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どうやら周囲の彫刻の群れに気を取られてフェイト神の動作を見ていなかったようだ。
やや恥ずかしそうにしながらカップに口をつけると流石は本場、中々美味しい。
折角なら無調整の濃厚な北海道産が良かったな、そんな事を感じつつフェイト神の手元を見ると、一心不乱に彫刻、熊が鮭を咥えたポーズの有名な奴を彫っているのが分かった。
茶糖家にもコユキが物心ついた頃から飾ってあるアレだ。
大きさは二回り程小さいようで、何となくミニチュアっぽくもある。
同じデザインの熊が二十個位周囲に転がっている所を見ると量産型なのだろうか?
良く周りを見れば他の形をした彫刻も同じ位の数で転がっている事がわかる。
コユキはカップから口を離して聞くのであった。
「ねえフェイト様、ここに有る彫刻ってやっぱりあれですよね? 信徒とか祭司の方々とか、フェイト様を信じ仰ぎ見ている人間達の為の賜物(たまもの)とか、何か力を分け与える為の聖なるアイテム的な? ですよね?」
フェイト神は顔を上げずに彫刻、木彫り熊を削りながら答えた。
「ん? これは函館のお土産物屋から注文された熊ちゃんだぞ、最近は住宅事情に合わせてこれっ位のサイズが売れ筋らしくてな、ははは! そっちのニポポは納沙布(のさっぷ)の方だな、セワポロロとワタラポンクルは網走(あばしり)の土産店からの発注だな! 最近はそっちの方が売れてるらしいぞ? メル〇リだったかな? ははは! 良しっ! 完成だな、さて荷造りするかな」
愉快そうに言うと、先ほど言っていたスーパー、くまがいだったか? そこら辺から貰って来たのであろう中古の段ボールを組み立てて丁寧に梱包して行くフェイト神であった。
「あ、手伝います、幾つづつ入れればいいんですか?」
「おお、ありがとな、同じ種類づつ二十体だ、気を付けてくれよ、セワポロロは三本角と二本の奴は別に入れてくれよ? ほらこうやってプチプチで包んでな! そうそう、上手じゃないかー! 良いぞ聖女コユキ! ワタラポンクルは一本角の先端を傷付けない様に…… そうそうそう! 一段目と二段目を上下逆にして! うん、良いぞ! 天地無用のラベルを張るのを忘れないでくれよ! うん、上手いじゃないかぁ! 流石は聖女だなぁ! 感心感心!」
「そ、そうですかぁ? アタシって働いた事とか無いんで適当だったんですけど~、本当ぅですかぁ~、えへへ、喜んじゃいますよぉ~?」
「ああ、喜んで良いよ! 全然良い! 才能あるよ! 梱包屋さんとか出来るんじゃん! これガチだから! ガチ!」
「そうですか…… んじゃあ今回の一連の問題が解決したら善悪、あ、アタシの相方に相談して梱包屋さん? やってみっちゃたりしようかな♪」
フェイト神の顔色が急激に青褪めて、捻り出した様な言葉を漏らす。
「いや…… すまん…… デリカシーの無い言葉だったな…… すまなかった……」
コユキは段ボールの蓋を近くにあったガムテで封じながら気楽な感じで答えたのである。
「あ、そっかそっか、今回の件が終わったらアタシと善悪は居ないんだったですよね、仕方ない事なんでしょう? フェイト様が気にしなくても良いですよぉ! 働いて認められたいとか二十年位思いもしなかったんだけどね、嬉しい物ね、誰かに褒められるとかってぇ! 今回の件でもちゃんと役に立って見せるから、その時も又褒めて下さいねぇ、フェイト様、あ、フェイトさん!」
「……すまぬ、世界の為なんだ…… 許せよ…… 聖女コユキ……」
「了解だわん、んでどうすんの? この荷物! 集荷とか来てくれるのかな?」
「いや、ここを見つけられる人間はお前たち位だ、運ぶのを手伝ってくれるか? 駅から真っ直ぐ海辺に向かって歩いて行くと白老郵便局が有るからそこまで持って行きたいんだが……」
コユキは都合五つになった段ボールの内、四つを軽々と持ち上げながら答えた、何の屈託もない超良い笑顔である。
「じゃあ行こうか、フェイトさん! その後はカレー風味のスープ、おっと違ったわ! 本場のスープカレーを食べなきゃならないからね! 後、カマラ・ハリスもねっ!」
「? それって若(も)しかしてなまら旨いハラスの事かな?」
コユキはニヤリとしながら答えた。
「良い勘ね、行きましょう、ファイトさん♪」
「あ、ああ、行こうか、フェイトだけどな」
その後、白老(しらおい)の駅から目抜き通りを歩いて郵便物を送り出した二人は、地元に詳しいフェイト神の薦めるレストランで、スープカレーとなまらはらすを堪能したのであった、二人揃って何人前もである。
コユキは認識を新たにせざるを得なかったのである。
スープカレーメチャクチャ旨い、今まで食べて来たのは別物じゃん! これであった。
感心しながら新千歳に向かうタクシーの車内で、スーパーくまがいの海鮮丼の数々をデザート代わりに平らげながら、やはり本場は全然違うと心から感じるコユキであった。