「シュリメルこっちは準備が終わったけどそっちは大丈夫か?」「大丈夫って、なにがよ?」「いや、町の人に挨拶をして回ったり、荷造りをしたりだよ」「な〜に、狭い町なもんだから挨拶なんて道中でもできるよ」「じゃぁ荷物は?」「俺は小説の主人公みたく生身の身体1つで旅がしたいんだ。荷物は何もいらないさ」「金くらいは持って行くんだろうな?」「当たりめぇだろうがよ。俺もお前に服だの宿代だのを払ってもらって安心するほど恥知らずの商人じゃねぇ。そこは安心してくれ」「わかってるならいい」シュリメルがそう言ってくれて内心ほっとした。何せ俺はこれから何もかもを2人分払わなければならい。「ハヤセル?荷物持とうか?」「あぁ、ありがとうな。じゃ、表に止めてある荷馬車まで運んでもらってもいいかな」「わかった」リーニに荷物を渡した俺はシュリメルに小麦を貰うために倉庫に向かおうと思い話しかけようとすると「随分懐かれたな?」「そう?」「このままじゃ奴隷にするのも心が痛むんじゃないのか?もっとも、奴隷売買をするには…」「そうだね」「ま、何も今考えることじゃない。今のお前の目的は皮防具の代金と1500金貨分の小麦だろ?」「あぁ。皮防具の代金は半分の1500金貨でいい」「何で?」「その払っていない1500金貨で小麦を貰いたいんだよ。そうすればお前も損はしないだろ?」「なるほど…わかった。それなら村長も納得してくれるだろ。俺は村長に挨拶がてら防具を渡してくるよ。お前は第二倉庫から1〜3と書いてある袋を持っていけ。1組500金貨分だ」「1つの数につき何組あるんだ?」「5袋でひとまとめだ」「わかった。村長さんによろしく言っといてくれ」「任せろ!」と言ってシュリメルは俺の荷馬車から自分の馬車に皮防具を移して村長の家へと向かっていった。俺は倉庫に向かい1500金貨分の小麦を一輪車に移し荷馬車に運んでいった。何とか日の出には間に合った。「はぁ…」「お疲れ」「うん、ありがとう」リーニはこのまま一緒に隣街に行くつもりなのだろうか。それより態度が少しぎこちない気がした「なぁリーニ。お前無理してないか?」「どうして?」「いや、何となくだよ。無理をしてでも気に入られようとしている感じがするから」リーニは少し黙ってから「あたし、捨てられたの。態度が大きくてわがままで金遣いが荒いからって」「そうだったのか」許せない、憎しみ、悲しみ、共感、怒り…沢山の感情が入り混じった中からの一言だった。この子にはまだ生きる知恵も手段も仲間も無い。相当不安だったはずだ。そんな中優しくしてくれる人が現れたら気に入ってもらおうとするよな…。そう瞬時に理解した「別にお前の親と俺らは違う人間なんだから態度が大きかろうが何だろうが気にはしないよ。それより無理に気に入られようとして無理を重ね、体調を崩される方が厄介だからね。楽なようにしてくれればいいよ」「わかった」それからはリーニは少しずつだがよく笑うようになったと思う。そんな話をしていると丘の上から荷馬車を片付けたシュリメルが勢い良く走ってきた。シュリメルの荷物を荷馬車に詰めると早速俺たちは隣街、移民族街ミヤシロへと荷馬車を進めた。隣街と言っても荷馬車で2日かかる。シュリメルの村はセレノア平野というこの大陸の中でもかなり大きい地方の中にある。しかし平野であるおかげで小さな森や湖を除いて、山を越える必要も森を抜けることも川を渡ることもない。安心して旅ができる。







