色んな国が出てきますが、一応カプ無しです。
日本さんが帰省するお話。
旧国、枢軸注意
帰りたい。
そう頭によぎったかと思えば、帰省の身支度をしていた。我ながら行動に移すのが早いなと苦笑しながら、電車時刻の確認をし、有休を取り、新幹線も予約し、父達へ連絡を入れた。
『一週間後に帰省します。よろしくお願いします。」
これでヨシ。急だな、待っているぞと連絡が返ってきたのを確認した後、叔父達と喧嘩しないで下さいねと折り返しておいた。
「聞いて下さいよ、だって、皆さん僕に責任を押し付けてばっかりで! 本当に頭に来ちゃいますぅ〜うぅ〜…」
「日本終了なんて、そんな簡単に国は終わりませんし! 久々に外交について行ってヨーロッパ巡りしてたら、どこからともなく差別用語がぁ!! 僕もう国やめます!」
「おうおう、疲れてんなぁ。もっと飲め、そんで忘れろ」
丁度2週間前に溢した愚痴はまだ記憶に新しい。そんな都会に疲れたのだろうか、だから帰りたいと願ったのかもしれないな。たしかあの時はドイツさんが相手だったはずだ。待て待て、僕、ヨーロッパの国に差別の話したのかよ…気まずい。
終わったことは仕方ないか、と気を取り直しながら移り変わっていく風景に焦点をぼやかしながら目を移す。ガラス越しの、木漏れ日に当てられている木々は、寂れた心をゆったりと溶かしていった。
まだまだ寒さは続くが、季節は立春を通っていて、じきに冬から春へと形を変えるのだろう。お花見は誰と行こうか、なんて先の事を考える。ガタンゴトンと揺れる電車内は昔に父が帝都へ連れて行ってくれた記憶を掘り起こし、また泣きそうになる。
銀世界が広がる、神秘的な冬が好きだ。暖かを告げる春が好きだ。新緑が巡る夏が好きだ。葉が様々な彩へ着替える秋が好きだ。
日本の四季は、全部好き。悲しい事も嬉しいことも包み込んでくれる、優しいこの土地が好き。父達が愛した土地だから、僕も愛している。
『次は終点、〜〜〜………』
周りを見れば人は少なく、ガラガラの車内だった。新幹線と古びた電車を乗り継いで着いた土地は、父達が住む日本海に沿った雪に覆われた場所。僕の故郷と言っても過言では無いほどの、見慣れた景色に目が熱くなった。
ズボッと音を鳴らして、雪を踏み締める。懐かしい感覚に笑顔を溢しながら、着きました、と連絡を入れた。
「よく来たね、ゆっくりしていきな」
「ありがとうございます、空さん」
「ははは、久しぶりに帰ってきてくれて嬉しいよ。待っててね、海と陸ももうすぐ帰ってくるから。今釣りに行っているんだ」
「承知しました。でしたら、今晩は僕がお夕飯をお作りしますね」
「いいよ〜、今日くらいゆっくりしなよ〜! 僕たちだって長期休暇貰って暇だったんだよ」
「ふふ」
気さくで笑顔が絶えない空叔父さんは、家に着いた僕を優しく歓迎してくれた。2階へ上がり荷物を置かせてもらった後、お昼ご飯だから降りておいでと召集がかかった。まだお二人は帰ってきてないそうだが、どうやら僕たちだけ一足先に食べてしまうのだそう。
「これ、ご先祖様にお供えしてきてね」
「はい」
空さんから渡された、小さな、本当に小さな茶碗に白米を少量よそわれたモノを仏壇へ置く。上を見れば今までの化身の写真や絵が飾られており、長い永い歴史を噛み締めた。ありがとうございました、どうか天国でお過ごしください、とお祈りをし、戻ろうとしたその時。
「え、生きてるけど。死んで無いが?」
「は?」
どこからともなく声がした。心霊現象は今に始まったことでは無いが、あまりにも珍しい自体だったので素っ頓狂な声が出た。
「う〜ん、もしかして君…まさか…僕のことを本当にこの世のものでは無いと思って…!?」
「は? え、え?」
そのよくわからない黒いモヤは、悲しそうな雰囲気を漂わせた後にすんっと消えて行った。
「………ほ、ほ、」
「…え、何、突然大きな声出してどうしたの日本」
「偽物のご先祖様が現れました…」
「あぁ、それ南北朝だよ。たまにイタズラで出るんだ」
「すみません初耳です」
「だろうね、でも江戸さんには会ったことあるでしょ? 僕たちの父上」
「あ、はい、その方なら幼い頃に一度だけ化けて来ました」
「不思議国家だね〜」
「父上〜! お久しぶりです!!」
「おぉ、日本。おかえり」
「俺は無視かい、日本くん?」
「あっ、おかえりなさい海さん」
「あらやだ冷たい」
釣りから父と海さんが帰ってきた。空さんがお昼出来てるよ、と居間へ戻って行ったが、残念だったな。僕たちは父上達よりも先に美味い料理を食べてしまったのだ。空さんが悪い顔をしながら珍味を出してきた時は、なんだまた戦争でも仕掛けるつもりか、と疑ってしまったのは口が裂けても言えないが。実際に父達に知られてしまえば兄弟間戦争待ったなしだとは思う。
「父上達が帰ってきて早速ではありますが、僕も海を見てきます」
「うん? そっか、気をつけて行ってこいよ」
「ありがとうございます、海さん」
「あぁ、それならついでに市場でフグも買ってきてもらってもいいか」
「…フグ? 売ってるんですか?」
「あぁ、最近ここら辺りでは珍しく取れているらしい」
ほほう、フグか。僕も父も免許を持っているし、今夜の夕飯にでも出すつもりだろうか。久しぶりの帰省でフグが食べれるとはなんとも贅沢だ。早く食べたい!
「承知しました! では!」
「あぁ、いってらっしゃい」
ピロン。海を散策し、市場に向かっている時にメールが来た。仕事関係の通知は全て切っているため、友人からだろうか。
ほぼ無意識にスマホを取り出し、内容を確認する。
『これから皆んなでゲームするんだけど、日本も来ない?』
台湾からだった。彼からのお誘いであれば乗りたいのは山々だが、今は辺鄙な日本海沿岸にいる。物理的に無理なので、断りの連絡を入れておいた。
帰っている時に友人から連絡が来ると一気に現実へ引き戻される感覚は、今も昔も変わらない。幼い頃の感覚はずっと自身の奥底に留まっているんだなぁ、としみじみしていた所で市場に着いた。
塩の匂いに打たれると、我は海の子を歌いたくなる。しかし、考えてみろ。誰かに聞かれていたら地獄だ。ということで、若干の虚しさを感じながら市場の大きな入り口をくぐった。
「おぉ、案外賑やかなものですね!」
そう独り言が自然と出てしまうくらいには人で賑わっていた。どこかで嬉しく思いながら、お目当てのフグを探す。
馴染みのない市場は、昔にやった虫探しを彷彿とさせた。幼かった自分にとっての大冒険は、今でも楽しめるらしい。
フグも無事見つけ、砂浜を駆け回る。
普段の自分からは考えられないほどの速度。
何故かって? 何故走ってるかって? 理由は明白だ。
「わぁぁぁぁぁあ! ぼ、僕はただただフグを買ったまでなのですが!?」
「待ってぇぇぇ、待ってって言ってるじゃない!!! そのフグ! そのフグよぉ!」
よく分からない、ルーマニアに似た国旗が顔面に刻まれている化身に追っかけられてるからである。どうしてこうなった。
「はぁ…あっ、日帝!」
「えっ、父さん!?」
彼女がそう後ろを向いて言うもんだから、僕も止まり振り向いてしまった。それが彼女の罠だと気付かずに。
「…っ、捕まえた、日本くん!」
「………(あぁ、終わった)」
一体僕はどんな拷問に遭うのだろう。ルーマニアに似た国は、その見た目からは予想できないほどの筋肉で僕の腕を掴む。
「えっとね、私はそのフグが欲しいの。勿論お金は払うわ。それが最後の一番だったのよ、お願い」
…フグ?
「…断ったらどうなるんですか。というか、誰ですか貴方。申し訳ありませんが、日本国民ではありませんよね? 僕は貴方を申し上げません」
「あぁ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね」
そんな彼女は、自身をルーマニア王国と名乗った。
「ルーマニア王国…あぁ、あの枢軸の…」
「えぇ、知ってるじゃない! 日帝の息子だし、当然と言えば当然よね」
ということで、フグを頂戴! と可愛らしい笑顔でむごいことを言う。いや、無理だが?
「嫌ですよ、どうして僕がわざわざ…他の市場にでも出向いてみては?」
「うわ、断り方も日帝そっくり。あのね、私は日本旅行に来てるのよ。ついでに日帝に会いにね、このど田舎まで足を運んだわけでね」
「はぁ」
「ルーマニアのお土産は一緒に来たイタリア王国に食べられちゃってね」
「はぁ」
「ナチスはお土産すら持ってきてなくてね」
「はぁ」
「中華民国は電車内にお土産を忘れちゃってね」
「はぁ」
「ソ連はいきなり誘ったから寝起き一時間で飛行機に乗ったのよ、お土産なんて買う暇は無かったみたいなの」
「…はぁ」
この旧国達は何をしているのだろう、暇人なのか。話をさらに聞けば父さんに連絡すら入れてないのだと言う。自衛隊のスケジュールを手に入れ、今が休暇だと知ったのだとか。ストーカーでは?
「それで、日帝が喜ぶ日本のモノって何かなと考えた結果、それが」
「フグだったと言うわけですね。言っておきますが、これは僕用では無くて我が家用です。父も食べるんですよ」
「え、あ、そうなの? コレ、日帝達が食べるの?」
「そうですよ、貴方が説明する暇を与えなかったから…」
そんなまさか、と漫画のように目を見開き驚いているルーマニア王国。
忙しい人だな、と呆れている表情を表に出さないように気をつけないといけない。何故帰省しているのに疲れる必要があるのだろう。
「だったら私たちも日帝の家に行かせてちょうだい! 会いたいわ!」
「……は?」
そう言った途端に僕の腕の中にあったフグが奪われた。
どこへ行っても、僕には不幸が付き纏ってくるらしい。
「……と、いうことで…」
僕は申し訳なさそうに、玄関先でしぶしぶ言う。
「久しぶりね、日帝! ルーマニア王国よ!」
「久しいな。ナチスだ、今日はよろしく頼むぞ」
「というか日帝、ioのメール無視したよね!? ちゃんと行くよって送ったんよ! 三分前に!」
「……時差考えろボケ、夜中に起こしてきやがって…あー…クソねみぃ…」
「ん、お邪魔するよ日帝。一ヶ月ぶり」
目の前には唖然としている父と叔父達。それと、旧国組。中華民国さんは先月台湾旅行へ行った際に会っているので、一ヶ月ぶりとでも言ったのだろう。にしてもソ連さんが不憫だ。寝てるところを叩き起こされて、目が開いてきた頃には飛行機内。うん、同情の余地あり。
「あ、あぁ・・・・いらっしゃい」
「帰れ。アポ無しは許さん」
「とりあえずフグ頂戴よ、あと日本くんは入りな」
父たちは三者三別の反応をしている。相変わらず父は仲間に優しいが、海さんと空さんは辛辣だ。海さんなんかは帰れとすら言ってるし。
考えなくてもそうだろう、家族水入らずで楽しんでいたところに共に戦った仲間とは言え、他人が入ってくるなんて。しかも敵すらいるし。今は割と仲良くはしているらしいが。
「まあまあ海、空。偶にはいいんじゃないか? ほら、折角来てくれたんだから」
「帰れ。いらん、来る必要なんてない」
「・・・・ま、陸兄ぃがそう言うなら、海兄ぃの意見も考慮したうえで中立」
空さんが興味を失ったように家の中へ引っ込んでいく。昔から上二人の喧嘩を見ているから、今回もそうなると予知したのだろう。僕も家の中へ逃げようとする、が。
「なぁ日本クン。君はこいつらに帰ってほしいよな? せっかくの俺たちだけの時間が奪われるも同意義だろう?」
間髪入れずに話題を振ってきた。海さんが。黙ってくれ。巻き込まれたくないし、正直どうでもいい。好きにしろとしか言えないが、ここでないがしろにしてしまっては外交問題になるのでは、と頭に過る。
「・・・・僕は別に構いませんよ。お二人次第です」
「は?」
「圧かけないでください。怖いです」
現役海上自衛隊化身の圧は恐ろしい。一言でお腹辺りがヒュンっとした。
「ほら、日本くんも日帝もそう言っていることだし! いいわよね?」
ルーマニア王国が嬉しそうに目を細める。
「・・・・・今回だけ特別にだぞ。その代わり、ちゃんとお前たちが風呂沸かすんだ」
「! 助かる、ありがとう海」
父さんがふわりと笑った。勝者は父らしい。久々に友人と話せるのが嬉しいのだろう。
「地獄だ!!!!!! 来るんじゃなかった!!!!!!」
大声で叫ぶのは、日帝の旧友であり、最後まで共に戦ったナチスである。
彼らは現在、お風呂を掃除して、たこうとしている最中だ。
何故海はお風呂を自分たちで沸かせることを条件にしたのか、今ならわかる。
それは、露天風呂だからだった。もちろん見晴らしは素晴らしく、あたり一面の雪景色と澄んだ海、周りの明かりの少なさを見れば容易に想像できる華やかな星空。今の季節なら豪華な星座が見れるだろう、ってそうじゃない。問題はそれじゃない。
簡単に言ってしまえば、とても大きいのである。加えて、自然の石の凹凸やプラスでちょこんと置かれている、一人専用のお風呂がまた面倒くさい。しかも普段は日帝たちもここに居ないので、最後に掃除したのは状態から見て一年前あたりだろう。腰を深く曲げるので重労働。
実際、ナチス、ソ連、イタ王で30分間掃除をしているが中々終わらないし、イタ王に限っては日帝達が作っている夕飯の味見をしにいった。最低である。重労働なんてioは得意じゃないんよ~と言い残していった。
しかし、そんな作業も終わりを告げる。あとはお湯をはるだけだ。やっと終わった、とソ連に声をかけようとすると。
「・・・・ナチ、終わったように見えるだろ? 俺もさっきまでそうだったぜ」
「は? 何を言っているんだ、ここまで美しく磨いたのだから終わっても差し支えないだろう?」
「いや、な・・・・あっち見ろ」
ソ連が悲しそうに指を指す。その方向に目を向けると、木々に隠れていて入った時には分からなかったが、小さな小屋が見えた。
「アレな」
「おい」
「多分な」
「やめろ」
「サウナだわ」
「だから何だと言うのだ」
「・・・あの小屋も掃除だ」
「・・・・・・・・・・・・」
本日二度目のナチスの絶叫が家に響いた。
「日帝、これどこに運べばいい?」
「あぁ、それはだな・・・・」
父と中華民国さんがお夕飯を作っている。存外手際が良いのを見ると、彼らの食事への愛情深さが伺える。
まぁ二人を見るに、調理は終わっているらしく、僕と空さんが盛り付けしたものを居間の大きなテーブルに移しているのだ。
海さんはイタリア王国さんと海鮮物のしゃぶしゃぶを作っている。楽しみである。
あああああああああああ!!!!!!!
ナチスさんの叫び声が聞こえた。おいおい、さっきも叫んでいただろう。なぜそこまで声を出す必要があるのだ、と考えてみたが我が家の風呂の大きさや掃除の面倒くささを思えば理解はできる。だがしかし、そこまで我慢ができないのだろうか。僕を見てみろ、普段の僕を。社会にもまれ、化身なのにもかかわらず社畜をやっているのだぞ。ここまで立場とアンバランスなことをしている生き物も珍しいだろう。
「日本、これを頼めるか」
「あ、承知しました」
ボーとしていたら父から追加で盛り付けを頼まれた。見てみると、先ほどのフグではないか。美しく捌かれ、形を変えたソレに食欲が刺激された。
「これで最後だったわよね、日帝。私はナチスたちに伝えてくるわ」
ルーマニア王国が今にもよだれをたらしそうな表情をして、お風呂場へ向かった。
「うん、おいしそうだ。流石僕たちだね。ささ、お酒も用意しようか」
「そうだな。久々の酒なんだ、たまには度数の強いやつでも飲むか」
「・・・・え、本気ですか?」
酒の入った父と中華民国はめんどくさい。本当にめんどくさい。下手したら海さんと殺し合いになるかもしれないので、必死に止めてみるも。
「ははは、現役陸上自衛隊化身に勝てると思うなよ、日本」
「喧嘩売る相手間違えたね~。大丈夫だよ、もちろん君の分もあるから」
見事に負けた。両手を背中に合わせられ、足は絡ませられている。身動きが取れない間に、中華民国さんが酒を倉庫からとってきた。
「・・・・・どうなっても知りませんからね!?」
右には酒に潰れたルーマニア王国さん。左には泣いている空さん。目の前には海さんの頭を酒瓶で叩き割ろうとしている父。
「海叔叔父さん!!! 逃げて!!!!」
「うおらぁ!! 海、今日こそお前を叩き潰す!!!!」
「ふはは、やれるもんならやってみろ、愚弟が!!!!!」
酒が入れと暴れるのは父達だけではなく、海さんもだったらしい。地獄か?
父が腕を振り下ろした瞬間、ぬっと後ろにソ連さんが現れた。すると、瞬きの間に腕が縛り取られ、父の動きが停止した。良かった、暴君の拘束に成功した!とグッドポーズを掲げようとしたが、その隣に現れたイタ王さんで僕の顔色は悪くなる。嫌な予感がした。
「がっっっっ!?!?」
あろうことか、父の口に酒瓶を直接突っ込んできた。よく見ればイタ王さんも顔が赤い。彼も酔っているのだろう、焦点が合っていない瞳は喜々とした色に染まっており、やはりあの時酒を止めていればよかったと後悔の念に若干苛まれる。
酒瓶のラベルを見てみれば、よく分からない外国語の下に71%と書いている。アルコール度数なのだろう、しばらく父はシラフに戻ることは出来ないんだろうな、と確信。僕は逃げるように二階へ上がろうとした。
が。
ガシン、と擬音がなりそうなほどの力が僕の足元を掴んだ。滅茶苦茶痛い。
「・・・・・・・君も、僕を置いていくのかい」
「え、いや、そういうわけでは・・・」
「兄ちゃん達だって、そうだった。お前にはまだ早いって言って、僕を表に出さなかった」
「・・・・・・空さん?」
「今でさえ、何かやろうとすれば兄ちゃん達は心配をする。信用してない証拠だ」
「あの、大丈夫ですか?」
「海兄ぃの所属だったことも、僕は納得してないんだよ」
「お、落ち着いて下さ、」
先ほどまでわんわん泣いていた空さんは、心底悲しそうに僕の目を見てきた。そんな彼は僕の言葉を遮り、何か言おうとする。
「だから僕は、日本国の役に立とうとしたのに・・・!!」
目から大粒の涙が溢れ、畳を濡らす。どのような言葉をかければ良いのか分からず、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
「なぁ日本、一緒に風呂に入らないか」
事態はひと段落し、半数ほどが酒に潰れ睡魔に襲われている時に父から誘われた。海さんと空さんは片付けをしており、ナチスさんが無理やり手伝わされているのを先ほど目にしたのは記憶に新しい。僕たちは先に風呂へ入っておけと言われ、どちら一番風呂を浴びるかと質問しようとしたところだった。
「え、別に構いませんが、窮屈ではありませんか?」
「それほど狭いわけでもなかろう、10人は入れる広さだぞ」
「それもそうですね。準備してきます」
先に風呂へ向かった足取りを盗み見れば、酒はある程度抜けているらしい。僕もさっさと二階へ行き、用意されていた浴衣を手に取り階段を駆け下りた。
長い長い廊下をパタパタと走り抜け、外へと続く木のドアを開ければ、湯気に満ちた世界が広がっていた。今着ている服をゆったりと脱ぎ、腰にタオルを巻き付ける。落ち着き払った咳払いが耳を滑り、音源を確認すれば、父が「おいで」とジェスチャーをしていた。
「えぇ、喜んで」
暖かな湯に足を浸け、白世界に踏み入る。
父との2人っきりの空間は昔の記憶を掘り起こし、どこかに雅さが隠れている感覚さえした。
帰省はまだ始まったばかりである。
終わり。
サムネです
コメント
8件
すずちゃむのおかげで旧国と日本家が共存しているという扉が開いてしまった。後戻りできない
本当ですか!?! いえいえいえ、寧ろダメ元だったのでどれだけ遅くてもお受けして頂けることに感無量です😭 それでは、是非お願いします🙇 関係性は叔父海さん×日さんで不穏系だと有り難いです! あと表では普通に接してるけど実は海さんのこと苦手だったりして…けど実は同類で海さんはそれに気づいてるし日さんは薄々感じてるけど認めたくないみたいな設定があると私が喜びます。ですが、書きにくいようなら全然蹴ってもらって大丈夫ですし、寧ろ主様の書きやすさ優先なので好きなようにお願いします🙇 主様の書かれるものは全部美味しいのでなんでもイケます👍️
なんかもう...途轍もなく大好きです‼️‼️‼️‼️😭😭💕