テラーノベル
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ナッキは勢い良く水面(みなも)に向かって浮上し、途中でグルグル回転していたティガはその水流で吹き飛ばされ池の端まで飛ばされて行く。
それ程強く接触した訳ではなかった筈だが、内耳(ないじ)に限界を迎えかけていたティガによる、回転回避の為の自作自演であったと判明するのは、これよりずっと後の事なのであった。
兎に角、池の水面から顔を出したナッキは、上空を飛び回る水鳥たちに向けて大きな声で告げる。
「皆ぁ駄目だよぉ! 最初から戦う前提じゃなくてぇ、話し合い! 話し合いだよぉ!」
クワァ! グェグェ! ギャワァッ! ゲゲゲゲェ! ギョエェーッ!
「だ、駄目だ…… 聞いちゃいない……」
「鳥共っ! 『飛ぶな』! 『話し合え』!」
ナッキの声を無視して飛び回っていた水鳥達は、サニーの言葉で憑き物が落ちた様に大人しくなり、池の周囲に降り立ち、並んで居住まいを正したのである。
ナッキはずらりと並んだ水鳥の群れを見回しながらサニーに言う。
「さ、サンキューサニー、ん? この音は? い、一体……」
ブーンブンブンブブブンッ! ブンブンブンッ! ブーブブブンッ! ブンブンブンッ!
ナッキの内耳はノイズっぽい騒音に支配された。
空の四方八方から鳴り響いた轟音は、全ての音を掻き消すように池の周囲を包み込んだのである。
水鳥達は無言のままで騒音を聞き続けているようであった。
ナッキは叫ぶ。
「サニーッ! ヘロンと仲間たちを自由にしてぇ! 今すぐだよぉ!」
サニーも焦り捲りだ、この間もブンブンと言う騒音は数を増やし続けていた。
「う、うん! 水鳥さん達、『動け』ぇ! 『自由に』、『自由に』ぃぃ!」
騒音と共に姿を現したのは、ギラギラ光る大きな両の目と、すらりと伸びた長い体を持ち、四枚の羽を高速で上下させ続けている、数百の大きな昆虫の群れであった。
ブンブンという羽音は彼らの本性が暴力そのものを旨としているかのように周囲に響き渡り、喧騒の中で立ち向かう相手を即座に『死』に至らせる、そんな狂気を感じさせるのに充分過ぎるものであった。
サニーの解放の言葉を受け、自由を取り戻した水鳥たちの中でヘロンの副官っぽい、ダイサギが機先を制するように大声で言う。
「ゴアァーゴアッゴアァーッ!」
トンボの中で大きな個体、数匹が同時に羽音を響かせる。
ブブブブブゥーン! ブンブンブンッ! ブーンブーンブーン! ブブブッ!
やや小さめの体に鮮やかなオレンジ掛かった黄色の頭を震わせながら声を上げたのはアマサギだった。
「グエェッ! ゲゲゲグエェッ! グエグエッ! ゲウェーッ!」
トンボの中から、割と小さ目の体に一際シャープな体型をした銀色の個体達が一斉に羽を震わせて答える。
ブンブンブンブンッ! ブブブブッ! ブブブッ! ブブブブブブッッ!
……………………
ここまでのやり取りを聞いていた、ナッキは思った。
――――ふむ、全く判らん……
と。
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