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前書き
今回の話には、第一部 一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)、
『146.アヴァドン (挿絵あり)』
の内容が含まれております。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。
『蹂躙(じゅうりん)』、カリンマ。
ナッキが聞き覚え無かったのも無理は無い。
そんな言葉、二つ名は失われて久しかったからである。
それは、数十年間、魔神王、ルキフェルであったコユキと善悪に仕えたストラスの依り代であったヘロンには特別な感慨を感じさせる言葉である。
彼の記憶の中で、コユキと善悪の最も近くで日々を過ごし、時におっちょこちょいキャラであり続けたスプラタ・マンユに於(お)いて、最大の魔力量を誇ったアヴァドンは憧れ、そのものに他なら無かったからである。
最高位の悪魔は言うまでも無く、ルキフェル、バアル、アスタロトの魔神であり、その後に彼らと同レベルまで昇華したサタナキアである。
然(しか)しながら、従う悪魔たちが憧れ続け、目指し続けたのは至高たる彼らではなかったのだ。
彼らと気安く語らい、時に諌(いさ)めの言葉を発しながらも、その実力故だろうか? 決して遠くに置かれなかった存在、ハミルカルやハンニバル、ハスドルバル、ネヴィラスとサルガタナス、そして最高位の魔神王ルキフェルと家族の様に語らい続ける、スプラタ・マンユ、それとガープ、ベレト、ゼパル、カイムに一途な視線を熱く注ぎ続けていたのであった。
その特別な存在の一柱、蹂躙(じゅうりん)と呼ばれたアヴァドンの『蹂躙(カリンマ)』、所謂(いわゆる)言葉の力を目の当たりにしたヘロンは、大きな体を全て水の中に浸しながら言葉を発した。
「お、王妃様、サニー様、改めて恭順の言葉をお聞きくださいませ…… 貴女様とナッキ王こそ我がお仕えすべき全てでございます…… 私、ヘロン、いいえナイト・ヘロンめの忠誠をお受け取りくださいませ…… ま、マラナッ・タッ!」
「え? 王妃ぃ? そ、そんなぁ、ねえ、ナッキ、まだね、ぼ、アタシ達ってさ、ほらぁ、ねえ? そこまでは、ねえ?」
「マラナ・タ? って、一体何なのぉ? ヘロン! ちゃんと説明しておくれよぉ!」
過去の記憶バフを受けて畏(かしこ)まり捲ったヘロンの言葉に、サニーは照れナッキは初めて聞いた言葉への疑問を口にしたのである。
ヘロンは例の如く、硬い筈の嘴(くちばし)の根元を歪ませた笑顔で答える。
「勿論喜んで説明します我が君、ですが我々鳥族の参上に気が付いたのでしょう、来たようです、ヤゴの親、薄汚いトンボ達が…… 事が終結しましたら、改めてゆっくりとお話させて頂きますね、では、チャチャッと済ませて参りますので、失礼……」
ザバァッ! ブワッサブワッサ! クワアァーッ!
笑顔を引き締まった物に変えたヘロンは水中から空へと羽ばたき、これまでナッキが聞いたどの声よりも大きく鳴いたのである。
その声に合わせる様に、数十の翼が羽ばたく音が聞こえ、空を飛び回っているのだろう、様々な鳥たちがそれぞれの鳴き声で『美しヶ池』の真上を埋め尽くすのであった。
「うわあ、何か凄いね……」
「ナッキ…… ヘロンと水鳥たち、『皆殺し』とか『王の敵を滅せ』とか言ってるんだけど…… 良いのかな?」
「ええぇっ! だ、駄目だよ! 僕等も行こう、良いよね? サニー」
サニーはナッキの口の中で顔を真っ赤に紅潮させながら答える。
「うん、ナッキの行く所ならどこへでも付いていくよ、あ、あ、アナタ…… キャッ、テヘヘ♪」
「あなた? まあいいや、おーいっ! ヘロンーっ! 待った待ったぁーっ!」
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