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5 - 煽りと嫉妬

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2025年03月23日

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しろニキ前提まちニキ


ニキ視点


「にきにきぃ〜」

 俺は今、絶体絶命の危機に陥っている。

 女研メンバーで酒を飲もうと言って酒場に集まり、数時間が経過した頃、もう既に出来上がっているまちこりーたが俺の所に来て先程から甘い甘い誘惑に近い言葉で絆されているのである。

 やけに積極的な彼女はグイグイと近寄ってきて俺の膝に乗り、いわゆる上目遣いをされる。女性とのそういう経験を味わった事はあまり無く、俺には為す術がない。どうするのが正しいかなんて分からず焦っていれば、目の前の彼女は目を細めて、まるで俺を愛でるかのような瞳で見つめてくる。

「ほんっとニキニキって初心だよね笑」

「…うっさい、」

 焦りを隠す余裕なんてなくて目の前の彼女に伝わってしまい、初心だと煽られる。照れ隠しでうるさいと返しても可愛いと絆されるだけ、酔った勢いで思ったことを全て口に出す癖に本人は覚えてないなんてとんだ迷惑だ。

「ニキニキは私のこと好き?私はニキニキの事好きだよ♡」

「…っ」

 好きだなんて狼狽えてしまう自分も情けない。彼女の事は好きだ、勿論likeの意味合いでだけれども…。

 先程から俺が貰ったら嬉しくなる言葉ばかり言われて、心は満たされていくのに、俺だけ貰って彼女に返さないだなんて俺のプライドが許さない。だけれども、悪魔の囁きのような言葉に絆されて顔に熱が集まる感覚がする。照れるだなんて醜態を見せたくなくて、顔を逸らしたが、彼女は逃がさないと言わんばかりに質問攻めをしてくる。

「ニキニキ照れてるの?笑 かわい〜♡」

「っ、もッ…ゃめ、」

 ただただ彼女に翻弄されるがままで、恥ずかしい。この顔の熱さは酒のせいだと己を催眠させる。だがそれは上手くいかず先程から酔っ払った彼女は俺の良さをマシンガントークする。辞めてくれと言っても耳に入っていないのかどうする事も出来ず、火照った顔の熱を下げたい一心でこの場から逃れ、外へ出る。





 外に出て冷気が頬を撫でる。先程のことを思い出せばまた熱を取り戻してしまう。別の事に意識を向けて、必死に熱を下げる。

――私はニキニキのこと好きだよ♡

 ほんの少し前に言われた言葉が頭の中で再生される。一緒に過ごした仲間からも歳を重ねる度に言われることが減っていった「好き」の二文字。

 この二文字をLoveの意味で好きなアイツから言われたらな、とぼんやり想い人のことを考える。

 いくつになっても好きなままなんだよなぁ。

 なんて思っていると、また熱が上がってしまいそうで、想い人について考えることをやめた。

 頬の火照り少し収まった頃には、外を出てから10分程経過しており、流石に戻ろうと思った。俺を褒めてきた彼女、グループの中にいる俺の想い人、勿論それ以外の人達にも本当の気持ちなんて悟られないように気を引き締めて、店の扉を開け、一歩を踏み出した。


________________________



まちこりーた視点


「んふ、ふふ……はぁ、」

 本当に可愛らしかった。

 私の一言一句に照れる彼に加虐心が掻き立てられてしまい何度も良さを本人の前で伝えたら逃げてしまった。そこまでしたつもりは無かったけど、ニキニキも初心だよね。真っ赤な顔の熱を下げるために個室から出て行った彼に聞こえてしまわないように手で口を抑えて思い出し笑いをする。

 もう察しているかもしれないけれど、私は全くお酒には手をつけていない。飲んでないのに酔うわけないじゃん。

 そういえばと、私がこんなことをした元凶とも言える人に目を向ければ、嫉妬で気が狂いそうな程私を睨むせんせーと目が合う。 殺意とも呼べるそれを浴びせられて体が強ばる。

 とはいえ、私が今回こんな事をしたのは明らか両想いなのにくっつかない彼らがもどかしかったから。私がこんな事してても口出ししてこないあたり、せんせーって相当ヘタレだよね。これでもまだくっつきそうに見えない彼らを後押しするべく、たった今思い付いたほんの少し捻くれた考えを行動に移す。

「早くしないとニキニキ私が取っちゃうよ?笑」

「お前でも流石にそれは譲らんわ」

 私が勝手にせんせーを煽ったら譲らないって即答された。

 よっぽど好きだよねほんと…。

 手のかかる人たちだなと思いつつ、後はせんせーが自由に出来るようにしてあげようと、私の優しさが溢れんばかりに18号の所に移動した。


________________________



ニキ視点


 外に長居しすぎて冷えた体は店の扉を開けた瞬間、店内の暖かさに包まれ、徐々に平熱を取り戻していく。自席まで歩けば、先程まで居た酔っ払い溺愛おばさんはじゅうはちの所に行っており、安堵する。

「ニキ」

 ホッと胸を撫で下ろした瞬間、一部終始を見ていたであろう相方が俺の名前を呼んだ。

「んー、何ぃ?…うわっ?!」

 何と聞き返せば不意に腕を掴まれ、強く引かれた。思わず体制を崩し、俺は彼に抱きつくような形になってしまった。

 予想だにしていなかった彼との接近に心臓が高鳴っている。煩い心臓の音が彼に伝わって欲しくなくて離して、と伝えたが、余計強く抱き締められ、俺の心臓は破裂してしまいそうなほど騒がしくなり、なにもかも逆効果だった。

「怒ってんの…?」

 今のボビーは普段よりもどこか横暴で優しさとは程遠い。まるで怒っているかのような雰囲気を感じ取る。声に出して問えば何でもない、と返答された。何でもなかったらこんな事しないでしょうよとは思う。

 とはいえ、俺が彼を怒らせるようなことをしただろうか。いくら考えても思い当たる節が見当たら無いのでどうせなら彼を弄ってやろうと思った。

「俺がまちこりと話してて嫉妬した〜とか」

 彼が何に怒っているか分からないので、手探りでほんの少しの思い当たる節を聞いていっても反応しなかったのに今さっきの俺の言葉に彼の肩が揺れた。

「……悪いか」

 抱き着かれていて彼の顔は見れないが、ほんのり耳が赤らんでいて照れていると知る。彼の質問に答えるのなら良いも悪いも俺には分からない。何せ彼がまちこりを好きなら俺がこの立ち位置に居るのも、彼が照れるのもおかしいじゃないか、そんなのまるで


 俺の事が好き


みたいな…。そんな事が有り得るのか、実は両想いでしただなんて俺の都合のいい妄想じゃないのか、と疑う。

 けれど、彼に抱き着いて感じる温もりは間違いなく本物で、一気に現実味が増す。その事実を自認してしまえば後は単純で、恋焦がれた俺の心臓は再び心拍数を上げ、顔にも熱が集まる。

「すまんな…嫌やったろ」

 両想いの事実に喜びを覚え、意識が逸れていた俺は彼から引き離された事に気付かずにいた。離れてからぼんやりしていれば目の前の彼と目が合った。彼は俺を見て目を見開いて驚き、困惑の音を漏らす。

 互いに目を見合わせたまま数秒の沈黙が流れた。ガヤガヤと騒がしい酒場の音も、仲間の話し声も何もかもが聞こえなくなった。

「ニキ」

 沈黙を破ったのは彼だった。もう一度俺の腕を掴み、今度は立ち上がって荷物もまとめて、俺を店の外まで連れて行った。

 そのまま彼は足を進める。無言で引っ張られるがままついて行けば、人通りは少ないが夜景が無駄に綺麗に映る場所に連れてこられた。


「……俺と、付き合ってくれ…」


 あまりの美しさに思わず夜景に気を取られていたら肩を掴まれ、彼がゆっくりと深呼吸をしてから顔を上げ、俺を瞳に捉えてからストレートな告白をされた。

 先程から急展開すぎて脳が追いついていない。オーバーヒートしそうなほどに熱い頭を必死に回転させ、返事を探す。

「……ぉねがい、します」

 いいよ?俺も好きだった?渦巻く考えをまとめあげて返事を探した。

 結局はこれからもお願いしますの一言を口に出していた。俺のその一言に胸を撫で下ろし、口元を綻ばせた彼が目に入った。今まで見たことのないその顔に、思わず顔を逸らしてしまう。

「何照れとんの笑」

 嘲笑しながら俺の肩に置いていた手を俺の顎に寄せ、彼の方を半ば強制的に向かせられる。そんなの‎狡いじゃないか、と既に彼でいっぱいいっぱいな頭の中で目まぐるしく回る。

 不意に軽いリップ音と共にほんの数秒彼の顔が近付き、彼がゆっくり離れて俺を愛でるような欲情と喜びを孕んだ瞳と目が合った。絶え間なく進んでいく物事にキャパオーバーになりながらも情報を整理すれば、今俺は彼とキスをしたのだと知る。恥ずかしくなる目線を浴びたくなくて、強く目を瞑った。

 目を閉じている筈なのに顔に穴が空いてしまいそうな程見つめられている気がする。気恥ずかしさから目を開けずにいれば、彼に鼻で笑われた。

「…ほんなら帰ろうか」

 突拍子も無さすぎる彼の行動に驚きつつ、目の前に差し出された俺よりも少し大きくて色白な手を掴み取る。彼は俺が手を掴んだと感じ取り、指と指の間を絡ませ恋人繋ぎをしてくる。夜の寒さに負けないくらい熱くなった顔も手も噛み締めて、夜の街に向かって足を踏み出した。

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