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冬季限定。短編集

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冬季限定。短編集

7 - 7 【キーホルダー】(ずっと隣で…。ver)

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2024年10月29日

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湊の居なくなった10年の間に一度だけ湊を探しに東京に行った事があった。


散々探し回り疲れ果てたシンは道の片隅に腰掛けていた。

丁度日付けが変わる頃…。

降り出した雪が頬に触れる。

こんな時間なのにこの街は休む事を知らないみたいだ。

あちらこちらからクリスマスソングが流れ街は華やいでいる。

そういえば今日はクリスマスだった。

そんな事すらすっかり忘れているのだから笑える。

行き交う人達の顔がどれも同じに見える。

こんな所に居るわけないだろうに…

立ちどまって空を見上げる。

眩しい程の街灯の届かないその奥を瞳を凝らして見る。黒い絵の具で染め上げたような空からは白い絵の具を水に落としたような雪が舞い落ちる。

触れると消える小さな氷の粒は冷たく今の自分の心を表しているみたいだ。

会いたい…。

目を閉じれば浮かぶ顔はただ一人だけで。

見つけたい人もただ一人だけなのに。

こんな広い宇宙の中じゃ見つけ出す事すらできない。

自分の無力さに打ちひしがれる。

いっそこのまま消えてしまおうか…。

寒さで身体が震える。

今すぐ会いたい…。

あのひとの声で…笑顔で…冷えた身体なんかすぐに温まるのに。

どうしてあのひとは傍(ここ)にいないのだろう。

信号が赤に変わる。

立ちどまってぼんやりと行き交う人達を見ていた。

ふと車の向こうの歩道に周りとは違う顔を見つけた。

湊さんっ!!

サンタの赤い帽子を被った湊らしき人物を見かけた気がした。

久しぶりに見たかもしれない湊の顔に心が騒ぐ。

今すぐ駆け出して掴まえたいのに信号が邪魔をする。

焦る気持ちだけが先走る。

見失わないようにしっかりと目を凝らし湊らしき姿を追う。

信号が変わると同時に人波をかき分け探す。

赤い帽子…赤い帽子…

呪文のように繰り返す。

こんな日は赤い帽子を被った人がたくさんいる。

紛らわしい…

あのひと以外いなくなってしまえっ…。

そうしたら捕まえて抱きしめられるのに…

完全に見失った。

人違いだったのか…?

諦め切れない想いは足を止めさせてはくれない。

いつしか知らない街の知らない路地裏に来ていた。

もう諦めようか…。

そう思った時、目の前に小さな神社を見つけた。

珍しく猫が祀られている。

クリスマスの夜に神社とは…我ながら滑稽過ぎる…だが、今の自分には縋れるものならなんでも良い…。

どんなご利益があるかはわからないが御参りの代わりに万が一湊を見つける事ができたら渡そうと思っていた小さな犬のぬいぐるみのキーホルダーを奉納した。

神社でもサンタからのクリスマスプレゼントを受け付けているだろうか…。

手を合わせ願いを込める。


これから先何もいらない。望まない。

だから、願いを…たった一つだけの願いを叶えて欲しい。


湊晃を俺にください……。





「シン?」

降り出した雪を見ながら昔の事を思い出していた。

「雪が降り出しましたね…」

あの日とは違う空を見上げシンが呟く。

シンにお茶を渡すと傍らに座った。

「もうすぐクリスマスだな…何か欲しいもんあるか?」

湊の問に

「俺の欲しいものはもう手に入ったので…」

シンは湊を見つめてそう言った。

「俺はものじゃねぇよ…」

「湊さんは欲しいものあるんですか?」

「そーだな…」

少し考えた湊はポケットを探る。

「これっ、かな。片付けしてたら見つけたんだ。ずいぶん汚くなっちまったから新しいのずっと探して……って、シン?」

シンは目を見開き湊の手のひらをじっと見つめている。

「おーい…シン?どうした?」

「湊さん…それどうしてっ…」

「可愛くねぇ?犬のキーホルダー」

ホルダー部を摘んでシンの目の前にかざす。

ゆらゆら揺れるキーホルダーは、あの日シンが神社に奉納したそれに違いなかった。

「似たようなのは見かけたんだけどさ、お腹にМの刺繍が入っているのは無いんだよな〜…」

「……」

あるわけがない。

だって…その刺繍は……湊の為にシンが縫ったのだから……。

湊のМ。

シンは大きな手で小さなぬいぐるみにМの刺繍を一針一針心を込めて縫いつけた。

だから、どんなに探しても同じものなんか存在しない。

湊が今、手にしているのは紛れもなく唯一無二のキーホルダーなのだ。

届いていた……。

シンの瞳から涙が溢れ出す。

「おいっ!!どうした!?なんか変な事言ったか俺……?」

慌てる湊が可笑しくて笑ってしまう。

「泣くか笑うかどっちかにしろっ」

呆れる湊に構う事なく

「湊さん…」

シンは湊を抱きしめる。

「おぃ……」

嬉しくて…信じられなくて…。

シンはこの奇跡をどう表現して良いかわからず、堪らなくなって抱きしめる腕に力を込め湊の肩に顔を埋める。

「どうした?シン…?」

湊の肩に顔を埋めたまま湊に尋ねる。

「そのキーホルダーどうしたんですか……?」

あの日奉納したキーホルダーはあの神社に置いたままにしたはずだ。

どんな経緯で湊の手に渡ったのかシンは気になった。

当時を思い出しながら湊は教えてくれた。

「会社の飲み会で呑み過ぎちゃった事があってさ、気がついたら道に迷ってて…そしたら目の前に小さな神社があって。猫が祀られてるのが珍しくなって近くに寄ったら猫の像の下にこれが置いてあったんだよ。猫に犬って…って、可笑しくなってつい手に取ったらこれが可愛いくて…しかも、湊のМって。もうこれは運命感じて……バチが当たるの承知で拝借してきた………ありゃ若気の至りだな…」

笑いながら話す。

「たんなる酔っぱらいでしょ…?」

鋭いシンのツッコミが入る。

「まっ…そうとも言うか……?」

声を出し笑い合う。

「汚れているのはなんで?」

「会社で使う鞄に付けてたんだよ。こいつ見るとなんだか元気が湧いてきて、今日も1日頑張ろうって思えたんだ。不思議だよな…」

シンの知らない湊の時間をこのキーホルダーは知っている。

自分の分身として湊を支えてくれたのだとシンは思った。

「罰なら俺が全て受けます…」

目を閉じて祈るように呟く。

「どうした?…急に…」

シンの呟きはまるで懺悔のように聞こえた。

「ありがとう……湊さん……」

「なんか変だぞお前……」

言ったあとに、いつものことか。と、湊は笑う。

「今度その神社に一緒に行きませんか?」

「酔っぱらってたから場所なんか覚えてねぇよ」

「珍しい神社なので調べればわかります」

「まぁ…盗んできちまったからな時効とは言え、謝りに行かねぇとな…」

「違います…報告に行きたいんです…」

「……ん?報告…?」

「はい……」

今度はきちんと御参りに行こう。

お礼と報告をしなくてはいけない。


あの日の願いを叶えてくれたお礼をしに。

共に居られる未来を報告しに。


湊さんと2人で…。



【あとがき】

寒い夜にほっこりしてください…。


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