テラーノベル
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俺のクラスで数学教科を担当している佐野先生は、この学校では何かと有名で人気のある先生の一人だ。
人の美醜にあまり興味が無い俺ですら確かにかっこいい部類に属される顔立ちだと思うし背も高くスタイルが良い。
書道有段者で字は上手いし、休み時間なればよく男子生徒たちとサッカーやら何やらやっていて運動神経も良いし、親身になって生徒たちの話をしっかり聞いてくれるし、全くと言っていいほどに非の打ち所が無い。
まるで漫画やアニメの主人公みたいに完璧すぎる先生。
…そんな佐野先生が、俺は苦手だ。
「あ、今日ノートを集めるから日直は放課後持ってきてねーん」
授業が終わり教室を出る直前に思い出したかのようにそう言って、佐野先生は出て行った。
どうして俺のところに続々とノートが集まるのか、理由は考えるまでもなく至極単純明快なことで、今日が日直であるという運の悪さが露呈された。
何人かの女子からは「代わりにノート持って行ってあげる」と言われたけども。
どれも純粋な優しさなんかではなく、佐野先生に会う口実のものだと流石の俺でも察する。じゃあ頼むわ、と、その不純が込められた言葉に正直全力で甘えたいのだがここは適当に断った。
女子とのいざこざよりも佐野先生との後々の方が面倒なのだと、一度体験済みなのだから。
三階の一番端。数学教科の準備室の存在を知っている生徒はどれくらいいるんだろうか。かくいう俺自身も、佐野先生がクラス担当になるまで知らずにいたのだが。
そもそもこの辺りの教室は全体的に利用頻度が著しく低くて、生徒どころか先生も来ないんだとか。佐野先生以外の数学の先生も使わないから最早佐野先生の城と化しているとのことだ。
憂鬱な気分と共にノートを抱えて廊下を曲がると奥の先の方で佐野先生が壁に寄り掛かっていた。
目が合った。かもしれない。
少し遠くて鮮明には見えないけど恐らく、佐野先生は爽やかとはかけ離れた、捕食者のような表情を浮かべていることだろう。
「ごくろーさん、待ってたよ」
準備室の前まで行くと、やはり思っていた通りの顔をしていた佐野先生が準備室のドアを開けてくれたので、失礼しますと中に入っていつものように棚の上にノートを置いた。
できることならあまり長居したくない。いつまで経っても、至るところに佐野先生を感じるここの居心地に慣れる気がしないのだ。
でも目の前の佐野先生の顔を見る限りそうはいかないらしい。
「仁ちゃん早く帰りたいって顔してるね」
「そりゃ、早く帰れるものなら」
「はは、でもまだダーメ」
だって折角の二人きりじゃん?
佐野先生の言葉が、ぞわり、とまるで蛇が絡み付いて這う感覚が全身を襲い、足が竦んで動けなくなる。
額から滲んだ一粒の汗が重力に従って顎先まで滑り落ち、少し留まってからやがて床へと弾ける様をどこか他人事のように感じていた。
俺も弾けて消えることができたらいいのに。
「っさの、せんせ、」
「んー?そうじゃないって、まだ教えないと分かんない?」
「……ぁ、…はや、と……」
「うん、いいこ」
「、ん…っ」
佐野先生が苦手なのに、触れられても何故か拒むことができない。
逃げなければと思うのに、距離を詰められても何故か体が動かない。
知る必要は無いのに、低体温だけど唇だけは熱いと何故か知ってしまった。
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コメント
1件
「佐野先生と」、読み終えました。表向きは完璧な人気教師・佐野先生と、その先生を「苦手」と感じながらも拒めない主人公・仁ちゃんの関係性が、もう冒頭からぞわぞわして最高でした。特に「低体温だけど唇だけは熱い」という一文、なんで知ってしまったのか、その一点だけで仁ちゃんの置かれた状況と過去が透けて見えるようで、伏線の香りに惹きつけられます。第1話ということで、この歪だけど密接な関係がどう転がっていくのか、続きが待ち遠しいです。えぬえぬさん、素敵な世界をありがとうございます。