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大魔導師グランの言葉は、まるで魔法のように場の空気を変えた。兵士たちは剣を鞘に収め、ソラを見る目が畏敬の念に変わっている。ソラは、まだ状況を完全に理解できていなかったが、少なくとも地下牢を免れたことにほっとしていた。
「大魔導師グランの言うことならば、間違いはないだろう」
王子が口を開いた。彼の翡翠の瞳は、もはや警戒の色を帯びていない。代わりに、深い好奇心と、かすかな期待が宿っているように見えた。
「しかし、異界の旅人か…。まさか、この時代に現れるとは」
グランは頷いた。
「陛下、彼女から詳しい話を聞かせていただくべきかと。予言にある『異界の旅人』は、我々の常識を超えた知識を持っているやもしれません」
王子はソラに視線を向けた。
「そうだな。この国の未来がかかっているというのなら、むやみに地下牢に放り込むわけにはいかない。娘よ、名を名乗れ」
「はい…ソラ、です」
ソラはかろうじて答えた。まだ心臓はバクバク言っているが、少しだけ落ち着きを取り戻しつつあった。
「ソラか。ではソラ、君をこの国の客人として迎えよう。だが、君が一体どうやってここに来たのか、そして君の言う『本』や『光』が何を意味するのか、詳しく聞かせてもらわねばならない」
王子はそう言うと、兵士たちに命じた。
「この娘に、客室を用意するように。決して粗末に扱ってはならぬ。そして、大魔導師グランは、この娘から話を聞き、報告せよ」
兵士たちは一斉に頭を下げ、部屋を出て行った。ソラは、自分が王子の客人として扱われることに、信じられない気持ちでいっぱいだった。つい数分前まで、地下牢に入れられると覚悟していたのだから。
グランはソラに優しい眼差しを向けた。
「ソラ殿、驚かれたでしょう。ですが、ご安心ください。我々は決して、あなたに危害を加えるつもりはありません。むしろ、この世界へようこそ、といったところでしょうか」
グランの言葉は、ソラの心を少しだけ温かくした。この見知らぬ世界で、初めて親切な言葉をかけられた気がした。
「さあ、ソラ殿。まずはその話を聞かせていただけますか?あなたの世界と、ここへ来た経緯を」
グランは穏やかに促した。王子もまた、ソラの言葉を待っているようだった。ソラは深呼吸をした。自分が本当に魔法の世界に迷い込んでしまったのだと、ようやく実感が湧いてきた。そして、この世界の未来が自分にかかっているという、途方もない事実。
ソラは、自分の知る世界のこと、そしてファンタジー小説を読んでいた時の出来事を、ゆっくりと話し始めた。まだ不安は尽きないが、目の前の王子と大魔導師の真剣な眼差しに、彼女は少しずつ勇気を得ていた。これから始まる、この不思議な旅路に、ソラの胸は未知の期待と、かすかな興奮で高鳴っていた。