夕陽 「 …… ッ、 」
剣持 「 … ガッくん …… 。 」
月ノ 「 ……… 。 」
空気は相変わらず重かった。
さっきまで、処刑シーンが流されていた画面をじっと見詰める人も、目をそらす人も居た。
ああ … 死んだ、また1人。ちーさんから始まって、やしきずに甲斐田にガッさん … 。
葛葉 「 …… 。 」
今、俺に発せられる言葉なんてなかった。
『 …… ちょっと水を差すようで悪いんだけど、事件の真相について話そうか。まとめて。 』
葛葉 「 あ …… ? 」
機械音が静かな空間に響いて、俺は少し遅れてその言葉の意味を理解した。
あ、事件の真相 … 。細かいことが知れるってことか? どういうことなんだろう。
そう考えを辿っていたら、また機械音は鳴り始める。
『 … 伏見くんから託された、遺書を読み上げるよ。全部書いてあるから。 』
剣持 「 え? 」
裁判場がザワつく。
遺書? 遺書 … だって? そんなのを書いてたのか。
『 …… よくあるテンプレだけど、これがカグさんに読まれてんなら、オレは処刑されてますよね? 皆、お疲れ様。よく頑張ったね〜 オレ結構頑張って偽装工作したのにさ。 』
流れ出した音は、機械音じゃなかった。
**「伏見ガクの声」**をしていた。
あ、そういう機能もあるんだ。タチ悪い。
そんなことを思いながら、カグのことを見た。
『 遺書を書いた理由としては … この事件の真相を、しっかり伝えることです。 』
『 まず結論から言うと …… 、オレは、故意に甲斐田くんを殺した訳じゃない。 』
彼の言葉に、皆が目を見張った。
え? は? 何? と、皆混乱している。
『 オレはクロを引いた。でも、人を殺す気は無かった。人を殺してまで生きたいとは思わなかったから。 』
『 オレは、… いや、とやさんを含むオレたちは、夜時間までプールで探索をしていた。 』
『 その時に … 甲斐田くんが来た。普通に雑談をした。 』
『 プールを皆で覗き込んで、中を見ていた。そしてふとした時、ほんのちょっとの悪戯心で、甲斐田くんを「ワッ!!」… って、驚かせたんだよね。 』
『 そしたらさ、甲斐田くんプールに落ちちゃったんだよ。 』
『 上がってこれるだろうと思ったんだけど、プールが思いの外深かったのか、服が重かったのか …… なんか危ない感じになってきてね。 』
『 水に沈み始めた頃に、とやさんと2人で、甲斐田くんを助けにプールに飛び込んだ。 』
『 オレたちは幸い服も軽いしで大丈夫だったけど、プールはだいぶ深かったよ。皆気を付けてね。 』
『 時間をかけて、何とか甲斐田くんを引き上げて、すぐに心肺蘇生を始めた。 』
『 でも …… 遅かった。助けられなかったんです。 』
『 AEDなんてのは勿論見つからなかった … 、それで、甲斐田くんは死んでしまった。 』
『 …… 事故、事故でも、人殺しであることには変わりない。 』
『 そして、笑えることに、オレはクロだった。 』
『 じゃあ、オレはしっかり、殺人鬼として処刑されよう。そう思ったんすよ。 』
『 それで … とやさんに事情を説明して、無理言って帰って貰って、偽装工作を行った。 』
『 これが、ちゃんとした殺人だって、皆に勘違いさせるために。 』
『 だって … 事故で殺したんだとか言われたら、情が湧いて処刑しにくいでしょ。 』
『 特に … 甲斐田くんの同期の、長尾くんと弦月くんは。 』
『 ごめんね、多分オレは、処刑される寸前まで2人を煽り散らかしたり … 狂ったようなことを言う。そしてこれを聞いて、罪悪感も湧くかもしれないけど … そんなのは要らないからね、罪は罪だからさ。 』
『 あと、皆は … とやさんを支えてやってください。 』
『 とやさんは、ただ巻き込まれただけのシロなんで。 』
『 …… まぁ、こういうことです。皆がどんな反応をしているのかは見れませんけど … 、とにかくもう、殺人が起きないように … 頑張ってください。 』
『 …… だってさ。 』
剣持 「 …… っ、ぅ … 。 」
葛葉 「 … ? 」
少し、理解に時間がかかった。
えっと、だから、ガッさんは殺してなかった … ?
いや、違う。殺してはいるんだ。
でも、悪意を持って殺した訳じゃなかった。
ちゃんと助けようとして、でも手遅れだった。
運が悪かった … ? ただ、彼は運が悪かった?
「 そこに居たから殺した 」そんなのは嘘だった。
ただ、俺たちが処刑する時に罪悪感を感じないようにと吐いた、優しい嘘だったんだ。
叶 「 ____ 後味、悪いなぁ … 。 」
隣の叶が、ポツとその言葉を口にした。
あぁ、本当にその通りだ。
甲斐田を殺した人なのに、なんでこんな情を持ってしまったんだ。
彼は、嘘つきだ。最後の、最後まで …… 。
長尾 「 …… なぁ、カグ。 」
『 ん? 』
長尾 「 もう、帰って良いんだよな? 」
『 あぁ … うん、良いよ。 』
彼の声は、とても静かだった。
なんの感情も察することが出来ない、彼らしくない声だ。
長尾景は、カグに向かってそう訊くと、カツカツと、静かな裁判場に足音を立てながら去っていった。
その背中は、虚しく見えた。
弦月 「 …… 景くん … 。 」
「 … すいません、僕も先に失礼します。 」
彼もそう言って、裁判場を去っていく。
皆それぞれ、またバラバラと裁判場を去っていく。
もちさんは、今までで見たこともない顔をしていた。
目元も鼻も赤いけど、泣くのは必死に堪えている様子だった。
あれじゃ、きっと部屋に帰って泣くんだろうな。1人で、静かに。
叶 「 … 葛葉、僕らも行こう。 」
葛葉 「 …… うん。 」
俺がもちさんの方を見つめていたら、彼がギュッと手を握ってきた。
ああ、そうだ。いつまでもここにいるつもりはない。
もちさんに背を向けて、叶と一緒に裁判場を後にした。
____
第2章 完結
コメント
6件
がっくんが最後まで優しすぎる…裁判の時にがっくんを庇ってた剣持がみんなから酷く思われないよう遺書でとうやさんは巻き込まれたシロなんだからさ。って言ってたのもほんと相方思いでいい!!狂ったり煽り散らかすがっくんも最高です👍
剣ちゃん…剣ちゃんは、4なないでくれぃ