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「……うん?
なんだか向こうの方が賑やかだね?」
昼食をとるためにお店を探していると、何やら良い匂いが漂ってきた。
「向こうには屋台がたくさんあるんです。色々な店があって面白いですよ」
「ルークは行ったことがあるの?」
「はい。仕事で来たときは、屋台でぱぱっと済ませていましたね」
「ふーん? ちょっと気になるなー」
「わたしも行ってみたいです!」
エミリアさんは勢い余って、何故か右手を挙手している。
「それじゃ、そっちに行ってみますか」
「はい」
「はい!」
通りの角を曲がると、少し先の広場で屋台がひしめき合っているのが見えた。
昼食の時間ということもあり、たくさんの人でごった返している。
それにしても――
「……何だか、圧倒的な男性率?」
思わずつぶやく私に、ルークが慌てて言ってくる。
「はっ……。そ、そうでした。
ここは鉱山で作業している連中がたくさん集まる場所でした……」
つまり、うん。女性陣はちょっと、場違いなのかな?
「でも……とっても美味しそうですね……」
エミリアさんが匂いをかぎながら、キラキラとした目で言っている。
「え、えーっと……。
別に私たちが行っても……問題は無い……よね?」
「そうですね……。ガサツな連中が多いので、何かおかしなことを言われるかもしれませんが……」
「わたしなら大丈夫です!」
エミリアさんは力強く言う。
う、うーん? 私はちょっと怖いけど――
「……まぁエミリアさんも行きたいって言ってるし……行ってみる?」
「わーい!」
「アイナ様……、無理していませんか……?」
少し返事がしにくかったので、私は手を左右に振りながら笑って流すことにした。
屋台の密集地に入っていくと、たくさんの男たちの大声が辺りを席捲していた。
うーん、賑やか! というか――
……いや、賑やかと言うに留めておこう。
「どこで食べるのかはエミリアさんとルークで決めちゃって良いよ。
今回は私は付いていくだけで……」
「えー? そうなんですかー?」
「……確かにどの屋台でも、胃への重さはあまり変わりませんからね。
基本的にはがっつりで、比較的に食べやすいものがいくつかあるくらいですし……。
あの、アイナ様、本当に――」
「ここで食べてくから大丈夫だよぉ♪」
大丈夫っていったらもう大丈夫なのだ。
何回も聞くことじゃないぞー!
「わ、分かりました。すいません……。
それではエミリアさん、どこに行きましょうか」
「わたし、あのお店が気になります! あそこでお願いします!」
エミリアさんの行動力が何やら輝いている。
こういう場所でも積極的に動けるなんて、実に羨ましい限りだ。
「それじゃ、そこに行ってみましょうか。
エミリアさんの好きなものが置いてあるのかな?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここです、ここ!」
エミリアさんに付いていくと、周囲の露店よりも一際の人だかりを集めている露店があった。
「……何かここ、やたら混んでいますね?」
「あれ? もしかして……エミリアさん、ここは……」
ルークが何かに気付いて、エミリアさんに声を掛ける。
「ルークさんは知っていますか? ほらほら、あれ!」
はしゃぎながら言うエミリアさん。
彼女の指差した先には張り紙があって、こう書かれていた。
『相手に勝ったら全額無料! 相手に負けたら全額負担!』
……え? 全額無料? 全額負担?
「えーっと……?
何ですか? これ……」
「アイナさんは知りませんか? こういうイベントをやる露店がたまにあるんです!
挑戦したい相手を見つけて、お店了解のもとで食べる量の勝負をして――
……それで勝ったら全額無料、となるわけです!」
「あそこのふたりが丁度やっているみたいですね。
最終的にはより多く食べることになるので、店側としても利益になります。
その反面、要らぬトラブルを起こすこともあるのですが」
「なるほどなるほど。
それで……エミリアさんは、あれに参加したいと?」
「わたしごときが参加できるわけないじゃないですか!
あんなのに挑戦するなんて、とってもたくさん食べなきゃいけないんでしょう?」
えぇ……?
エミリアさんだって、いつもたくさん食べてる気がするけど……。
「ちなみに、エミリアさんは参加したことはあるんですか?」
「もちろん無いですよ!
この前もお話しましたが、あまり食べないように言われていましたので」
そんな話をしていると、行われていた戦いが終わり迎えたようだった。
「――くそっ、も、もうダメだ……! 俺の負け……ッ」
「へへっ! やったぜ、ご馳走さーん♪ げふっ」
「はいよ、お疲れさん。
それじゃ負けたアンタ、お会計ね」
「――!?
ま、まじか……。今月の小遣いが……」
勝者は喜びに沸き、敗者は悲しみに震えている。
勝負のテーブルに積み上げられた皿の枚数を数えると……一体いくらくらいになるんだろう?
負けたらあれを全額負担なんでしょ? いやぁ、よく参加しようと思うなぁ。
……そんな風に思ったんだけど、それは私が小食だからかな?
もしかして、大食いな人だったら参加したいと思うのかな?
そんなことを思っていると――
「……えぇ? あれくらいで終わっちゃうんですか……?」
そんなエミリアさんのつぶやきが聞こえてきた。
「エミリアさん……もしかして、挑戦したいんですか?」
「えっ!? そ、そんなわけ無いじゃないですか!
や、やだなぁ、アイナさんってば!」
参加したいんですね、分かります。
「それよりも、昼食ですよね! あ! あそこのお店なんていかがですか?
お肉もありますし、麺類もあります。そこまで重くはなさそうですよ!」
エミリアさんは急に話を変えてきた。
その切り替えの速さに、私は思考が止まってしまう。
「え、えーっと?」
「ほらほら、ルークさんも! あそこで大丈夫ですか?」
「私は大丈夫ですが――」
ルークはちらりと私の方を見た。
ジェスチャーで問題ないことを伝える。
「それではあそこにしましょう。まだ混み合ってますから、歩くときには注意してくださいね」
「「はーい」」
何だか誤魔化された気もするが、今日の昼食はそこで頂いた。
……エミリアさんは満足気味だったけど、私にはやっぱり重かったかなぁ。
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