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ご本人様とは全く関係ありません
大尊敬さまから、
いきなりのフォローが来て
舞いまくっているさくらあんです。
なんでわたしなんかを
フォローしてくださったんですか?
理由を聞きたい、本当に。
Day5 すれ違いと猫
猫はストレスを抱えやすい動物として
知られているようです。
この猫の場合どうなのでしょうか……?
あの出来事の翌日から、
ないこは露骨に俺を避けるようになった。
あの後は、周りの人にも手を借りて、
なんとか家までは帰り着いた。
ないこの部屋に寝かせてから、
その日は一度も、
部屋の扉が開くことはなかった。
次の日も休みやったが、
やっぱり、ほとんど部屋から出てこない。
出てくるのは、
食事を作るときか、
風呂やトイレに行くときだけ。
それも必要最低限で、
作った料理は自分の部屋へ持ち帰って、
そこで食べているらしかった。
そんな状態が、
気づけば二日ほど続いている。
昨日から平日になったからか、
弁当だけは用意されていた。
机の上には、
ラップのかかった朝ごはんと、
きちんと詰められた弁当。
けれど、ないこ本人の姿は、
もうそこにはなかった。
土曜日、ショッピングモールで
合鍵も作ってもらったから、
外出そのものは心配していない。
せやけど。
あのとき聞こえた怒号で、
過呼吸を起こしてしまったこと。
それが、頭から離れない。
身体のことも、
それ以上に、
心のほうが心配で。
見えない分、
余計に、不安が募っていった。
いくら
俺が不安になろうが、
心配しようが、
時間だけは、容赦なく刻々と過ぎていく。
「今日もおつかれ、まろちゃん」
はい、と笑顔で差し出されたのは、
自販機でよく見かける缶コーヒーやった。
「え、ええの?」
「外見てみ。もう夕暮れやで。
ちょっと休憩してもえぇやろ」
……ほんまや。
思わず窓の外に目を向けて、
静かに目を見開く。
考えないように、考えないようにと
仕事に没頭していたら、
気づけば、もう夕方になっていた。
最近は、
あの日みたいな残業が続くこともなくて、
遅くても19時半には
会社を出られる日が多い。
きっと、この調子なら。
今日は18時くらいには
仕事を切り上げられるやろう。
……それでも。
家に帰れば、
本来なら二人いるはずの場所に、
待っているのは、俺ひとりだけ。
そう思うと、
ほんの少しだけ、憂鬱になった。
画面を見つめたまま、
指先が、ほんの一瞬だけ動きを忘れる。
「お互い、もうひと踏ん張り頑張ろな」
初兎の声が、
ワンテンポ遅れて耳に届いて、
はっと我に返り、
慌てて口元を持ち上げた。
「おう。コーヒー、ありがとな」
そう言っても、
初兎はその場を離れなかった。
そのまま
じっとこちらの顔を見つめている。
「……まろちゃんさ、最近疲れてへん?」
「……なんで?」
思わず、聞き返してしまった。
「なんか、猫ちゃん飼い始めた辺りは
めっちゃいきいきしとったのに、
ここ数日、元気ないなぁって」
「そうか?」
自分の中では、
いつも通りのつもりやったんやけど……。
そう言いながら
モニターから目を離した瞬間、
視界の端で、あにきと目が合う。
あにきは一瞬だけ俺の顔を見て、
何かを確かめるみたいに視線を止める。
それから、
何も言わずに ゆっくり眉を寄せた。
「……顔、死んでるで」
「え、まじ……?」
「まじやって。いつもより元気ない」
しょにだも、
横でうんうんと頷いている。
「なんかあったんやろ。
無理してる感じ、めっちゃ出とる」
図星すぎて、
思わず笑って誤魔化そうとした。
けど、
喉の奥で言葉が引っかかって、
うまく声にならなかった。
その様子を見て、
あにきが小さくため息をつく。
「今日はもう切り上げよ」
「え?」
「飲み行こや。軽くでええから」
断る間もなく、
しょにだがすぐに乗っかる。
「賛成。
まろちゃん、このまま家帰っても
たぶん、余計しんどなるやつやろ?」
……なんで、
そこまで分かるんやろな。
「無理に喋らんでええし」
「あにきの奢りやしな」
「ちょ、初兎。お前、それ言うなって」
軽口のやり取りに紛れて、
俺の逃げ道を、
2人はやさしく塞いでくる。
「……少しだけ、な」
そう答えると、
2人は、ほっとしたように笑った。
その笑顔が、
やけにあったかく見えて。
この2人と友達になれて、
ほんまによかった。
心の底からそう思った。
「やばい、久しぶりの酒うますぎる」
「ええでまろちゃん、いっぱい飲め飲め〜!
悠くんの奢りやもん。
どんだけ飲んだって罰当たらんよ」
「飲むのはえぇけどさ……
まろ、お前、あんま調子乗るなよ?」
「ぽえ?」
「あかん、初兎。こいつもう酔っとる」
「はや!!」
ないこには、
今日はほんの少し遅くなることと、
晩ご飯はいらないことだけ
簡単に連絡を入れてから、
会社の近くにある居酒屋に入った。
ないこが来てから、
3人で飲むのは、これが初めて。
考えてみれば、
最後にこうして集まったのは
もう3週間ほど前になる。
もともと
頻繁に飲みに行くほうでもなかったし、
その上、ここ最近は
俺が断り続けていたのもあって。
……そら、酒も進むわけやな。
グラスを傾けるたびに、
身体の奥に溜まっていた力が、
じんわりと解けていくのが分かる。
「すみませ〜ん!生、三つ!」
「はいよ〜」
勢いで頼んだからか、
2人からの視線が少しばかり痛い。
ええねん。
今日は、やけ酒なんや。
今日で、この中途半端な気持ちは切り替える。
明日になったら、
ないことちゃんと向き合って話す。
そう決意してから、
届いた生ビールを手に取り、
一口流し込んだ。
そして、その同時刻。
「ないちゃ〜ん、大丈夫?」
「ん……大丈夫だから、いむ。
お前は生徒会の仕事しろ」
「無理だよ!
ないちゃんのことが心配で、
仕事なんかできない!!」
「……りうら、あとは頼んだ」
「は〜い、任せて。またあとで来るから。
ほら、いむ、行くよ」
「あー!!!ないちゃーん!!!」
……うるさ。
りうらに首根っこを掴まれて
引きずられていくいむの声が、
扉越しだというのに、
やけに頭の奥まで響いてくる。
近くで聞いてたら、
ほんまに鼓膜破れるかもしれんな……。
真っ白な天井を見上げながら、
俺は小さく息を吐いた。
やらかしたな。
最近、ろくに飯も食ってなかったし、
朝も、理由もなく早く目が覚めてた。
その積み重ねが、
一気に来ただけだ。
……たぶん。
保健室のベッドに身を預けながら、
そんなふうに、
自分のことを他人事みたいに考える。
カーテンの隙間から差し込む日差しが、
やけに目に痛かった。
結局のところ、
俺、ないこは、
午後の授業が始まる頃には、
きっちり熱を出していた。
前はこんなに体、
弱くなかったんだけどな……。
あの日。
まろと出かけた、その翌日から。
俺は、まろと顔を合わせるのが
どうしても気まずくなった。
全部、俺のせいだ。
俺が、
過呼吸なんか起こしてしまったから。
俺が、
まろに余計な心配をかけたから。
自業自得。
今の俺には、
それ以上にしっくりくる言葉もない。
それからは、
できるだけ、まろを避けるようにして
生活していた。
まろの家に来てから、
何かに怯えることもなく、
不自由を感じることもなく、
当たり前みたいに過ごせていた。
幸せすぎたんだ。
俺には。
だから、勘違いした。
もう大丈夫なんだって。
忘れたつもりでいていいんだって。
でも、
あの怒鳴り声を聞いた瞬間、
全部、思い出してしまった。
忘れたと思っていたはずの、
俺が犯してしまった、過去を。
出ていかなきゃ、はやく。
また、まろに迷惑をかけてしまう前に。
慣れなきゃいけない。
まろがいない生活に。
……なのに。
どうしてだろう。
ほんとに、なんでだろうな。
視界がじわりと滲んで、
白い天井が、ゆっくり輪郭を失っていく。
胸の奥が、
きゅっと縮むみたいに苦しくて。
それでも、思ってしまう。
こんな気持ち、
持っちゃいけないのに。
どうして
「……離れたく、ないなぁ」
俺はそんなふうに思ってしまうんだ。
「……ちゃん、…ぃちゃん、ぉ…て」
遠くで、
誰かが名前を呼んでいる気がした。
誰……?
何か、言ってる……?
まぶたの裏が重くて、
うまく焦点が合わない。
「ないちゃん、起きて」
その声で、
はっきりと意識が浮かび上がった。
「りうちゃん、ないちゃん起きたよ」
「あ、ほんとだ。ないくん、帰ろ。
荷物とかも持ってきたから」
「……ありがと」
どうやら俺は、
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
壁の時計を見ると、19時前。
下校時間、ぎりぎりだった。
立ち上がると、
身体が少しだけ重い。
「ねぇ、ないちゃん」
不意に、
いむが遠慮がちに声を落とす。
「言いにくかったら、いいんだけど……」
その言い方に、
少しだけ胸がざわついた。
「……なに?」
「ないちゃんさ、
さっき……泣いてた……?」
「え……?」
耳を疑った。
泣いてた?
俺が?
誰と勘違いしているんだ、いむは。
そんなはず、ない。
「泣いてないよ、俺」
少し強めに言うと、
いむは慌てて首を振った。
「それならいいんだけど……。
ほら、目の端に、
ちょっとだけ、涙の跡が残ってたから」
無意識に、
自分の目元へ指を伸ばす。
当たり前だけれど、
そこは乾いていて。
少し、胸がざわついた。
「まろちゃん、寝ちゃったな」
「そりゃあんだけ飲めばそうなるわ」
まろちゃんは、
悠くんにおんぶされながら、
すやすやと眠っていた。
日中、会社で見た、
あの張りつめた顔とは違って、
今はやけに穏やかで、
少し安心する寝顔をしてる。
たぶん、自分のなかで、
悩み事との折り合いがついたんやろうな。
「よかったな、悠くん」
「初兎も何かあったらすぐ言えよ」
「俺、悠くんだけには
何も隠し通せん気するから大丈夫よ」
そう返して、
小さく笑う。
ふと、
前にも似たような夜があったのを思い出した。
まろちゃんが、
今日みたいに
でろんでろんに酔った日。
あのときも、
こうやって並んで歩いた気がする。
「この角、曲がったらやんな?」
「せやな。
一軒家やから分かりやすいけど、
毎回来るたびちょっと緊張するわ……」
「しかも、家主はお休み中やしな」
二人して、
声を潜めながらにやり笑う。
帰る直前に
まろちゃんから預かっていた鍵を、
悠くんはポケットから取り出し、
指先でくるくると弄んだ、そのとき。
「……なぁ、初兎」
「ん?どした、悠くん」
足が、自然と止まる。
「……誰か、おらん?」
「……そうやな」
俺も、
少し前から気づいてた。
まろちゃんの家の前。
塀のそばに、
学生服を着た男子が三人。
一人は玄関近くの地面にもたれて、
力が抜けたみたいに座り込み、
完全に寝とる。
街灯に照らされて、
顔はよく見えへん。
スマホで時間を確認すると、
まだ二十時前。
この時間に、
借家の一軒家の前で、
学生が三人。
……嫌な予感しかしない。
「悠くん」
「ん」
「これ、知り合いの可能性あるで」
まろちゃんをおんぶしたままの悠くんが、
無言で頷く。
俺は一歩前に出て、
できるだけ穏やかに声をかける。
「君ら、どないしたん?
こんな時間に」
「あ、ないちゃんのお家の人?」
「ないちゃん……?まろちゃんの知り合い?
ここ、その子のの家ちゃうと思うで」
「え、でも、ないちゃんここって……」
水色の髪の子が、
不安そうに赤髪の子を見る。
「ねぇ、まろってさ……
あのお弁当の人?」
「あ!!その人じゃん!!」
……お弁当?
そういえば、
まろちゃん、最近ずっと昼は弁当やった。
家事苦手〜って、
あんなに言うとったのに。
俺の中で、
点と点が、静かにつながる。
もしかして
この子が、作っとったんか?
「あ!! 見つけた!」
突然、赤髪の子が
鞄をがさごそ探り出したかと思うと、
取り出したのは
さっきまで、
俺が指で遊んでいた鍵と、
まったく同じもの。
……ああ、なるほどな。
俺は、眠っているピンク髪の子を指して、
静かに言った。
「なぁ……君ら。
この子について、教えてくれへん?」
少しの沈黙。
それから、
赤髪の子が、まっすぐこちらを見る。
「いいですよ。
ただし、
まろさんのことも、教えてくださいね?」
交わらないと思っていた、4本の糸。
それは、
2人の知らないところで、
もうとっくに、静かに絡み合っていた。
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