりとするかわいい子だった。
「ファイバースコープの処置をカルテに記載もせずに何やってんだ!君は何のためにここにいるわけ!?」
「申し訳ございません…!」
小さく体を縮こまらせて謝る彼女。
慌てて電子カルテを操作しようとするけれど、外科医の方が先に「もういい!自分でやる!」と声を荒げた。
鼻息荒く自身の端末を操作し、かちりかちりとマウスの音を響かせている。
…ちょっと待てよ。確かに診察時、行った「処置」をカルテに記載しなければいけない。
でもそれは診察室にいる医師がやろうがアシスタントがやろうがどちらでも問題はない。
処置自体はこの外科医に指示されて俺が行った。
そしてアシスタントの彼女は診察室に同席しながらも、他の仕事と並行してマルチタスクをこなしている。
処置が終わった時点で速やかにカルテ記載できるのが一番だけれど、手が空かずにタイミングがずれてしまうこともあるだろう。
…じゃああんたは、処置を俺にやらせてる間何してたんだよ。
手が空いていたのはお前だけだろ。
そう言いたい言葉を、言えるわけもなく飲み込む。
足の横で握った拳にぐっと力をこめた。
さっきの診察が、この外科医にとって今日最後の患者だった。
もう診察室に用はないと言わんばかりに、外科医は「高橋、行くぞ!」と俺を呼びながら踵を返す。
それに慌ててついていき、俺も白衣の裾を翻した。
…本当は、相田さんに何か一言声をかけてあげたかった。
だけど先生の目がある上、こんな時に何を言ってあげればいいのかうまく言葉にすることもできない。
盗み見るように最後に振り返った俺の視界に、ぐっと唇を噛みしめて俯く相田さんの姿が映った。
偉そうにふんぞり返った外科医にその後いつも通りねちっこい指導を受け、ようやく解放される。
まるでこの数時間で5年分は働いたかのように疲弊した気分だった。
脱力して体を引きずりながら、次の仕事に移る前にもう一度診察室に寄った。
相田さんはもうそこにはいなかった。
誰もいなくなった、空っぽで静かな診察室。
彼女のPCは残されていたから、この後また戻ってくるのかもしれない。
技術的に学ぶところは多くても、アシスタントに当たり散らすようなあんな医者と働くなんてごめんだ。
だから今日が最終日で、元いた病院に戻れるのは本当に嬉しかった。
誰だって尊敬できる人間から教わりたいに決まっている。
俺はもっと、人の心に寄り添える医師になりたいのに。
あの時本当は、相田さんをかばってあげられたら良かったのだろうか。
あの場で怖い上司に「それは違います」と声を上げることもできなかった自分が、今更何を言っても陳腐な言い訳にしかならないだろうか。
それでも、自己満足だとしても放っておくことができない。
せめてもの労いの気持ちで、多分この後戻ってくるだろう相田さんの席に、ポケットに忍ばせていた飴を3つ置いた。
デスクの上の裏紙に「おつかれさまです」とだけ書いて飴の下に敷く。
こんなことしかできない自分に歯痒さを感じながらも、そっと診察室を後にした。
「あ、高橋くん」
診察室裏の通路を歩いているとき、ふと声をかけられた。
「おつかれさまです」
後ろを振り返った俺は、相手を見据えてぺこりと頭を下げる。
「おつかれさまー」と間延びするような声を漏らしたその人は、数ヶ月前にこの病院に来たばかりの女医だった。
ナオ先生と呼ばれている。
誰もが一目置くほど優秀で、高く結い上げたポニーテールの似合う美人。
一見圧を感じそうなのに割と人懐っこくて、スタッフ皆から好かれている。
「今日最終日だよね、おつかれさま」
「はい、ありがとうございました」
もう一度頭を下げかけた俺に、ナオ先生は小さく頷く。
そしてそれから「あのね」と言葉を継いだ。
「この後、飛び込みの診察入ったから同席してくれない? 3番の診察室で」
「3番…ですか」
さっきまであの外科医が使っていた部屋だ。
…もしかしてまたあの先生の診察か?と眉を顰めかけたのが分かったのか、ナオ先生は苦笑いを浮かべた。
「あ、違う違う。あの先生じゃないんだけど、高橋くんは何もしなくていいから、とりあえず診察室にいて」
「…はい……?」
「ここのところずっとあの先生にばっかりついてたでしょ? 最後くらい別の先生の診察も見てみてほしくて」
口調からして、ナオ先生の診察でもなさそうだ。
分かりました、と了承した俺に、彼女は満足そうに今度はにっこりと笑った。
「1時間後くらいになると思う。後で呼び出しかかると思うから、よろしくね」
そう言い置いてヒールの音を鳴らしながら歩き去っていくナオ先生の後ろ姿を、肩越しに振り返りながら見送った。
ほぼ予告通りの1時間後、事務の子から呼び出されて行った診察室にはもう既に人の気配があった。
入口手前に相田さんが座っている。…そうか、この診察も同席するのか。
彼女はぺこりと俺に頭を下げたきり、自分のPCに向き合っている。
相変わらず診察室にいながらもこなさなくてはいけない仕事は多岐に渡っているらしく、高速で端末のデータを操作していた。
邪魔をしないように声もかけず、更に俺は部屋の奥に視線をやる。
そんな目に映ったのは、医師用の椅子に座った白衣の後ろ姿だった。
派手なピンク色の髪がこちらを振り返る。
「お、高橋くんじゃん。よろしくー」
「……よろしくお願いします」
…ないこ先生。うちの外科の中で、一番将来を有望されている先生だ。
身長は割と高めで、スタイルがいい。何より顔がいい。
最強のビジュを持っていながらもそれを鼻にかけるようなこともなく、ナオ先生と同じようにスタッフからの評判はいい。
あの外科医にうんざりして早くこの病院から出たいと願っている俺も、ないこ先生のことは密かに尊敬している。
あまり直接的に絡んだことはないけれど、ふとした時に見かけた一面や周りからの評価は見習いたいものだったから。
自分の指導医がこの人だったら良かったのに、と切に思ったのは、少し前に見かけたちょっとした騒動の時だ。
院内で急病人が出てハリーコールが要請された時。
とあるレジデントが、「どうせ何かできるのは数人だけなんだから招集無視したってよくない?」なんて不謹慎で不真面目なセリフを吐いていたのを覚えている。
あの時も、俺は胸の内で怒りを覚えながらも何もできなかった。
自分はここの病院の正式な人間ではないし、後々面倒くさいことになりそうで。
あの時、ないこ先生がそのレジデントを叱りつけたのを俺は遠目に見ていた。
レジデントの戯言…更にそいつらは小児科の連中で、外科のないこ先生が叱責しなければいけない立場でもなかったはずだ。
それでも見逃さなかった彼の正義感は、きっと倒れた患者さんに寄り添いたいと思う気持ちからだったんだろう。
そう思うと同時に、「自分はここの病院の正式な人間ではない」なんて言い訳を胸の内に転がしていた自分が恥ずかしくなった。
「ないこ先生。僕今日、ここで見てるだけでいいって言われたんですが…」
ぽつりと呟いた俺の顔を、ないこ先生は座ったまま見上げてきた。
それから「うん」と小さく頷く。
自分の隣にあるもう一つの椅子をこちらに差し出してきた。
「そこ座ってていいよ。特に何かしてもらうこともないから」
「…はい…?」
俺の答えを待つ間もなく、彼はまたくるりと椅子を回してデスクに向き直る。
そこに備え付けてあるマイクのボタンをオンにして、「柳原さん、3番の診察室どうぞー」と告げた。
きっとこの少しハスキーで心地よい声が、今表の待合室の天井スピーカーから流れたことだろう。
ほどなくして、ノックと共に一人のおじいさんが入ってくる。
奥さんだろう、同じくらいの年に見えるおばあさんが支えるようにして並んでいた。
「こんにちはー」
にこりと笑ったないこ先生が挨拶をした時、すぐそこにいた看護師が2人に椅子を勧める。
柳原さん、というらしいそのおじいさんは、座るなり申し訳なさそうに顔を歪めていた。
「先生悪いねぇ…今日外来日じゃないのに急に電話して…」
カルテを盗み見ると、柳原さんは随分昔からうちに通っているらしい。
ないこ先生とも気心しれた仲なのか、まるで孫に語りかけるみたいに穏やかな口調だった。
「全然大丈夫ですよ。咳と痰だっけ? 症状あるときはすぐ電話してねっていっつも言ってるじゃん」
「でもどうせ5日後にいつもの診察の予約入ってたのに…」
「寝れないくらい辛いんでしょ? 症状あるんだから我慢して5日も待つ必要ないって」
言いながらないこ先生は、柳原さんが訴える今の症状をキーボードでカルテに打ち込んでいく。
「ついでに5日後に予定してた診察も一緒にやっちゃうね」
文字で打つ言葉と口で放つ言葉は全く別のものだ。
それでもさらりと同時進行したかと思うと、ないこ先生はかたんと音を立てて椅子から立ち上がった。
看護師がすぐ近くに準備してくれていた機器を手に取る。
(あ、ファイバースコープ…)
さっき俺が別の患者に行った処置と同じ。
口にその機器を挿入し、ないこ先生は画面に映し出されるカメラ映像を見ながらおじいさんとおばあさんに現状を丁寧に説明していく。
持病の方が特に悪化している様子はないらしく、ないこ先生の説明を聞いた柳原さんはほっとした表情で胸を撫で下ろしていた。
喉の異常と咳は、風邪を引いてしまったのかもしれない。
そんな話を交えているときも、ないこ先生はカルテで薬の処方指示を飛ばしていた。
「薬出しとくね。飲み切ってもまだ続くようだったらもう一回来てください。ここまで来るの大変だったら、家の近くの内科に相談してもいいですよ。もし今回の薬でそのまま症状改善したら、うちはまた半年後の経過観察で大丈夫です」
「ありがとう先生」
「お大事にしてね。あといっつも言ってるけど、お酒はほどほどにね」
からかうように軽く言うないこ先生の言葉に、おじいさんは苦笑いを浮かべて頭を掻いていたし、おばあさんは「ほらやっぱり言われた」なんて笑っていた。
穏やかな老夫婦が退室して行くのを見送る。
ぱたんとドアが閉まった途端に、部屋の隅にいた相田さんが「…あ…!」と声を上げた。
何事かと振り返った俺の目に、また申し訳なさそうな彼女の姿が目に映る。
「ないこ先生すみません…!ファイバースコープのカルテ記載…!」
その言葉を聞きながら、俺も後ろからカルテを覗き込んだ。
あの中年外科医に怒られたときと同じように、相田さんは別の仕事を進めているうちにまた今回の「処置」をカルテに記載し損ねたようだ。
「え?あぁ…うん? 別に大丈夫だよ、俺が今やったし」
きょとんと目を丸くしたないこ先生の反応も当然だ。
あの外科医と彼女とのやり取りを知らないから、相田さんがなぜここまで申し訳なさそうにしているのか分からないんだろう。
「でも…私の仕事なのに…」
また身を縮めて言う彼女に、ないこ先生は「えーー?」と困ったように眉を下げて笑った。
「別にどっちがやってもよくない? 手が空いてる方、気づいた方がやればいいじゃん」
「…でも…」
「今は俺の方が先に気づいたから俺がやっただけ。俺の手が塞がってるときは相田さんがやってくれるじゃん」
…それにしても今の診察の隙に、いつないこ先生がカルテに記載したのか俺も見えていなかった。
噂では聞いていたけれど、この先生の動きには一つとして無駄がないことが分かる。
それでいて患者さんをないがしろにしているわけではない。
いや、むしろあの外科医よりよっぽど素晴らしい対応をしていると思う。
ないこ先生の言葉に胸を打たれたのか、相田さんは少し泣きそうな目をしていた。
それに気づいたのか気づいていないのか、ないこ先生はからっと笑ったまま続ける。
「どしたん相田さん、何か疲れてる? チョコでも食べる?」
言いながら白衣のポケットからチョコレートを2つ取り出した。
個包装されている小さなチョコだけれど、割とお高めのものだと分かる。
予想もしていなかったようないきなりなその展開に、相田さんの方も思わず吹き出した。
少し浮かびかけた涙を拭いながら。
「ないこ先生、いっつも何かお菓子持ってますよね」
「さっき人にもらったんだよね」
言いながら、ないこ先生は「高橋くんもどうぞ」なんて言って俺にまでチョコを差し出してきた。
その白衣のポケットは魔法のポケットだろうか。
何個持ってんだろう、と思わず苦笑いが漏れる。
俺が相田さんの席に置いた安物の飴より、ずっと立派なチョコレート。
それと共にもたらされた先生の言葉は、きっと何よりも彼女の心を軽くしたに違いない。
…もしかしたら、ナオ先生が俺に最後に見せたかったのはこの人のこういうところなんだろうか。
ないこ先生と相田さんの横顔を見比べながら、ふとそう思った。
コメント
6件
医者パロの青桃さん以外の視点大好きなんです!!✨️✨️💕 特に長野さんいちばん好きです👉👈あおばさまは、サブキャラの皆さまも人間味が細かく表現されてて、本当に尊敬です✨️✨️
医者パロッッ…😭😭💕もうほんとに好きなんです…!!飛びついてきてしまいました> ̫< あおば様のお話はモブさんにも名前や人柄がちゃんとあって読んでいてすんなり内容が入ってくるんです…✨ それにナオ先生みたいな人が実際にいたらいいのに…と思うくらいナオ先生大好きなんです🥹💘 桃さんとおじいさんとのやり取りも微笑ましくってとにかく癒しでした🍀 明日も頑張れます!!ありがとうございます!!
医者パロ更新されるとは…!!!ありがとうございます> ̫ <