【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
小児科医青×天才外科医桃
麻酔科医赤
小児科の看護師水
ICU専門医黒
緩和医療科医白
のお話です
青視点
夜眠る頃になってもないこは帰って来ず、朝目が覚めたときにはもう出て行っているなんて日が続いた。
仕事が多すぎて多忙を極めているのか、それとも俺の顔を見たくもないのか…いや、どっちもか。
いつもは並んで眠るクイーンサイズのベッドがやけに寒々しい。
起きた瞬間、ぽかりと空いたその隣を一瞥しては吐息が漏れた。
「何したんお前」
帰ってきてはいるはずなのに、1週間は続いたそんなすれ違いの日々。
さすがに感づいたらしいあにきが呆れたような声で問いを投げてきた。
今日はあにきは勤務日ではない。
それでも残務があるせいか、少し院内に顔を出したついでに俺の部屋へ寄ったようだった。
勝手知ったる様子で、あにきは自分と俺の分のコーヒーを淹れる。
簡易的なコーヒーメーカーからこぽこぽと湯が沸く音がして、それを耳にしながら俺は手にしていた書類に目線を落とした。
書き終えた診断書にサインをし、事務方に送り返すファイルへ挟む。
「…なんもしてないよ」
ないこが夜遅くまで院内に残り、朝早くに出勤していることにあにきは気づいている。
それが単に忙しいせいではなく、俺を避けているのだろうということにも頭が回る辺り、本当にやりづらい。
いむしょーなら何となくごまかせそうなものだけれど、こういうときのあにきにはどうしたって嘘がつけない。
あにきが、すっと目を細めて俺を見たのが分かった。
だから「…ふー」と小さく息を吐く。
普段不必要に首を突っ込んでこないあにきだからこそ、踏み込んでこようとしたときには簡単にごまかされてはくれない。
「…いや、何もせんかったんがあかんかったんかも」
ようやくそれだけ呟く。
見るとはなしに電子カルテを開く指が、カチリとマウスの音を鳴らした。
「あの日さぁ、…しょにだが落ち込んでないこが全員集めた日あったやん。あにきの家で鍋した日」
カチ、カチとマウスは画面の意味のない場所をクリックする。
患者IDを打つわけでもなく、ただ会話の空白を埋めるように音を鳴らすだけ。
その硬質な高い音に耳を傾けたあにきは、相槌も打たずに俺の続く言葉を待った。
「あの時、ないこが俺に聞いたやん。何で小児科医になったんか、って。あれに答えへんかったから…やと思う」
それだけ何とか口にすると、ようやくあにきが「…は?」と声を出した。
驚いたような呆れたような…複雑な声音だった。
「え、それだけで? 何で?」
「……」
恐らく、多分ないこはそんなことが本当に知りたかったわけじゃない。
それを教えなかったから拗ねたわけでもないと思う。
ただ「俺が答えなかった」…たったそれだけの事実が引っかかったに違いない。
隠し事をされていると思ったのか、俺にとってその話題に後ろめたいことがあるのではないかと思ったのか…そこは定かではないけれど。
そこまでは、理解できた。
できたけれど…正直泣かれるとは思わなかった。
別に声に出して泣き喚かれたわけじゃない。
ただ、こちらのキスを拒むこともなく静かにその目から涙が流れるのを見て、自分でもはっきりと分かるくらいに動揺した。
…動揺しながらも…不謹慎にもその顔が綺麗だとも思ってしまった。
「言うたらえぇやん。そんなん別に大した話ちゃうやろ」
「いや、分かってるよ? こんなことになるくらいなら、俺やってそれくらい答えるよ。でも…」
でも、今更その話をしようとしたところで…ないこの問いに答えたところで、それに何の意味がある?
ないこが言いたいのは恐らくそういうことじゃない。
一度でも俺が答えをごまかしたということがあいつにとっては問題なのに。
加えて今の状況では…家では会えず、スマホにメッセージを送ってもろくに返って来ないこの現状では、話をしようとしたところで聞いてもらう術がない。
「今言うてもしゃあないけどさ、そもそも何であの時答えんかったん? 『小児科医になった理由』なんて、別に今更ないこに話しにくいほど大げさなことじゃないんやろ?」
あにきの問いに、俺はもう一度息をつく。
…そう、小児科医を目指した理由なんて大した話じゃない。それ自体は話題を変えるほど重要なことでもなかった。
ただ……
「ただ、さ。その話をしようとしたら、余計なことまで話さなあかんやん」
「『余計なこと』?」
俺の言葉を、あにきは丁寧に繰り返した。
…そう、余計なこと、だ。俺がないこに話したくなかったのは。
「小児科医目指した理由を話すとさ、その時の俺が何を見て何を思っとったんかとか…そういう背景も話さなあかんようになるやん」
「…まぁ…そらそうやろうな」
「それが嫌やねん。当時の自分に見えてたもの、それを見て何を考えてたんか…誰を想ってたのか…そういう背景を、ないこに話したくない」
「……」
あにきが一瞬だけ、ひゅっと息を飲んだのが分かった。
こんな言い方で俺の言いたいことが伝わったのかは分からなかったけれど、それでも同情するようにその目が細められる。
「…別の方法でもえぇから、これ以上こじれんようにはよ仲直りせぇよ」
「…ん」
小さく頷いた俺の肩をぽんと叩いて、あにきは部屋を出ていった。
飲まずに置かれたままのコーヒーは自分の今の感情を反映するかのように冷えていく。
残された俺はカチリとマウスをもう一度鳴らした。手元にある書類の患者IDを電子カルテのシステムに打ち込む指は、自分でも驚くくらい重かった。
(続)
コメント
4件
初コメ+時差コメ?失礼します…。 このお話神過ぎて、 永遠に見てたい。 続き待ってます!!