つられて坪井も大きくため息をついて、空を見上げながらゆっくりと言った。
「お前に悪いと思ってたのは本当なんだよ、これでも」
真衣香のことを除けば、何も、芹那を責め立てに来たわけではない。
簡単に真正面から話せないだろうと思ったから、詳しく調べてきたわけで。
(ただ気持ちがついてこないだけっていうね……)
しかし気持ちがついてこないも何も、真衣香が危険に晒されるかもしれなかった原因。それは結局のところ目をそらし続けた自分にあるのだ。
拳を痛いほどに握りしめた坪井に向けて、芹那は呆れたように肩をすくめ、そして気の抜けた声で答える。
「……え、それさぁ今言っても、真実味ないよ? さすがに」
「そりゃそうだね」と、喉で笑って芹那の隣にゆっくりと座った。
喫煙所の狭いベンチ、二人の間には一人分の距離もなく。
いきなり至近距離に来た坪井に驚いた様子で芹那は肩を揺らした後、反射的に立ち上がろうとした。
「はい、待ってね」
それを阻止するかのよう、坪井は芹那の手をやや乱暴に掴んだ。
「な、何よ!?」と、上擦った声で抗議する様子をじっと見上げて、口を開く。
「今回のことは、さすがにやり過ぎじゃないの? 俺が過去、お前に何をしてたとしてもさ、全く関係ない立花相手に」
冷静に、一定のトーンでそう伝えると芹那はわかりやすく目を逸らす。
「こんな派手なこと繰り返してたんなら、さすがにどっかから誰かの耳に入りそうなもんだけど、それもなかった。つまり過去、ここまでのことはやらかしてないってことだよね」
目を逸らしたまま反応を返してこない芹那。彼女の手首を掴む自分自身の指に、坪井は徐々にと力を込めた。
「俺を陥れたいなら、これまでにいくらでもできただろうし。正直何度考えても今更? だったんだよね」
「……痛いんだけど」
「痛くしてんだよ」
視線が合った、その瞳を強く睨みつける。
もうその目を逸らさせない為に。
「……さっきも言ったけど、俺だけが幸せになってくの耳にして許せなかった?」
「はぁ? 幸せ? だから自惚れないでってば! 私は、別に、坪井くんが焦るとこ見たかっただけだし?」
答えた芹那の瞳には、焦りの色が見える。
「仮にそれが本当だとしてさ。別に10年も待つ必要なかったし、逆を言えば今更チャンスが回ってきたところで中学時代の相手に動こうなんて、普通なら思わないよ。10年何もしなくても済んでたものを、普通なら」
「……私、お喋りすぎる男って好きじゃないんだけど」
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