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「ヨミカは・・いないな?」
まあ。気絶させたの、俺なんだけど。
それにしても。背後でせせら笑うヨミカがいないだけで、これほどテンポよく物語が進むなら・・いや、それはあまりにも可哀想か。いなくても寂しくはないが。可哀想だ。
「なぁ、妖狐」
『妖狐ではない。正確にはーー』
「ーーなんでもいいよ。とにかく、あの善良な依頼客に取り憑いてここまで来させた理由を教えろ」
『それより、いいのか?預かりの姪が死ぬぞ』
ヨミカの口を封じている手の間から泡が溢れているのを見て、坂沼は慌ててヨミカの口から手を離した。
「……」
返事がない。放っておこう。
「で?改めて。おまえは何だって人間に取り憑いてまで、こんな“しがない“鑑定宅まできたんだ?」
『覚えて…おらんのか?』
「ふざけないで答えろ」
坂沼は伊達キセルを咥えて居間に戻り、ソファーにドッと座り込んだ。
「頼むよ」
『キセル…ということは、ここは江戸か!』
「残念でした。2000年代だよ」
坂沼は伊達キセルを口で遊びながらいった。
「あと、これは“伊達“だ。煙草、詰めてないし。キセルってなんか鑑定士っぽいだろ?」
伊達メガネなんかとは違うが、“禁煙用ガム“みたいなモノだ。伊達キセルを咥えていれば、なんとなく気分が落ち着くし。頭もよく回る。
『それを咥えるお前は“伊達鑑定士“というわけじゃなッ‼︎‼︎ハハハハハッ‼︎‼︎‼︎‼︎』
「伊達じゃねーよ!!!」
もっともらしく頷く妖狐に、坂沼は噛みつくようにいった。伊達キセルならわからなくもないが、“伊達鑑定士“ってなんだ。ーーなにも、知らないクセに。
「俺がどんだけ苦労したかもしらないくせにっ..!」
『…知っているよ』
「な…っ」
『知っているというておる』
妖狐は風に耳と尻尾を揺らし、何処か遠くを見つめてスッといった。
『肉親に鑑定人の役(エキ)を猛反対され、己(オノ)が人生を狂わせた上に。姪が都から疎開して来て困っておるのじゃろう?』
「疎開いうな」
..まったく、疎開なんてとんでもない事いいやがって..?…あれ、こいつってたしか稲荷大社の妖狐だったよな。だとしたら、なんで疎開なんて言葉を知ってるんだ?
『いつの世も戦は絶えぬな..お主も“御紙”をもらったのじゃろう?どこの配属じゃ』
「だから疎開でも戦時中でもねーよ」
『….そうか』
妖狐は、少し微笑んでいった。
『よかった』
・・・コイツ。もしかしたらーー
「…えーとさ」
右から声が聞こえ、振り向くとヨミカが顔を奇妙に歪めて立っていた。
「『まずい!』」
厄介なヤツが、1番厄介な時に起きた。
“陰陽師としては”半人前ですらないヨミカに、妖狐の実体まで見えるハズはない。きっと、『ついに頭がイカれた』だのナンだのと騒ぎ出すに決まってる。一般人から見れば、ひとりごとをブツブツと呟いているように見えるのだから。・・困る、というか。その事を持ち出されてバカにされることが、神経に障る。
「その人だれ?」
「『……』」
え?
『視えるのか?』
「えーいやだなぁ..見えますよぅー?」
ヨミカが、坂沼をからかう時と同じように妖狐にいった。視えるだけでは飽きたらず、どうやら、ヨミカには声すら聞こえるらしい。
「わたし、視力2.5ありますからぁ」
『化け物』
…おまえがいうか?