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恋と知ったのは、いつだったか。淡い霧の中にいては、それさえ思い起こす気になれない。ただ確かなことは、居直り強盗にも似た恋心が、俺の中に巣くっていて、俺に巡るこの霧を出している、という事だけだった。
邪魔だと思ったことはない。寧ろ、俺とアイツを結んでくれる霧が、俺は好きだった。霧の中にいさえすれば、俺たちの目は、俺たちだけに向くようになる。そこらに蠢く連中は、霧が上品に喰ってくれていたから、誰であれ、俺たちの間に割り入るのは不可能だった。
――そう、不可能だった、筈なのだ。
俺は今日も、いつものように、部活終わりのアイツの後を追い掛けていた。後ろから、透けたシャツを叩いてやると、アイツは丸い目をいっぱいに開いて、ぎこちない笑みを見せる。毎日のことなのに、アイツは一向に慣れなくて。「ビックリなんてしてないもん」とでも言いたげな顔が、いつも、俺の霧で飾られていた。こんなことで、童貞でも無いのに、童貞のように騒ぐ心臓が恥ずかしい。それでも、これも大切な俺なのだ。だから、小枝のような身体を抱いて、俺の脈を聞かせる。――何度身体を重ねても、俺はこうなるんだって、言葉に出さずに伝えてやる。照れているのか、嬉しいのか。アイツの肩は、いつも震えていた。
そんな俺たちの日課をするために、俺は、部活動の終わりを、教室で待っていたのに。霧が捌けた先にいたのは、アイツと、俺の知らない蟲だった。