テラーノベル
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玄関の扉を通され、立ち上がっていた3人に出迎えられたのは、薫と悠真だった。
「あれ、三崎ご夫妻まで」
悠真は凝り固まっていた表情を綻ばせ、からかい半分で声をかける。
4人でしていた話は聞いていなかった筈なのに、なぜか「ご夫妻」が示唆しているように思えてしまい、翔がにやにやとしてしまう。
ミサキは不機嫌を顕にし、唇を尖らせた。
婚姻届じゃんけんの時、悠真が三崎に耳打ちしていたのが気になり後日、確認したミサキは驚いた。
『気合いを入れる本気の時、パーが出ることが多いです。負けても一回勝負なんて言ってません』
自分の気付いていない癖を知り、非常にズルく腹立たしい。
「大月さんは?」
沙織の一言に一瞬で緊張感が走る。
「あとは待つしかない」
電子タバコを咥え、眉間の皺を寄せた。
「犯人は捕まったよ。保護に向かってくれてると思う。無事をただ願いながら帰ってくるのを待つだけ、かな、、」
ほぉ、、っ、と、安堵の息がそれぞれ出た。
「悪いが送ってくれ、もう終電無ぇしタクシー高ぇんだよ。あー、早く寝てぇ」
「三崎カーに乗ってください。全員送りますよー。大きいの買ったんですよー。皆でキャンプいいなーと思って、和人くんに運転してもらおうと思ってみんな運転できるようにしてますし」
「用意周到っすね」
キャンプいいなー。花火とかしたいっすね。と続ける。
電気を消し、消すの早い!と怒られ、足音を出来るだけ消しつつ、悠真が鍵をかけた。
薫に鍵を渡そうとしたが、首を振られ、自分の家の鍵にキーホルダーの付いていない鍵を合わせて付け、ポケットに突っ込んだ。
近くの公園に車を停めているからと、取りに戻った夫婦の背中を見守りつつ、悠真は沙織の隣へ立った。
「ありがとな、待っててくれて。1人で待たせてごめん」
ちらっと悠真を横目で見上げ、口を開き、真っ暗な道に視線を戻す。
「お疲れ様」
この一言で悠真には全部伝わると思った。
悠真は眉尻を下げ、たくさんの感情で滲んでしまった表情を笑みで誤魔化し、沙織の横顔を見つめた。
「大津も」
同意のように告げられた返しも。
色々な言葉が含まれているのが沙織は通じた。
ありがとう。だったらいいなとこっそり思い、深い夜の空気へ身を預けた。
三崎の運転する車に乗り、自宅へと帰る。
約束はしていないが、工事と模様替えされた店へみんな集まるだろうと確信して。
月が照らし、優しい光が心地よい。
『犯人』はおろか、詳細は誰も聞いてこなかった。気を遣わせたな、と悠真は思ったが、今は甘えることにした。
明日、全部はなそう。
自分のアパートへ到着し、お礼を言って車の姿が見えなくなるまで見送り、2つになった鍵の1つを鍵穴に差し込み、鍵を開け家に入る。
灯りを点け、崩れるように全身をソファへ預けた。
やっと、帰ってきた。
まだ、詩音の無事を確かめていないが、ようやく一段落付いたことに一安心した。
散らばったタバコを見つめ、重い瞼を重力に逆らわないことにした。
指1つ動かせる気がしない。
「しおん、、」
静かに眠りに落ちていった。
自分を褒めるのも、労るのも、後にしよう。
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コメント
1件
いやあ、第17話、読み終わりました。ひとまずの安堵感がじんわり沁みますね。悠真と沙織の「お疲れ様」「大津も」のやり取りが、言葉以上に通じ合ってる感じがしてすごく好きです。三崎の「キャンプいいなー」で場の空気が和むのも上手い。悠真がやっと帰ってきて、鍵を2つに増やしてるところも、この先の日常を感じさせて温かい。詩音の無事がまだ確定してないもどかしさも残しつつ、ひと区切りついた余韻が心地よかったです。