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5年が過ぎた。
紗姫は30歳に、信也は37歳になった。
衆議院議員の任期は4年だが、2年目に[議会解散選挙]があった。
二期目の選挙も10万以上の票を得て、信也は盤石の地位を築いた。
紗姫の実家では、父が病気静養中だ。
25歳の義弟が『錦藤グループ』の跡継ぎとして、役員会に入った。
後妻の、強烈な後押しがあったからだ。
紗姫は『衆議院議員の妻』の役目を懸命に果たした。
信也を理解し、尽くして、支えた。
街頭演説では信也の隣に立ち、有権者に深く頭を下げた。
後援会への挨拶回りに同行して、支援者と握手をした。
有権者も支援者も、紗姫に会えると喜ぶからだ。
「藩主の姫様」の知名度と人気は、信也を越えていた。
「さすがは紗姫だ。地元のことは任せた」
信也は、地元に帰らなくなった。
選挙期間以外は、東京の『議員宿舎』に住んでいる。
たまに紗姫が上京すると「地元に居てくれ」と頼まれる。
「票は地元にある。一票でも大切にしてくれ」
信也が熱心に参加していたボランティアは、すべて紗姫の仕事になった。
しかも市議会議員より選挙区が広い。
紗姫は、ほぼ毎日、地域の行事に参加している。
そんな紗姫が、驚愕する出来事が起こった。
結婚後に入居したマンションに帰ったときだ。
1階のロビーに入る直前、地元の新聞記者から声を掛けられた。
「伊崎議員の奥様ですね。御主人の秘書と不倫していた、というのは本当ですか?」
紗姫には意味が解らない。
こういうのを〈青天の霹靂〉というのか?
「は?」としか言えない紗姫に、記者は質問を続けた。
「その秘書が不倫を認めて、亡くなったそうですね」
亡くなった? 不倫? 認めて?
(この人は何を言ってるんだろう???)
「あの、何かの間違いです」
「間違いを犯した、ということですか?」
「いえ、そうではなくて。失礼します!」
紗姫は、記者を振り切ってマンションに入った。
次の朝、マンションの前にマスコミが集まっていた。
「伊崎信也議員の秘書が、事故死しました」
「秘書は、議員の妻と不倫関係でした」
「不倫を認めるメモと証拠が、見つかったそうです」
淡々と伝えるTVアナウンサーを、紗姫は茫然と見つめた。
[与党期待の若手議員の妻。秘書と不倫]
[秘書は謎の交通事故死]
[大名家 錦藤氏の子孫。お姫様の不貞行為]
ネットでは、面白可笑しくニュースにしている。
SNSでは『紗姫が秘書を殺した』というデマが流れている。
『口止めしたんだろ』
『証拠があるのに酷い女だ』
『お姫様って我儘そうだし』
『秘書さん可哀想』
『自分が死ねばいいのに』
『まったく同感』
信也は電話に出ない。LINNもmailも返事が無い。
「嘘、嘘、なんなの? いったい……?」
紗姫は身体を抱えて座り込み、ガクガクと震え続けた。