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テラーノベル(Teller Novel)
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仕事の疲労とそれ以外の理由からあまり飲むつもりがなかった為に愛車で市内のパブに向かった慶一朗だったが、リアムが運転するとは思わず、助手席で呆気に取られていた。

ビールジョッキとグラス二杯程度のアルコールではリアムには影響があまり無いようだったが、飲酒検問に引っかかれば面倒だぞと小さく呟くと、その辺はちゃんと考えていると太い笑みを浮かべられ、その横顔に何も言えなくなってしまう。

このまま家に帰るのだろうが、帰った後自分達はどうなるのだろうか。

ハーバーブリッジの下で互いの思いを告白し受け止めた事から付き合うことになるのだろうが、慶一朗の経験上、好きと告白されたとしても特に以前と何かが変わるような事はなかった。

ケネスに先日指摘されたように、誰かと付き合っている時でも他の誰かと遊んでいたし、明け透けに言えばセフレと関係を持っていた。

今は友人の彼はそれを渋々認めていた節があるが、今己の車を紅潮した顔で運転しているリアムは認めてくれるのだろうか。

それよりも、自分達は世間一般でいう恋人同士の関係になるのだろうか。

傍から見れば何をおかしなことを考えていると言いたくなるようなことを真剣に悩んでいる慶一朗は、一人で考えても仕方がないと溜息を吐き、リアムの名を呼ぶ。

「・・・リアム、その、一つ聞いても良いか?」

「何だ?」

随分と遠慮がちに聞いてくると苦笑しつつ視線だけを横に向けてくるリアムに同じように苦笑し、俺達これからどうするんだと不安を滲ませた声で問いかければ、問われた言葉の意味を理解するのに時間が掛かっているようにリアムの眉が寄せられる。

「逆に質問させてくれ、ケイ。それは、どういう意味だ?」

「いや、俺はお前が・・・好き、だし・・・お前も好きだと言ってくれた」

「うん、言ったな。俺はお前が好きだ、ケイ」

「・・・ダン、ケ。・・・その、俺とセックスしたいと、思うのか?」

冷静になれば何を聞いていると呆れてしまうが、この時の慶一朗にとっては当然の疑問で、それを問いかけるとリアムが何を言っているんだと言いたげな顔で見つめてくる。

「前を見ろ!」

「・・・ケイ、ちょっとゆっくり話をしてもいいか?」

運転している時に衝撃的な言葉が聞こえてきそうで怖いと、何かに怯えるような顔で路肩に車を停めたリアムの言葉に頷いた慶一朗は、シートに腕をついて覆いかぶさる様に身を寄せられて鼓動を跳ねさせる。

「・・・リアム?」

「今まで男女のどちらとも付き合ってきた?」

「そうだな」

その時々の彼氏彼女たちは何人かいるがと苦笑しつつ、狭い車内でヘイゼルの双眸に見下ろされて今まで感じたことがないような鼓動の速さに驚いてしまう。

「いつもデートはどうしていた?」

「デート? パブで飲んでホテルに行くか相手の部屋に行くぐらいか?」

ぼんやりと霞む過去の光景を思い出そうと上目遣いになるが、ケネスだけは違ったなと自然と呟き、彼とは休日になれば呼び出されていたことも思い出して自然と苦い表情になってしまう。

今振り返れば彼との関係は本当に歪なもので、総一朗が来なければ今頃どうなっていたかわからなかった。

そんな歪な関係だったことを思い出した慶一朗だったが、シートに手をついて見下ろしていたはずのヘイゼルの双眸が一度伏せられた後、やんわりと頭を抱え込まれるように抱きしめられる。

「今、すげぇ緊張してる。分かるか?」

珍しいリアムのぞんざいな言葉遣いに驚きつつも、抱きしめられる事で伝わってくる鼓動の速さに気付き、どうしてそんなに緊張しているんだと苦笑しつつ問いかければ、好きな人とセックスできるとなれば緊張するし嬉しいだろうとくぐもった声で返されて瞬きをする。

「そう、なのか・・・?」

「・・・今まで好きな人とセックスした事はないか?」

信じられないと言いたげな声に瞬間的に羞恥を感じ、そんな事知らないと叫ぶと、そうだったなと何かを思い出した声がし、頬にキスされる。

「好きになった人はいないって言ってたな」

「・・・」

今まで自分から好きになった人などいない、いつも相手から求められた結果付き合って別れてきたと、不意に芽生えた情けなさから肩を揺らして伝えると、目尻と口の端に優しいキスが降ってくる。

「・・・そうか。じゃあ好きな相手とのセックスは初めてか」

何だろう、すげぇ嬉しいと嬉しさを顔中に広げている事が簡単に想像できる声で囁かれ、感じたことがない奇妙な胸のザワツキを覚えた慶一朗は、広い背中に小さく震える手を回してシャツを握りしめる。

リアムの言葉通り、今まで付き合ってきた恋人-と呼べる関係かどうかももはや怪しい-達とのセックスは、ただ持て余した熱を解消するような、二人でいるのだからそれが当たり前のように行っていただけで、そこに愛だの何だのが介在する余地などなかった。

ただ、刹那的に抱き合い、熱が消えると同時にその相手に対しても感じていたものも消え去っていたのだとリアムの言葉から自覚した慶一朗は、そんな彼らと少しだけ違ったケネスとの関係が忘れられない理由にも気付き、あの時身体が覚えてしまった恐怖が引きずり出されたように感じ、自然と体を震わせる。

その震えが伝わったのか、己の言動が恐怖を与えたのかと心配そうに問われてそうじゃないと小さな声で否定をした慶一朗は、リアムの言動を振り返り、情けないところばかり見せていても呆れたり笑ったりはせずにただ真正面からそれを受け止めて受け入れてくれていた事を思い出し、彼とは違う、同じようにならないと己に言い聞かせる。

「─────リアム」

このままが良いと、名を呼んだ後にこのままが良いと繰り返し、双子の兄以外に見せたことがない甘えるような顔を自然と見せた慶一朗の耳に、嬉しそうなうんという短い返事が流れ込み、全身から力が抜けるような安心感を覚えてその腕に全てを預けるのだった。



リアムの部屋のリビングは、先週末に寝込んでしまった理由が再確認出来るほど居心地が良くて、借りたグレーのバスローブの長過ぎる袖をひらひらとさせながらソファに腰をおろし、麻のカバーが掛かっている大きめのクッションを抱き寄せて膝を抱える。

ソファの下には帰りの道中でドラッグストアに寄り道をしてもらって購入したものがあったが、リアムにサイズを確認した時、慶一朗も使った事のあるブランドの最大のものをと言われて絶句したのだ。

それを無造作に突っ込んである紙袋を見下ろし、濡れたままの前髪をかきあげた慶一朗は、キッチンの壁の向こうから愛嬌のある顔がひょっこりと現れ、ビールを飲むかと問いかけてきた為、素直に頷いて先に礼を言う。

慶一朗より先に出ていたはずのリアムがキッチンで何をしていたのかは不明だが、ビールのボトルを両手に戻ってきたかと思うと、膝を抱えてソファで座る慶一朗に何とも言えない溜息をひとつ零す。

「どうした?」

「・・・バスローブ、大きすぎたな」

「そうか?」

お前のものだから大きくて当たり前だけど、着心地が良いと笑って袖を折った慶一朗は、差し出されるボトルを受け取って口を付け、風呂上がりの乾いた喉を潤す。

「・・・美味いな」

「そうだな」

市内のパブでそれなりに飲んで食べたはずだが、やはり自宅で飲むのも美味いと笑う慶一朗に釣られてリアムも笑みを浮かべるが、慶一朗の横ではなくその前の床にクッションを置いて腰を下ろし、ソファの座面に腕を突いて顎を支える。

「リアム?」

「ん?」

ソファの上と下の少しの距離を取って顔を見合わせた二人だったが、慶一朗の疑問形にリアムが首を傾げて先を促すものの、どちらからも言葉が出てこず、奇妙な沈黙が生まれてしまう。

「・・・このバスローブ、本当に肌触りが良いな」

お前が許してくれるのならここにいるときはずっとこれを着ていたいなと、何か話をしないと落ち着かない思いから慶一朗が折り曲げた袖を手を振って伸ばすと、伸びた袖に頬を押し当てて満足そうに笑みを浮かべる。

その笑顔がリアムに何をもたらすかなど想像出来ない顔で気持ち良いと素直な感想を口にする慶一朗の前、唾を飲み込んだリアムがボトルを静かにテーブルに置き、気に入ったのなら着ていれば良いと頷くが、伸び上がって慶一朗の耳に口を寄せ、でも今はそれを脱がせたいと囁き、慶一朗の目を見開かせる。

「リアム・・・っ」

「ダメか?」

帰る途中に立ち寄ったドラッグストアで買った物やここでシャワーを使ったことは、この後の行為を許してくれているからだろうと目を細めつつダメかと問いかけたリアムに慶一朗が短く息を飲んだ後、今更取り繕うつもりも拒絶するつもりもなかった為、顔が見えないようにハニーブロンド髪に自ら抱きつく。

「────ダメじゃ、ない」

「ダンケ、ケイ」

流石に今ここでダメだと言われると辛いと苦笑しつつ慶一朗の身体を包んでいるバスローブごと抱きしめたリアムは、前言通りそれを脱がせる為に腰の上で括られている紐を解き、少し上気している肌を露わにさせる。

「リアム、ソファが汚れる・・・っ」

バスローブを脱がされ、背中を撫でられてぞくりとする感覚に身体を震わせながら慶一朗が制止の声を挙げるが、バスローブがあるから大丈夫というリアムの奇妙に切羽詰まった声に、男とのセックスは初めてなのに興奮しているのかとの疑問を覚え、リアムの肩に両手を回しながらそっと名を呼ぶと、ヘイゼルの双眸に見た事がない強さと優しさとが入り交じった色が浮かび、あっという間に本能のそれへと取って代わられる。

「────抱きたいか?」

リアムにしてみれば答えは一つの問いかけだったが、慶一朗にとっては心の奥底にある感情へ一つの道筋を与えるもので、ひっそりと問い掛ければ、言葉よりも雄弁な双眸に見つめられ、その眼光の強さに負けたように目を閉じる。

男というよりはオスの本能を前面に押し出した貌を見た時、リアムと過去に付き合った女性達もこの貌を見たのだろうかという疑問が芽生え、瞬間的に胸の奥にチリチリした痛みが生まれる。

その痛みを最近経験したと気付き、リアムとの付き合いを断った時に感じたことも思い出し、今更どうしようもない過去に存在した彼女達に嫉妬した事に気付いた慶一朗は、ゆっくりと目を開けて意外な近さで見下ろしてくるヘイゼルの双眸を抱きしめようと両手を上げて頬を包むと、軽く驚く愛嬌のある顔に艶然と笑いかける。

「リアム────来い」

その言葉と笑みにリアムが逆らえるはずもなく、貪るように慶一朗にキスをするとしっかりとそれを受け止めてリアムの裸の背中を抱き締めるように両手を回し、ソファに背中から倒れこむのだった。




一度熱を吐き出した気怠い身体を抱き上げられて先週は一人で寝ていた広いベッドに運ばれた慶一朗は、上がる息を何とか整えてベッドに座ると、リアムがその横に腰を下ろした為、顎でベッドヘッドにもたれ掛かれと伝えると、訝りつつも慶一朗の望みを叶えてくれる。

感謝の言葉を伝える代わりに小さな音を立てて唇にキスをし、尻を上げろと笑み交じりに伝えれば、今度もその通りにしてくれた為、窮屈そうに下着の中に納まっているものを引っ張り出すようにリアムの下着を脱がせる。

「・・・・・・」

ドラッグストアでスキンを買った時に想像していたが、慶一朗の目の前に姿を見せたものは、はっきり言って今まで経験したことのない大きさで、大丈夫だろうかと一抹の不安を感じつつ上目遣いにリアムを見ると、自慢しているような申し訳ないような顔で見つめられてしまう。

それが同じ男としてのプライドを傷付けるものだったが、目の前にある現実を認めないわけにはいかず、複雑な感情を込めつつドイツ語でクソッタレと呟くと、リアムの手が頬を宥めるように撫でる。

その手に噛みつきたいのを堪えながら今やすっかり形を変えたものに両手を添えた慶一朗は、先ほどと同じように小さな濡れた音を立てて先端にキスをすると、そのまま口に咥えるが、想像以上の大きさと長さに喉の奥でくぐもった声を上げてしまう。

「・・・ぐ、・・・っ」

気持ち良いなと、慶一朗の髪を撫でながら目を細めたリアムは、予想していた以上の気持ち良さにぞくりと背筋を震わせ、今までの彼女達とのセックスを思い出してしまう。

彼女達は柔らかくて優しく時には激しく包み込んでくれていたが、今、苦しそうな顔になりながらも必死に己のものを咥える慶一朗と較べれば何処か温度の低さがあった。

だが、慶一朗の口の中は想像以上に熱くて、それがモノに添えられている掌や撫でている頬からも伝わってくる事に気付き、いずれこれを突っ込む場所を想像した瞬間、我慢出来ない快感が背筋を駆け上がり、思わず身体を震わせてしまう。

「ん・・・っ!!」

それがダイレクトに伝わったらしく、慶一朗が苦しそうな声を上げて口から吐き出した後、上目遣いに睨んでくる。

「何を考えた・・・?」

「・・・お前の中。きっと熱くて気持ち良いんだろうなって」

喉の奥を突かれて危うくえづきそうになった慶一朗が顎を伝う唾液を手の甲で拭きながら問いかけ、リアムの返事に呆気に取られてしまうが、そういう訳で気持ちよくしてくれてありがとう、今度は俺だと朗らかにリアムに宣言されて気がつけばシーツに背中を沈めてしまう。

「────!!」

さっきソファでも口でイカされた、もう良いと目尻を赤くしながら叫ぶ慶一朗にリアムがそうかと首を傾げると、リビングから持ってきた袋からジェルを取り出して手に塗りつけると、たった今想像した中に指を入れる為にぐっと当てがい、慶一朗がびくりと肩を揺らすものの、拒絶することはなく、ジェルの滑りを借りた指が中に入る。

「・・・ん、・・・っ!」

慶一朗の微かな声に脳味噌が煽られてしまうが、予想通りの熱さにリアムの指が奥に進み、その動きに合わせて白い身体がゆらりと揺れる。

顔を背けてきつく眉を寄せる頬にキスをし、紅潮する顔から快感を得ている事に気付いたリアムがもう一本指を押し込むと、苦痛と快感が綯い交ぜになった様な顔で慶一朗がシーツを握りしめる。

今まで男女のどちらとも付き合ったことがあると言っていたように、指を入れても拒絶されない事から慣れているのだと理解出来るが、慶一朗の身体を慣れさせた男の事を考えた瞬間、網膜が焼け付くのではないかと思うような強烈な光を目の奥で感じ、嫉妬したことにも気付く。

それは、慶一朗が感じたものと同じだったが、そうとは気付かずに歯を噛み締めそうになったリアムは、その嫉妬を少しでも消そうと指を動かしながら慶一朗にキスをする。

噛みつくようなキスの合間に零れ落ちる苦しそうな息に抑えきれない思いを自覚してしまうリアムだったが、頭を抱くように手を回されて抱き寄せられたことに気付き、良く見ればピアス穴が残る耳朶を舐めつつ慶一朗の名を呼ぶ。

「ケイ」

「・・・な、んだ・・・?」

「気持ち良いか?」

今までお前がセックスしてきた男と比べてどうだと問いかけそうになるのを全力で堪えたリアムの耳に、胸が苦しいと快感混じりの声が流れ込み、その顔を見下ろすように距離を取ると、己の状態がわかっていない、それがやけに恥ずかしいと口早に言いながら胸が苦しいんだと繰り返され、泣きそうな顔で見つめられて鼓動を早めてしまう。

「リアム・・・っ・・・苦しい・・・っ」

今までこんな苦しさを感じた事はない、訳が分からないと懇願する慶一朗の前髪をかきあげて姿を見せた額にキスをしたリアムは、額を重ねて苦しいかと問いかけ、背中に回った手が握り締められたことに気付く。

「・・・俺だけ見ていろ、ケイ」

そうすればその苦しさは無くなるからと縋るような目にキスをし、慌ててスキンをつけようとするが、背中に回っていた手が手に重なりゆっくりと首が左右に振られる。

「・・・良いのか?」

「良い・・・お前、なら・・・・・・お前、だけ、だ」

過去に数えられないほどセックスをしてきたが、誰一人としてスキンを使わないセックスはさせなかったと小さな自慢のように笑った慶一朗だったが、重ねた手を今度はリアムに向けて伸ばし、ゆっくりと指を折り曲げて行く。

そこから何を求めているのかを察したリアムは、感謝の言葉を直接慶一朗の口内にキスとともに届け、ジェルを自身に塗って指の代わりに己のものをあてがう。

「・・・・・・は・・・っ・・・!」

慶一朗の口から緊張の吐息が溢れ、窮屈な姿勢を取らせてしまう事を申し訳ないと思う余裕もなく、ぐっと力を込めて中に押し入ると、慶一朗の色素の薄い双眸が限界まで見開かれる。

「あ・・・ぐ、ぅ・・・っ・・・!」

経験した事のない大きさと熱さに中を圧迫されて喉が詰まったような声を上げる慶一朗に我慢出来ない事を小さく告げて腰を押し付ければ、さっきリアムに向けて伸ばした手が助けを求めるようにシーツの上を彷徨い、枕の端にたどり着いてきつく握りしめる。

「っ・・・ん、ぁ・・・」

リアムの動きが止まった事に微かな声が溢れるが、動くぞと囁きながら身体を引き寄せると、慶一朗の身体が小刻みに震える。

どうしてもどちらかに負担をかけてしまう関係だが、それを最小のものにする方法をまだ見つけられなかったリアムは、白い足を肩で押さえつけながら突き上げれば、身体の下から悲鳴じみた嬌声が上がる。

その声に煽られるように何度も腰をぶつけ中を蹂躙するように抱けば、慶一朗の口から堪える事をしなくなった高い声が流れ出す。

「あ・・・あぁあ・・・・・・っ・・・」

受け入れてくれる中も、痛みか快感に震える身体も、堪えられずに流れ出す声も何もかもが想像を超えていて、彼女と別れて以来との理由を差し引いても信じられないほど気持ち良くて、初めてのセックスを経験した時のことを思い出してしまう。

あの頃から回数を重ねて余裕を持てるようになっていたはずなのにと、振り返れば呆れてしまう程の余裕のなさから慶一朗の身体を突き上げると苦しそうな声が聞こえてくる。

その声がリアムの抑えきれない思いにストップをかけたのか、我に返った顔で慶一朗を見下ろすと、荒い息を吐き肩を上下させながらぼんやりと見つめられ、一瞬で不安を感じて頬を撫でると、その手にゆるゆると持ち上がった手が重ねられ、己の手と頬でリアムの手を挟み込むように顔が寄せられる。

「・・・良い、から」

今気持ち良さや好き以外の感情を覚えたのなら忘れてしまえと、リアムの顔ではなく手に向けて囁きかけるように笑みを浮かべた慶一朗の頬に感謝のキスをし、少しでも負担を減らせるようにと白い身体を伏せさせると、その背中に覆い被さるようにゆっくりと中に入っていく。

シーツを握りしめる手に手を重ね、快感に赤く染まる目尻にキスをすると、綺麗な目が先を許すように見つめてきて、感謝しつつさっきよりも激しく腰をぶつけると、顎が上がって熱い息がシーツに落ちる。

重ねた手も中もどこもかしこもさっきより熱く感じ、その熱の中にいつまでも居続けたい気持ちと、身体の奥底から湧き上がる快感を吐き出したい気持ちから緩急をつけた動きで白い体を抱き、他の誰にも聞かせたくないと強く思う甘く熱のこもる声に煽られてしまう。

汗が滲む背中にキスをし、シーツを握る手が少しだけ残念に感じて耳に口を寄せ、シーツよりも俺を抱いて欲しいと強請ってみると、快感に染まる端正な顔が振り仰ぎ、仕方がないと言いたげな顔で小さく笑みを浮かべてリアムの唇をぺろりと舐める。

そして、重ねていた手の下で手がひっくり返った後、掌が重ねられる。

己のわがままを叶えてくれる優しい手にキスをし、不意に強く芽生えた思いから片手で腰を引き寄せると、白い喉が晒され、抱き寄せた腰が快感に震える。

このまま、気持ち良さだけを感じて欲しい一心で中をかき混ぜ突き上げ、重ねた手に力が入ったことに気付いた直後、慶一朗の全身が粟立ち、さっきはソファで聞いた途切れ途切れの声が聞こえてくる。

肩を震わせる慶一朗の背中やうなじ、重ねた手に何度もキスをし、気持ち良かったかと問いかけると、弛緩しきった目で見つめられ、それだけで一気に持っていかれそうになる。

それと同時に、今の顔もまた今まで付き合ってきた誰かに見せてきたのだろうかという嫉妬が芽生えるが、身体を可能な限り捻り、リアムの頭を抱き寄せようと腕を回されて驚くと、濡れた唇がゆっくりと言葉を紡ぐ。

「・・・・・・Ich mag dich.,リ、アム・・・」

その告白は掠れていたが、聞き間違うことのない母国語での告白で、好きの一言を英語で中々言えなかった慶一朗のそれに咄嗟に返事が出来なかったリアムだったが、己の中の嫉妬を見透かされたような気がし、謝罪の代わりに顎を支えてキスをする。

「・・・少しだけ、我慢してくれ、ケイ」

先に快感の頂点に立った身体にはキツイかもしれないが堪えてくれと囁き、背中を再度シーツに沈めると、全てを許してくれるような笑みを浮かべた慶一朗が両手をリアムに向けて伸ばし、許すだけではなくしっかりと受け止めてやると態度で教えてくれる。

「ダンケ、ケイ────俺も、好きだ」

お前の兄に問われた時は明確に答えらなかったが、多分今なら答えられると額を重ねて告白した後、全身で受け止めてくれる慶一朗の紅潮する顔を見下ろしながら少し遅れてリアムも快感の頂点に向かうのだった。



体内に溜まっていた熱を全て吐き出した満足の顔で眠る慶一朗の頭の下に腕を差し入れたリアムは、無理をさせたのではないかとの思いと、同じく満足した気持ちの狭間で欠伸をする。

初めて慶一朗の存在を知ったのは、この街に引っ越して来たその日だった。

商店街を歩いている時に駐車された車の中で楽しそうな顔で口を開閉させている横顔が印象的で、−今思えばきっとあれは双子の兄と電話でもしていたのだろう−その後、何気なく入ったベーカリーでぶつかりそうになり、家の前での再会を果たすという、今思えば運命かと言いたくなるような出会いだったが、極め付けは職場も同じという現実だった。

そこから友人として急速に親しくなっていく中、決して忘れられない、初めて目にしたものとは真逆の笑顔を見てしまい、どうしてそんな顔をするんだと胸が苦しくなったのだ。

そんな笑顔を浮かべる必要はない、無理に笑うなとの気持ちがいつしか、隣にいれば、一緒にいれば初めて見た心からの笑顔を見せてくれるだろうか、見せて欲しいとの願望へと成長したのだ。

そのリアムの思いを当初慶一朗は拒絶していたが、一人の被虐待児の存在が二人の関係を大きく変化させたのだ。

その子を救えなかったのは痛ましい悔しい事だったが、慶一朗との関係を変えてくれた事に感謝しつつもう一度欠伸をしたリアムは、腕の中から聞こえてくる小さな寝息に目を閉じ、明日目を覚ました時に笑顔が見られれば良いと願いつつ、慶一朗に遅れて眠りに就くのだった。


It’s a Wonderful Life.

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