テラーノベル
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🎹→「」
⚡️→『』
🎹→高校生、⚡️→大学生
⚡️視点
「あきらさん、いつになったら僕と付き合ってくれるんですか」
思わず咳き込んだ。
街灯がつき始めた帰り道。
自販機で各々の好きなジュースを買い、道中の公園で休憩していた時だった。
嚥下の中途で急にピヤノがぶっ込んできたせいで、数十秒の間咳き込み続けてしまった。
『ぇ゛ほっ…ゲホっ…え、?なに?』
「だから、いつ僕と付き合ってくれるんですか」
『げほ、っ……な、なんで?』
「だってやっと両想いになれたのに、まだ待たされるんですか」
幼い頃、俺がこの街に越してきた時から俺たちは一緒だった。
ピヤノは小学校の頃から俺に惚れてたようで、好き好き言われながら育った。
中学生の頃までは軽くあしらっていたが、ここ数年は好きの重みが変わってきていた。
俺も自覚のないまま恋心が育ち切っていて、数日前に告白した。
でも、まだ付き合えない。
ピヤノは高校生。
受験も近づいてきている。
俺と付き合ったら、ピヤノの未来に支障をきたしてしまう。
要するに、今は友達以上恋人未満の少し先のような状態だ。
「僕ももう子供じゃないんです」
「あきらさんのこと守ってあげられますよ」
硝子細工のような目が俺を捉えている。
そこに他意はなく、俺への純粋な愛を映していた。
『……い、やさ……でも、』
『ピヤノ高校生で、俺は大学生じゃん』
『高校生に手出すの、は…色々とまずいし…』
「でも、あきらさんは僕のこと好きなんですよね」
『……好き…好きだけど…』
「……はぁ、」
ピヤノが軽くため息をついたその時、頬を掴まれ顔を至近距離に寄せられた。
『へっぁ、っ!?』
相変わらず整った顔をしている。
数秒沈黙が続き、俺の顔が熱くなっていくのがわかる。
「じゃあ今できる既成事実、作っちゃいますか」
「あきらさんのファーストキス、僕が貰いましょうか?」
「誰も知らないふたりだけの約束です」
「僕が大人になるまで、あきらさんが誰にも盗られないように」
「病める時も健やかなる時も、お互いのことを想い続けます、って」
息が感じられるほど顔の距離が縮まる。
唇が触れそうになる。
「…………なにするんれふか」
『っっっ、…キスは、もっとだめ』
手を口の前に出し、すんでのところで止める。
一瞬ピヤノが寂しそうな顔をしたせいで左胸が少し痛くなる。
でも、これはピヤノのためでも、俺のためでもあるから。
『…付き合うのも、キスも、…それ以上のことも、』
『ピヤノが高校卒業するまでおあずけね』
「…手繋ぐのはいいですか」
『え、ん〜……ふたりきりなら…』
「!やったぁ」
早速と言わんばかりに手に触れてくる。
「じゃああきらさん、卒業式の日に迎えに来てくださいね」
「そのときにお付き合い申し込みます」
『…ちゃんと待てる?』
「もちろんですよ」
「もう今までずっとあきらさんのこと追いかけてきたんです」
「あと1年と少しなんて、ほんのちょっとです」
「僕ちゃんといい子で待ってますよ」
『…うん』
『じゃあさ、…はい、』
左手を差し出す。
『指切りげんまんしよ 』
「…!はい!」
嬉しそうに小指を差し出してきた。
『あ、小指じゃなくて』
「?」
『こっち』
左手の薬指同士を絡ませる。
「…え」
「なんで薬指なんですか」
『あ、え…いやなんか、こっちの方がそれっぽいかなって』
「…ふふ、っ」
『なんで笑うの』
「いや、…まだ付き合ってもないのに、プロポーズされたかと思って」
『え………ふ、ふへっ…まあ確かに?』
「ふふふっ……じゃあ、」
「僕が大学卒業したら結婚申し込んじゃおうかな?」
『…まあ、いいんじゃない』
指切りげんまん、 嘘ついたら針千本のーます。
形はないけど、ふたりだけが分かる。
茜色に染まった空の下で交わした、
誰も知らない、俺たちだけの約束。
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