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俺はエリーを誘うつもりはなかったんだけどな。何せほとんど知らないのはこちらも同じだし。
まぁ、悪い子ではないと思うが。
ミランの時も急だったし、聖奈さんは直感で決めるところがあるよな。
間違えたこともないから、今回も大丈夫だろうとは思うけど……
「…」
「まぁ、悩むよな。とりあえず時間はあることだし、保留でいいんじゃないか?」
「そうですね…では、明日の朝にまた来ます」
「あれ?エリーちゃんはデザート食べないの?」
エリーは聖奈さんの言葉に目を見開いた。
「今日はミランちゃんの大好きな、プリンアラモードだよ」
「ホントですか!?やったぁ!!」
俺達の心のリーダーミランが、聖奈さんの一言により幼児退行してしまった。
「ぷりんあら?なんですか、それは?」
「甘くて滑らかで美味しいよ!食べるでしょ?」
聖奈さんの説明にエリーは首が千切れんばかりに頷いた。
どちらにしても、取りに行くのは俺なのだが……
何はともあれ、俺は転移魔法で家から買い置きのデザートを持って戻って来た。
「な、なんですか…これは…」
エリーは先ず見た目に慄いていた。恐らくゼリーすらも存在しないこの世界の人がプリンアラモードを見たら、エリーと同じく不思議に思うだろうな。
「さっ!食べて食べて!」
聖奈さんは餌付けに夢中だ。
これでエリーも聖奈さんの頼み事は断れないだろうな。
女性にとって甘味の魅力は抗えないって聞くし。
賑やかな女性陣の横で、酒の魅力に抗えず晩酌をしている俺は、エリーの気持ちを理解できているはずだ!
欲しいものは欲しい!エリー、アキラメロン!
翌朝。宿の朝食の時間には、きっちりエリーが来ていた。
朝のデザートに釣られたな……
しかも、俺も初めて見るブリブリの魔法少女の格好だ。絶対聖奈さんの指示に間違いない。
エリーさん。プライドはどこに忘れて来たんだい?
聖奈さんに写真を撮られまくってるけど、何をされているのか分からないから、そんな顔が出来るんだ……
後できっと後悔するぞ……
「こ、これが金鍔なるお菓子ですか…」
エリーの朝食代を追加で支払い、四人で頂いた後、部屋へと戻り聖奈さんが淹れてくれた緑茶と共に金鍔を食すことに。
「私も初めて見ますね。これはどうやっていただくものですか?」
ミランさんはデザートの研究に余念が無い。
「袋をこうやって破いて、袋ごと持って手で食べるんだよ」
聖奈さんが幼稚園の先生に見える……
うちの園児達は口を開けたまま、聖奈さんの動きをトレースしていく。
ミラン。涎が落ちたのは見なかったことにしとくよ。
「なんれすっ!?これ?!」モグモグ
「くりょいのに、あまいれす!」もぐもぐ
食レポがしっかりしているの方がミランだ。二人は初めて食べるお菓子に夢中で、目を輝かせている。
聖奈さん。動画を撮るのはやめてあげて……
「美味しかったです!昨日のとは趣きが違いますね!この緑の飲み物と合います!」
「エリーさん。これは緑茶というお茶の一種らしいですよ」
「これがお茶…紅茶以外にもあるんですね」
どうやらエリーはお茶と和菓子のコンビを気に入ったようだ。
園児達は二個ずつ金鍔を食べた。保護者は一つずつだ。
「それで?聖奈はこの後どうするんだ?」
俺はこれまで通りエリーで魔法の実験かな。
「実はどうするかまだ決めてないの。まずはエリーちゃんに話を聞いてからと思って」
「ん?何を聞くんだ?」
「学園のことだよ。部外者でも入れるのかとかかな」
ああ。すっかり忘れてたわ。
聖奈さんの異世界好きは筋金入りだなぁ。
「学園ですか?私はそこの卒業生ですから答えられることには答えますよ?
まず部外者は入れません」
エリーは卒業生だったのか。もしかして……
「学園を卒業しないと魔導士になれないのか?」
「100%そうではないですが、概ねその認識で間違いはないです。例外は他国からの優秀な魔法使いの引き抜きとか、ごく稀に出てくる検査を受けなかった大人の方とかです」
ちなみに部外者は入れないと言われ、聖奈さんはフリーズしている。
「検査?」
「はい。この国では10歳になると『魔力検査』が行われます。
具体的な仕組みはわかりませんが、二本の線を左右の手で握ると自身の魔力量が測れるものです。
その検査で国と魔導士協会の定める数値以上の魔力量を持っている人は、無償で学園に入れます」
「数値って、そんなに具体的に測れるものなのか?」
この世界にそこまでの物があるのか?
「はい。国をあげての長年の研究の成果らしいです。門外不出の技術らしく、詳細は魔導士協会会長でも知らないとの噂です」
「なるほど。どれだけこの国が魔法使いに固執しているのか、わかった気がするよ」
ナターリア王国、通称魔導王国。この国が威信を掛けて魔法に力を入れているのは情報通りだったわけだ。
「ちなみにその検査ではエリーはどれくらいの成績だったんだ?」
「よく聞いてくださいました!私は同学年で最も魔力量が多かったのです!」えっへん!
無い胸を逸らしながら大層自慢げに答えたが……
俺の方が遥かに多いのは、まだ話さないでおこう……
折角の自信がなくなったら仲間にならないかもしれない。そうなると聖奈さんが面倒臭い。うむ。
「それはさぞ優秀だったんだろうな」
褒めづらいから濁した褒め方になったが…エリーの表情は浮かない。
あれ?間違えた?
「私、少しおっちょこちょいなんです」
いや、十分ドジっ子魔法少女だ。これ以上属性はいらないぞ?
「学園での授業の成績は…聞かないでください…」
多分魔力量が多くて、他の生徒や教師の言うことが理解しづらかったのかもしれないな。
俺も多いからわかるぞ!
後、ドジだし……
「気にするな。失敗出来るのが学生の良いところだろ?
これからそれを教訓にすればいい」
「また良いこと言ってるし…」ボソッ
聖奈さんが意識を取り戻して何事か呟いていたけど、俺は難聴系主人公だから聞こえなかったことにしよう。
「それで聖奈の方はどうだった?」
「うーん。それがあんまり芳しくないの…良い魔導具職人さんがいたらいいんだけどね」
「魔導具職人さんですか?どういったご相談です?」
あれ?順調そうだったのにな……
しかし、エリーがいるから情報には困りそうにないな。
ドジだが勤勉そうだしな。
「魔導具で動力源を作って欲しいの。かなりの力が出せて、それでいて出力の調整が可能なやつなんだけどね」
「うーん。強い力ですか…弱い物であれば…」
「えっ?何か知っているのか?」
何かヒントが出そうだったので、思わず口を出してしまった。
「私が以前作った物が風を送る道具なんですけど、力が弱いんですよね。調整出来て、暑い夏には売れると思ったんですけど…」
それはまさか……
俺が聞く前に聖奈さんが同じことを質問した。
「それってプロペラを回すものかな?」
「そうですそうです!あれ?ご存知でしたか?試作品と合わせて三つしか作ってなかったんですけど…」
扇風機や…でも、なんで売れないんだ?この国は割と暑い方なのにな。
「どうして売れなかったのかな?」
「すでに既存の風魔法の魔導具があるので、二番煎じじゃ売れないようです。
結構お金かけたのに…」
調整が出来る扇風機ならもしかしなくとも……
「エリーちゃん。いえ、エリー先生!」
「は、はいっ!?」
「是非、仲間になってください!」
うちにとって初めてのエンジニアだ。電気ではなく魔力だけど。
この世界の人がエリーの才能を活かせなくとも、俺たちならエリーの才能を活かせる可能性がある。
「あの…実は、その話はお断りしようと思っています」
「えっ!?なんで!?」
「いくら仲間とはいえ、多額のお金を無償で出してもらうのは違うと思うんです。
ごめんなさい」
エリーはそう言って頭を下げたが…もう遅いぞ……
聖奈さんから逃げられると思うなよ。
俺もミランも逃げられなかったんだぞ!後、ミランパパも……
「じゃあ、こうしよ!エリーちゃんは仲間ね!」
いや、端折りすぎっ!!
「で、ですから…」
「お金は払うよ」
「いえ、貰えません!」
「技術者としての給料だよ?それでもダメなの?」
狼が獲物を追い込んでいくような錯覚が……
狼は群れだけど…それくらい言葉の数に差が……
「えっ…技術者…?」
「そう。私達がして欲しい研究をエリーちゃんにしてもらって、それでお金を払うの。だからあげるとか貰うとかじゃないよ。
こっちは払わないといけないし、エリーちゃんは給金を受け取らないとダメだよね?」
「しかし…失敗が多いので…予算どころか生活費もないですし…」
「失敗しても払うよ?当たり前でしょ?それにこっちはエリーちゃんの技術者の能力を買うんだから、予算もきっちり出します」
エリー。残念だけど逃げ場はないぞ。
俺はエリーから向けられた視線をそっと外した。
ミランも……
「わ、わかりました…先立つ物がないので、とりあえず研究費に大銀貨3枚ほど預かりますが良いですか?」
ようやく逃げられないことを悟ったようだ。
人生諦めも大切だぞ。
「何言ってるの?セイくん」
「はい!」
呼ばれた俺は魔法の鞄から袋を取り出して、聖奈さんに渡した。
「とりあえずエリーちゃんに作って貰いたい物は、さっき言ったからわかるよね?
それの製作費と研究費が金貨10枚ね」
そう言って金貨10枚をエリーに手渡す。
エリーは震えながらも、何とか受け取る。
「それと、これは成功しても失敗しても渡す契約金ね。詳しくはこれから話すけど、頑張ってね!」
そう言って金貨袋ごとエリーに手渡した。
あの中身は前回の取引額である、5,000,000ギル。つまり金貨で50枚くらい入っていたはずだ。
「えっ?はっ?う?」
「ぷぷっ。どうしたの?何か面白いよ?」
エリーが中身を見て、聖奈さんを見てと繰り返している。
しばらくの間、エリーは動けなかった。
ただ、小刻みには震えていた……