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兵士たちの剣が抜かれる音に、ソラは身をすくめた。王子の翡翠の瞳は、警戒の色を濃くしながらも、どこか好奇心を含んでいるように見えた。「待て」
王子が静かに言った。その声に、兵士たちはぴたりと動きを止める。
「この娘は…危害を加えるようには見えない。それに、一体どうやってこの部屋に侵入した?」
王子はベッドから降り、ゆっくりとソラに近づいた。兵士たちは依然として剣を構えているが、王子の言葉に少しだけ緊張が和らいだように見える。
「私は…その、どうしてここにいるのか、自分でも分からないんです」
ソラは震える声で答えた。正直に話すしかないと思った。
「私は自分の部屋で本を読んでいて…そしたら急に光って、気がついたらここに…」
王子は眉をひそめた。兵士たちも顔を見合わせている。明らかに、ソラの言葉は彼らには理解できないようだった。
「本?光?」
王子が訝しげに繰り返した。
「あなたは一体、どこから来たのだ?この城の者ではないな」
「はい…私は、この国の人間ではありません。私の国には、魔法なんてありませんし…」
ソラは必死に説明しようとしたが、言葉がうまく出てこない。自分が話していることが、どれほど荒唐無稽に聞こえるか、痛いほど分かっていた。
その時、一人の兵士が王子の耳元で何かを囁いた。王子は少し考え込むような表情を見せ、再びソラに向き直った。
「…分かった。とりあえず、話はそれからだ。この娘を地下牢へ」
「えっ!?」
ソラは思わず叫んだ。地下牢なんて、とんでもない。
「お待ちください、陛下!」
兵士たちがソラに近づこうとしたその時、王子の背後から、さらに年老いた男の声が響いた。
「陛下、お待ちください!」
振り返ると、そこには豪華なローブをまとった老人が立っていた。その顔には深い皺が刻まれているが、瞳は鋭い光を放っている。
「大魔導師グラン!」
王子が驚いたように言った。
「一体どうされたのですか、こんな時間に」
「陛下、この娘は…もしかしたら、我々が長年探し求めていた『異界の旅人』かもしれません」
グランと名乗る老魔導師の言葉に、その場にいた全員が息をのんだ。ソラもまた、その言葉の意味が分からず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「異界の旅人…?」
王子が呟いた。
「はい。古文書に記された予言に、異界から現れる者がこの国の運命を大きく変える、とあります。そして、その者の出現は、突如として、光と共に訪れると…」
グランはソラをじっと見つめた。その視線は、ソラの魂の奥底まで見透かすかのようだった。ソラは身震いした。
「この娘の言葉と状況は、その予言と完全に一致します」
グランの言葉に、王子の表情は真剣なものに変わった。兵士たちも、剣を下ろし、ソラを見る目が変わっていた。警戒から、好奇心と、かすかな畏敬の念へと。
ソラは、自分がとんでもない事態に巻き込まれてしまったことを悟った。ただ本を読んでいただけなのに、まさか自分が「異界の旅人」だなんて。
「では、この娘を地下牢に入れるわけにはいかないな」
王子はグランに言った。
「はい、陛下。むしろ、丁重に扱うべきでしょう。この国の未来は、この娘にかかっているのかもしれません」
グランは深々と頭を下げた。ソラは、混乱しながらも、少しだけ安堵の息をついた。少なくとも、地下牢行きは免れたようだ。
しかし、同時に、新たな不安が押し寄せた。「この国の未来が、私にかかっている」?それは一体どういうことなのだろう。ソラは、まだ見ぬこの魔法の世界で、これから何が待ち受けているのか、全く想像もできなかった。