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「みーずき!!おはよう!」
「あ、陸…。今日は早いんだね。」
高校一年生の夏。朝走り込んできてから学校に駆け込んだ。日暮はいつも通り自習をしてぼーっとしていた。
「夏ってなんか目覚めやすくない?走り込んできた!!」
「今日結構暑いよね。そんなに走って大丈夫?」
大丈夫!!と自信満々に言う。日暮は元気だねと一言発した。
俺と日暮は元々仲が良かった。
中学2年の時にクラスが一緒になり、真面目そうな日暮を見て俺が勉強を教えてもらおうとしたことがきっかけだった。日暮は俺とは対極的な真面目だったが聞き上手だったため、一緒にいて楽しかった。
俺が「一緒の高校に行こう!」と言うと日暮は快く頷いてくれた。それに、クラスが離れた時でも頻繁に連絡を取るようになっていた。
「瑞貴さ、進路どーする?大学とかどこ行く?」
「うーん…陸と同じところがいいな。大人になっても一緒にいたいし。」
「…なんかちょっと照れる」
日暮は毎回俺と一緒がいいと言っていた。基本的に判断を人に委ねがちだった。自分で決めるのが苦手で、進路のこともあまり深く考えていないような感じだった。
だが、高校2年で 日暮は特定の人たちと遊ぶようになってしまった。何も言えなかった。日暮もそういう気持ちになっていたのかもしれない。色んなことが重なって苦しくなったのかもしれない。と思い、日暮のことを放ったらかしにしていた。
そうしていくうちに、俺は違う友達ができ、とうとう日暮と関わる機会をなくしてしまった。連絡先は持っていた。でも、言葉を送る勇気が出なかった。
同じクラスだったから顔は毎日見ていたが、日暮はいつもの澄ました顔をして暇そうにしていた。
「なぁ、日暮…最近どうなの?」
「…それって、陸が俺に話しかけてこなくなったことに関係あること?」
日暮は少し悲しそうだった。不本意だったのだろう。そして、曖昧さは変わっていなかった。
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日暮とは疎遠になり、俺は大学に入学した。相田に会ったのはそこでの講義でだった。
「会沢くん!隣座ってもいいかな?」
第一印象は気さくで優しそうな人だった。ニコニコしていて、心が温まるような笑顔だった。だが、何となく居づらかった。高校卒業当たりで鬱になっていたためだろう。
「もちろん。よく名前知ってたね」
「会沢くん、みんなから人気だからね。あと、身長が近くて話しやすい」
「…身長はちょっと気にしてんのに」
ごめんごめん、と半笑いの悠が言う。元々俺より少し高めの身長の日暮と一緒にいたため、気にして止まなかった。
その後も悠と話す機会が増えた。講義で一緒になることが多かったため、一緒に受けていた。悠の友達もたまに来た。そういうのを遠目で見ていると日暮と過ごした時のことを思い出してしまう。
「あぁーぁ…」
ある日のこと。悠がいつもよりも格段に気を抜かしていた。何かあったのだろうか、と思い聞いてみる。
「悠。ぼーっとしすぎじゃない?」
悠はあぁぁ…と言い、まるで聞いていない。
「悩み事か?楽しそうだな。」
「俺のどこか楽しそうに見えるんだ。」
そう返されて、ふと悠が合コンに誘われていたことを思い出す。きっと上手くいかなかったんだろう。
合コンのことについて聞いてみる。俺も誘えよ、などと心にも思ってないことを口にする。すると、悠は以外な言葉を漏らした。
「日暮なぁ…」
日暮も合コンに居たのだろうか。それとも別人か。もしかすると、この大学にもいるのではないかと僅かな希望をもつ。
「あー、日暮って日暮 瑞貴?」
悠はビクっと反応し、顔を上げる。
「え?!日暮のこと知ってんの?」
まぁ、高校同じだったし、と返して周囲を見渡す。恐らく同じ講義には出ていると考えたが、年を重ねれば容姿も変わる。らしき人はいなかった。
悠は衝撃でフリーズ気味だ。何も考えずにペラペラと口を滑らしていく。そうすると悠は急に俺の声を遮った。
もう聞きたくないわ!!と顔を赤らめている。確実に何かあったのだろう。高校時代の日暮のことを思い出す。そして、自分の予想が当たっていることもほぼほぼ確信できた。
悠の表情を観察する。目は伏し気味で視線を逸らしている。顔は真っ赤。ついでに耳も。右手を自分の右頬に持ってきていて、左腕は落ち着かなそうに見えた。
(あぁ、日暮と一夜を過ごしたのか)
そんな漫画のようなことあるのか、と思うが、悠が分かりやすすぎる。
正直、胸騒ぎがした。友達と話せなくなるのは辛かった。だから、もし日暮と悠が付き合うことになったらと思うと恐ろしかった。
(せっかく、友達が出来たのにな。また、同じような感じで……)
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だからきっと、咄嗟にしてしまったのだろう。
悠は困惑していた。顔を真っ赤にしていて、手は震えている。
「ここ、大学なんだけど……」
「大学じゃなければいいってこと?」
そうじゃないわバカ!!と怒られた。周りはあまり気づいていないようだった。一部の人はこちらを何度も見直している。
「ど、どういうつもり…?急に……」
「…好きだって言ったらどうする?」
好きだ。悠のことは友達として。それに、日暮のことも好きだった。俺にとっては友達だから、恋愛に発展することを何となく恐れている。
きっと、彼らの気持ちを理解することは出来ても、彼らを受け入れることは出来ない。人の気持ちを優先すればするほど自分の気持ちは汚れていって、自分の気持ちを優先すればするほど自分が汚れていくのだろう。
「好き…って本当に?」
「……ごめん。忘れて」
俺はどうすることも出来なかった。そのまま講義室を出て、壁に背中をつけ、座り込む。
大きなため息が出る。日暮ともちゃんと話したい。ちゃんと、仲直りしたい。
「陸…?どうしたの、こんなところに座り込んで」
顔を上げる。そこに居たのは間違えなく日暮だった。見た目は変わっているが、雰囲気や綺麗な顔立ちは変わっていない。
もう講義始まるよ、と心配している。
今の日暮とならちゃんと話し合えるだろうか。