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JTR契約から数日後の宿泊部屋にて
黄泉大毘売命―――― 平坂 淡姫と名付けられた彼女は、膝の上に男の頭を載せ、その横顔を眺めながら思う。
―――――私がこの人を違和感なく”旦那”って呼び始めたのは何時からだったっけ―――――
初めは姉に相応しいか見定める積りで付いて行っただけだったはずなのだが、
現世で多くの人間と交流して、沢山遊んで、
”芸夢”や”怒羅麻”で見た探偵とやらの真似事をしていたら、いつの間にか”冥探偵”とか名乗ったり呼ばれたり―――――
遂には飛行機やら言う鉄の鳥に乗って秋津洲(あきつしま)から遠く離れた”英外砺洲(エゲレス)”なる外国(とつくに)まで来てしまった。
黄泉平坂の底に居た時に比べ、何と騒がしく、何と可笑しい日々か―――――
今日など姉さんと二人、神衣を着て付いて来てくれと言うので何をするかと思えば、
今回の報酬として、それこそ金銀財宝の類でも要求するのかと思えば、何と英国王室御用達の仕立屋”錆流牢”なる職人衆に蜘蛛糸仕立ての布地を持ち込み、私達の引き立て役程度には成れる服を仕立ててもらうと言う。
荒駆音(アラクネ)なる化生と化した蜘蛛に布を織らせ、蜂が集めた染料で蟻が染めた生地の商品宣伝も兼ねた渾身の一着をと言っていたが、実際には着道楽に目覚めた旦那の趣味嗜好に他ならぬという。
いつもの様にお金を貰わなくていいのかと聞けば、
「世界中の富豪や何なら王室の順番待ちをすっ飛ばして、世界最高峰の職人に無茶振り出来る絶好の機会だし……」
とか言い出す。
欲が無いのか何なのか。
欲と言えば、私達に手を出さない理由も、
「ほら、俺はまだ成人してないし、万が一子供が出来ても育てるだけの稼ぎが云々……」
とか言うし。
色欲が無い訳じゃないのに、変な所で頑固なのだ。
「本当に変な人なんだから」
思わずそう呟いクスリと笑う。常世でも現世でも男というのは基本、女を見れば四六時中心の中で交尾の事ばかり考えるような連中ばかりだというのに旦那と来たら、
「二人を幸せにするには何が出来るだろう」
とか考えるのだ。
きっと、そんな旦那だからこそ私はこの人の事を旦那と呼ぶようになったのだろう。
紅い月明かりが薄れるまで旦那を撫でながら、私は一晩中そんな事を取り留めも無く考え続け。
いつの間にかそのまま眠り、翌日の朝は寝坊した。