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しだれ桜咲く頃に / 銀土








初めは桜が舞う木の下でお前と出会った。

桜が散る季節にお前を手放した。

桜の蕾がつく頃に、またお前に手を伸ばした。




「他の女を抱いた手で俺を抱くな。坂田。」


土方は俺の胸を突き飛ばした。


そりゃそうだ。何年触れてない。

何年避けてきた。

俺はどうしようもない愚か者だ。

何も言い返せなかった。


黙りこくった俺を見て土方は胸ぐらを掴んだ。


「でもな坂田。俺はな、待ってたんだ。何年も何年も。誰でも良いわけじゃない。お前じゃないとだめなんだ。でもお前はもう、俺のものじゃない。家族がいて帰るべきところがある。もう、俺のものじゃない、」


胸がぎゅっと熱くなった。


突き放して終わらせた関係は俺だけが前に進んでしまった。あの頃からずっと、ずっと、お前は俺を待っていたのに。


俺は抱きしめた。


きつくきつく抱きしめた。


「土方ッ…!!土方ッ……!!あん時お前を離さなかったら苦しめなかったのに。シンプルな話だったのに、俺はお前の優しさに甘えちまった。…叱ってくれ、殴ってくれ、お前にならもう殺されても良い。頼む土方、許してくれとは言わない。だから、」


「…銀時。お前、幾つになった。」


「へ、」


「36歳…だけど、土方くんもでしょ、」


「子供は、何歳だ。」


「……3歳になる。」


「嫁さんとは仲良いか。」


「……。」


「…そうか。」


「銀時、俺はきっと変わらずお前を愛してる。こんなこと、重荷になる言葉なのは分かってる。でもずっと、これからも愛しいと思うのは坂田銀時だけだ。」


「俺はお前が結婚して子供を作ったと聞いた時、正直絶望した。」


「……。」


「俺を置いてっちまったんだなぁってな。はは、」


「でもな、お前達を見たらな、そんな事どうでも良いくらい幸せな気持ちになったんだよ。」

「子供と手ぇ繋いで歩く姿。お前が二人いるみてぇで。俺には残せないお前を、嫁さんが残してくれたんだと思うと心の底から嬉しくなった。」

「でも同時に、激しく悔恨したよ。世界一愛しているやつの子孫を残せねぇってな。」

「お前があの時俺と別れたのは、俺にもそうなって欲しかったからだろ。」


俺は黙って見つめ続けた。


「分かってるよそれくらい。馬鹿じゃねぇんだ。お前なりの優しさを、俺は踏み躙った。」

「触れられる手も重ねる唇も、お前じゃなきゃダメだった。」

「お前と俺は似てるから、俺にもガキや嫁を持って未来へ繋いでほしいって願ったんだろう。」

「でもなぁ、銀時、」

「俺は常人より頑固だったみたいでなぁ…、お前じゃないと苦しくなっちまうんだよ、」

「なんで今なんだよ、、!俺は忘れようとした。やっと忘れる決心をしたのに、どうしてお前はまた俺の前に現れたんだよ、、、!」


俺は黙って土方の頬に手を添えて、少し無理やり唇を重ねた。


「それは、お前と同じだからだよ土方!!」

「俺は、結婚して、子供ができても、1番はお前だったんだよ!!お前は俺と同じ様に遺伝子を残すもんだと思ったら、独り身でいやがる。俺はお前と一緒になりたかった!!!!!!」


抱えていたお前への気持ちが溢れ出してとめどなく滝の様に流れ始めて。

ぎゅっと抱きしめた手は強く強く力がこもり、もう離したくないという意思が垣間見える。


「……とんだ大馬鹿者だよ。俺もお前も。」


「俺はいつだって待ってる。いつだってな。本気で俺を思ってくれているなら、かみさんとこへ戻ッ、」


「いやだ。」

「もう二度と離したくない。お前の隣にいたい。父親でも旦那でもなく、坂田銀時としてお前の恋人として、そばにいたいんだよ。」


表情なんて見えない。抱き締めて離すつもりがないから。有無なんて言わせない。俺がそう決めたから。


「俺と同じくらい頑固で大馬鹿者だな。お前は。」


「……じゃぁ、駆け落ちでもするか。」

「する。」


「即答かよ。」


「子供は、どうする。」


「…あいつな、俺に似て察しがいい。きっとお前とのことは見抜かれてただろうしこうなるのも分かってたはずだ。」


「会いには行く。俺の生き写しみたいな愚息だから、きっと嫁を守ってくれる男になる。」


「……そうか。」


「世間から見たら酷く冷たい男だと思われるだろうが、そんなことをしてまでも俺はお前を離したくない。」


「愛してる土方。愛してる。」


「嗚呼、俺もだ。愛してる。」


土方は俺の手を取って指を絡め握りしめた。左の薬指に怪しく光る結婚指輪を撫でて。


「…俺もほしい。これ。」


「実は買ってました。プロポーズしたくて。こっそりと。」


「用意周到かよ。」


俺はつけていた指輪を外して。

跪けば指輪を前に翳しながら。


「俺と一緒になってくれ土方。もう離したくない。」


「喜んで。」


左手の薬指に通した指輪。サイズも何もかもぴったりで、二人の印ができた。

絡めた指は離す事なく力強く握られていた。

俺たちはこの一輪の桜に一生を見られている。

辞める時も健やかなる時も、ここだった。

指に輝く新しい指輪を桜にかざすと綺麗で。泣いてしまった。


「……。」


「なぁ、土方。俺達もうおっさんだな。」


「…そうだな。歳を食ったな。」


「俺さ、多分お前が何歳になってもちゃんと勃起すると思う。」


「なんの話だよおめぇは。」


「はは、いやぁな、久しぶりにお前の顔見るだけで脈が速くなって、速く触れたいって思ってさ。」

「麗しいとか耽美とかって言葉はお前の為にあるんだな。」


「馬鹿じゃねぇの。」


「酷くない!?!?めっちゃ良い事言ったんだけど!!!!!」


「俺だって、」


「ん??」


「俺だって、お前を見掛けるだけで抱き締めてほしいって柄にもねぇこと思うくらいにはお熱だよ。」


頬を伝う涙がこの感情に抑えをなくしている気がして。俺は指を絡めたまま、お前を抱き締めた。そして口付けをした。このまま抱いてしまいたい。抱き合って溶け合ってしまいたい。そう強く懇願した。


察したのか土方は俺の手を引いて桜の中へ誘って行った。












fin .

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