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なぜ、あの怪しげな男の言うことがこんなにも心に響いてしまうのか、ロボロはそればかり考えていた。あんな男に誑かされる方が多いなんて、日本も末期かしらね。そんなことを考えながら。「…ロボロ?」ふと後ろから耳障りの良い声が聞こえる。
ロボロはその声を聞くと、思わず振り返った。そこに立っていたのは、シャオロン。彼の顔には、いつもの可愛らしさとともに、どこか不安げな表情が浮かんでいる。まるで何かを言いたいが言えないような…そんな様子だった。
「…シャオロンさん」ロボロはにっこりと微笑んで、軽く言った。その笑みの中には、どこか余裕を感じさせる一抹の冷たさが潜んでいたが、それを見せまいとするように、穏やかな声で続けた。「どうしたの?」
シャオロンは一瞬ためらったが、すぐにロボロに歩み寄った。歩きながら、彼の目はロボロの顔をじっと見つめている。ロボロはその視線を受け止めながらも、微動だにせずに立ち続けた。
「…あの、ロボロさん。」シャオロンがついに口を開く。「あなた、どうしてあんな男と一緒にいるんですか?」
その問いかけに、ロボロは一瞬だけ微かに目を細めた。シャオロンが何を言いたいのか、わかっていた。大先生のことだ。あの男がどれほど不愉快で、無遠慮なことを言ってきたのか、シャオロンはきっと心配しているのだろう。
「…あんな男?」ロボロは軽く笑って首をかしげた。「ただの知り合いよ。別に、あなたに関係のないことじゃない?」
シャオロンの目に一瞬、悲しげな色が浮かんだ。その表情を見たロボロは、自分でも驚くほど胸が痛くなるのを感じた。それでも、顔に出さずに冷静に言葉を続ける。「大丈夫よ。私はあんな男に誑かされるようなことはないから。」
シャオロンはしばらく黙って立ち尽くし、その後、ゆっくりと口を開いた。「でも…」と小さく呟くように言った。「ロボロさんは、どうしてあんな男に…?」
その問いが、ロボロの心を揺さぶった。シャオロンが不安そうに、そして少し苛立ちを感じさせるような表情でこちらを見ている。彼がどうしてこんなに心配しているのか、その理由がわからないわけではなかった。だが、自分が何を感じているのか、今の自分にははっきりとした答えが見つからなかった。
「シャオロン…」ロボロはその名前を口にすると、少しだけ口元を緩めた。「あなたには関係ないことよ。」
シャオロンはそれでも目を離さなかった。彼の瞳の奥にある切実さが、ロボロにはまるで釘を刺すように響いた。彼が求めているのは、ただの優しさでも、同情でも、あるいは慰めでもない。それは、もっと深いものだと、ロボロには感じ取れた。
「でも、どうしても…」シャオロンは再び声を低くして言った。「…あなたが心配で。」
その言葉が、まるでロボロの胸の中に突き刺さったように感じた。普段はどんな時でも冷静で、誰にも流されない自分でいられるはずなのに、この瞬間、シャオロンの言葉が心に響いて、気持ちが乱れてしまう。
「…心配しなくていいわ。」ロボロはぎこちなく微笑みながら答えた。その笑みは、普段のロボロには見られない、少しだけ不安げなものだった。だが、すぐにその表情を消し、冷静さを取り戻した。「シャオロンは私のことを気にしすぎよ。」
シャオロンはしばらく黙ってロボロを見つめ、そして静かに言った。「じゃあ…もし、僕があなたを守りたくても…?」
その言葉が、ロボロの胸を打った。彼の声は、どこか真剣さを帯びていて、ただの冗談ではないことが伝わってきた。守りたい、守りたいと言うその気持ちが、彼の声の奥に見え隠れしている。
ロボロはその言葉にしばらく反応できなかった。ただ静かに、シャオロンを見つめ返す。彼がどこまで本気で言っているのか、ロボロにはわからない。でも、その気持ちが真実であるならば、少しだけ自分の心が揺れるのを感じた。
「シャオロン…」ロボロは小さく息を吐き、微笑みを浮かべながらも、その目はどこか遠くを見つめていた。「あなたが私を守るなんて、無理よ。」
シャオロンはその言葉に静かに頷くと、少しだけ肩を落とした。しかし、彼の目には諦めの色はなく、むしろ、ロボロに対する決意が見えた。何も言わず、ただロボロを見つめるその眼差しに、ロボロは少しだけ動揺してしまう。
その時、街灯の明かりが二人を包み込み、静かな夜の空気がさらに深く、切なく感じられるのだった。
シャオロンは次の日の朝、ロボロの言葉を頭の中で反芻していた。「あなたが私を守るなんて無理よ」…そんな、距離を感じさせる言葉はシャオロンの心に楔のように深く突き刺さった。確かに、彼女のほうが強いだろう。彼女は強いし、自分は弱い。わかりきっているが、それでも好いている女性を守りたいと思うのは変なことなのだろうか。「ぜーんぜん変ちゃうで?」…耳に低い声が入ってくる。大先生だ。
シャオロンはその声に驚いて顔を上げると、大先生がいつものように煙草をくわえながら、まるで何事もなかったかのように近づいてきた。大先生の目にはいつも通りの余裕と遊び心が宿っている。だが、その表情に一瞬、シャオロンが抱えている悩みを見透かしたようなものを感じ取った。
大先生はゆっくりと煙を吐き出しながら言った。「むしろ、守りたいと思うのは当たり前やろ?」
シャオロンは黙って大先生を見つめる。その言葉が、今の自分の気持ちにぴったりと重なるような気がした。だが、それでもどうしても自信が持てなかった。ロボロが言った言葉が脳裏を離れず、心に重くのしかかっている。
「ロボロさんは強すぎるからな、俺なんかじゃ足元にも及ばへん」シャオロンは小さくため息をついて言った。
大先生はそんなシャオロンに対し、少しも気を使わずに言葉を返す。「そりゃ、強いかもしれんけどな、だからこそ、何かあった時に頼られたら嬉しいもんちゃうか?」
シャオロンは言葉が飲み込めない。彼はロボロが強いことをわかっている。だが、それと同時に彼女を守りたいという気持ちが強くなる一方で、どうしても自分の弱さを恐れてしまう。
「ロボロさんが何でもできるから、俺なんかが必要ないんちゃうかって思うんやけど…」シャオロンはふとした瞬間に弱音を吐いてしまう。
大先生はその言葉に微笑んだ。「自分で思うほど、実は誰もが完璧じゃないもんやで。強い人が頼られないと思ってるんなら、それはただの勘違いや。」
シャオロンは黙って大先生の言葉を反芻する。確かに、大先生の言う通りかもしれない。ロボロのような強い女性だって、きっと何かを頼りたくなる瞬間があるはずだ。だが、その「何か」に自分がなれるのか…どうしても自信が持てなかった。
「でも、あの人は…」シャオロンは苦しげに言葉を続けようとするが、大先生がそれを遮るように言った。
「ロボロさんがどうしたって?どんなに強くて完璧な人でも、誰かを求める瞬間がある。お前が守りたいと思うなら、それをちゃんと言葉にせんとな。」大先生の目は少し鋭くなる。「それに、守りたいって気持ちが弱さやない。むしろ、それこそが本当の強さかもしれんで。」
その言葉に、シャオロンは一瞬だけ目を見開く。守りたいという気持ちが強さになれるということ。それを、実感として理解するには、まだ時間がかかりそうだが、大先生の言葉が少しだけ心に響いた。
「でも、あんな人に守られるなんて、俺には無理やろ…」シャオロンは自嘲気味に笑う。
大先生はその言葉を軽く笑い飛ばすように言った。「あんた、ほんまにロボロさんがあんたを必要としてないと思うてんのか?俺から見れば、あんたがロボロさんにとって、どんだけ大事な存在か、わかる気がするけどな。」
シャオロンはその言葉を聞いて、少し驚きながらも心の奥で何かが変わり始めるのを感じた。確かに、彼がロボロにとってどれほど大切か、その答えはすぐにはわからない。それでも、少なくともロボロを守りたいという気持ちが、今の自分には確かにあるのだということを、少しだけ自信を持って認められる気がした。
「守るって、ただ力強くなることじゃない。お前が守りたいと思う気持ちが、ちゃんと伝われば、それだけで十分やろ。」大先生は煙草をもう一度吸い込みながら、シャオロンに向かってゆっく
りと語りかけるように言った。
シャオロンは大先生の言葉を聞いて、しばらく考え込んだ。その後、少しだけ顔を上げて、決心したように言った。「…俺、頑張ってみるよ。」
大先生はにやりと笑って、軽く肩を叩いた。「それでこそ、シャオちゃんや。うまくいくといいな。」
シャオロンはその言葉を胸に刻みながら、再びロボロに会いに行く決心を固めた。彼女を守るために、自分ができることを全力で試してみる。それができなければ、どうしようもない。でも、少なくともその気持ちは本物だ。